深い…

「あー…、久しぶりー…」

パブロは1年ぶりに谷川家に帰って来た。

「おかえり」

絵理と孝司は声を揃えて言った。


パブロはドスンと荷物をおろして、ソファに座った。

「絵理、こっち、来て」

パブロは甘えた声を出した。

「何?」


「俺あっち行ってる」

空気を読んだ孝司が自分の部屋にひっこんだ。


「…もう、孝司に気を使わせないの」

「いいじゃん」

パブロは自分の隣に座るように、促した。

絵理は、隣に座った。

パブロは、絵理の肩に頭を乗せた。


「勉強大変だった?」

「うん。前よりさらに死ぬ気で勉強してたよ」

「そっか。お疲れ様」

「うん。最後の試験ほど緊張した事はなかったな」

「そうだよね。良かった、合格できて」

「うん。えりは?来年、大学卒業?」

「うん」

「そっか。出会ったの中学生だったの信じられないね」

「そうだよね」


「俺、明日から仕事」

「え!そうなの?」

「うん」

「すごいね」

「ドキドキ」

「そうだよね」

「でも、いっぱい稼ぎたい」

「そうだね」

「孝司を養っていけるようになるのが目標だ」

「フフッ。そっか」


「忙しくなると思う」

「またか」

「ま、前よりはマシだ」

「そっか」

「それに、結婚したら旦那は家にいない方がいいみたいだよ」

「なにそれ」

「結婚してる人が言ってた。休みの日は邪魔者扱いされるって」

「うっそ~」

「俺等、親いないから、よく知らないだけで」

「えー。…何で結婚したんだろ」

「邪魔だって言われた人、ニコニコしながら話してたよ」

「?」

「別に相手の全部が全部好きである必要がないんじゃない?」

「えー」

「あははっ。俺は全部好きだけどね」

サラッというパブロを見て、絵理は赤くなった。

「だからさ。全部は好きじゃなくても、ちゃんと愛はあるんじゃない?」

「そっか」

「深いねー」

「深いね」

「俺の考察」

「え?」

「深いねー」

「ネー」

絵理の気持ちがこもってない返事を聞いてパブロは、デコピンをした。

「痛っ!」

絵理は、おでこを押さえた。

パブロはさらにほっぺたをつまんだ。

「痛いって」

パブロはほっぺをムニムニした。

「もう、やめてよ」

「うるさい」

パブロは絵理の髪の毛をグシャグシャにした。

「やめてよ」

絵理が本気で怒ってパブロを睨みつけた瞬間、パブロは絵理の頭を包み込むように、ギュッと抱きしめた。

「うるさい…」

「……」

絵理もパブロを抱きしめた。

お互い少し顔を見合わてすぐ、キスをした。



「パブロ…。分かりづらい…」

絵理は、パブロを軽く睨んだ。

「…深いから…。絵理には読み取れないの」

「読めるようにしとけ」

「あははっ」

パブロは大きな声で笑った。

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