浅はか

「絵理とパブロ兄ちゃんが結婚しても何にも変わらないんだね」

孝司(17歳)が面白くなさそうに言った。

「そうだね。はい、次のページやってね」

孝司は義兄のパブロに勉強を教えてもらっている所だった。

「うん」


孝司の姉の絵理(26歳)とパブロ(28歳)は、先月結婚をした。

もともと、絵理とパブロと孝司は、三人暮らしをしていたので結婚後も変わらずに三人で暮らしている。


「あーあ。一人暮らししたいなぁ」

「んー…。憧れるよね、一人暮らし」

パブロは丸付けをしながら、適当に相槌をうつ。

「じゃ、してもいい?」

「やだよ」

「だめじゃなくて、やなの?」

「うん」

「えー」

「夜、突然倒れたらどうすんの?」

「…そんな事ないと思うけど」

「じゃ、火を消し忘れて火事になったら?」「うちのコンロ、自動で消えるようになってなかったっけ?」

「じゃ、台風の日…、何か飛んできて…、直撃したら?」

「…もう、そんな事ないよ…」


孝司が11歳の頃、強風で大きな看板が外れ、それが孝司に直撃する事故があった。

孝司は、パブロが魔法で手術をしていなければ、確実に死んでいた。

パブロも絵理もそのことが、トラウマになっている。


「…そうだよね」

「そうだよ。心配しすぎ」

「そうだよね…」

「義弟離れしなよ…」

「…義弟離れね」

「そうだよ」


「でもさ、孝司、医者になるんでしょ?」

「俺等のサポートあった方がよくない?結構厳しそうだよね」

「パブロ兄ちゃんは厳しかった?」

「すっごいね。でも、人間界と魔法界は違うんじゃない?どっちが大変かは知らないけど」

「そうだよね」

「大学卒業まで、一緒に暮らしたら?」

「…うーん」

「俺は一緒に暮したいけどね。でも、孝司がどうしてもって言うなら、しょうがないよね」

「そうなの?」

孝司の顔が晴れた。


「せっかく2度目にもらった命なんだから、自分のやりたいようにやったらいいと思う」

「うん。ありがとう」

「うん」

「じゃ、絵理説得して」

「やだよ」

「なんでー?」

「自分でやりなよ。子供じゃないんだから」

「んー…」

「できないなら、一緒にいようよ」

「んー」

「はい」

「ん、何?」

「全問正解。相変わらず、すごいね」

パブロはドリルを孝司に返した。

「んー…」


「…彼女?」

「え」

「連れ込みたいの?」

「…ん」

「別に、言ってくれたら出かけるけど」

「絵理に気づかれずこっそりやってくれるの?」

「うん」

「じゃ…。お願いします」

「うん。じゃ、一人暮らししなくていい?」「…うん」

「浅はかだな」

「うるせ」

孝司の顔が赤くなっていた。

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彼は 魔法使いで、意地悪で、好きな人 …エピソード0 Nobuyuki @tutiyanobuyuki

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