嬉しすぎて

パブロが家を出てから、約一年後。

「はぁ、早く帰って来ないかなぁ…」

「そうだね」

絵理と孝司は、和美家族の家でご飯をごちそうになって、その帰り道だった。

「孝司、体調大丈夫?」

「大丈夫っ」

普段から、家族にあまりにも聞かれるから、孝司はイライラしていた。

「もう、聞かないで」

「…うーん…」

孝司は絵理を睨みつけた。


「絵理さ、兄ちゃん帰ってきたら結婚すんの?」

「え?!そうなのかなぁ…」

「いつ?」

「知らない」

「なんで?」

「深く話してないもん」

「俺…1人暮らししたいから、すぐに結婚しても大丈夫だよ」

「…私らが、そんなにサクサクと手際よく進められると思う?」

「思わない…」

「ね」


「俺さ、邪魔じゃない?」

「何が?」

「二人の」

絵理は、笑った。

「何だよ。腹立つなぁ」

「私らが、一緒にいたいんだけど」

「そうかな…」

「特にパブロはね」

「…うん」


「ね、コンビニ寄って行っていい?卵なくて…」

「じゃ、アイス買って」

「子供か」

「子供だろ。12歳だぞ」

「子供か」

「ムカつく」


ピンポン

コンビニに入ると、いつもの音がした。

「俺、アイス見てくる」

「うん」

えりは、卵を探す。

「あれ、卵ないのかな…」

「コレ?」

卵を差し出してくれた。

孝司かと思って、ありがとうと言いかけた。「…」


「コレ?」

「え?!…孝司、孝司!!」

「何だよ…。恥ずかしいから人の名前連呼すんな…」

孝司が、角からひょっこり顔を出す。

「え!!!え!なんで?!」

「家行ったら誰もいなかったから、コンビニでも寄ろうかと思って…」

そう言うと、パブロは2人の驚いた顔に、満足そうな笑みを浮かべた。


「ただいま」

「おかえり!」

孝司がパブロに飛びついて言った。

パブロも絵理と孝司を抱きしめた。

「孝司、元気そうだな。良かった」

「元気だよ。…パブロ兄ちゃん背縮んだ?」

「お前が、デカくなりすぎてんだよ」

パブロは笑って孝司の頭を撫でた。

「ちゃんと試験受かったんだね」

「おう。余裕だよ」

「…じゃ、何で一年前落ちたのさ」

「ハハッ」

「…笑い事で済んで良かったね」

「うん、良かった…」

「?」


「絵理?どうかした?」

パブロはずっと黙っている絵理に聞いた。「…どうかした?じゃないよ…、泣いてんだよ…」

「そっか」

「そっかじゃねーよ。ほら、先に2人で家帰ってなよ。俺アイスゆっくり選んで帰るから…」

「…大人…」

「子供だよ。お金。頂戴」

「あ、あぁ、はい…」

絵理は我に帰ったように言った。


「じゃ、後で」

孝司は2人を押して、帰らそうとする。

「孝司、1人じゃ、帰り危ない」

「そこまで子供じゃねーよ。ほらっ行きなよ、面倒くさいんだから」


パブロと絵理は孝司に外に追い出された。

「孝司、大人になったな…」

パブロは感慨深そうに笑った。

「絵理…、ただいま」

パブロは絵理の顔をのぞく。

絵理はパブロに抱きついた。

「お帰り…」

「うん」

「もうずっと、一緒にいられるよ」

「うん」


「絵理…。…こっち見て」

「やだ」

「ハハッ。何で?」

「泣きすぎて鼻水でた…」

「別にいいけど?」

えりは、パブロを叩いた。

えりは急いで鼻を、かんだ。


「あー、1年長かった…」

2人で手を繋いで歩く。

「そうだね」

「俺、来月から医者」

「そうなの?!」

「うん。もう、試験も面接も終わって」

「すごい」

「孝司の手術の評価が高くてね。なんだかね。何がどこに作用するかわかんないね」

「そうだね」

「絵理、医者の奥さんだよ」

パブロはニヤッと笑った。

「……」

「ん?」

「いや、色々な驚きが…」

「あははっ」

「レストランでするみたいな話はどうした」

「ん?」

「面倒くさくなったな…?」

「うん」

絵理は、パブロを殴った。


「俺が今、23歳で、絵理が21?結婚するなら4年後くらい?」

「孝司が大学入ったら」

「そっか…。…ん?そんとき、俺30歳だぞ…」

「遅い?」

「遅い…けど、いっか」

「子供できたら、そん時考えよ」

「お前、すごい事言うな…」


「さっき、孝司が言ってたことなんだけど、俺、邪魔じゃない?って言われて…」

「そうなの?」

「うん。私は、孝司が愛されてる事をちゃんと実感して欲しい…。親いないから、なおさら…」

「うん、実際、大好きだしね」

「パブロなんて、人生ささげたしね」

「ね」


「だからね、今は孝司大事にしたい」

「うん、わかった。じゃ、孝司迎えに行こ」

「うん、あ…」

「何?」

パブロが返事をしたかしないかと言うとき、絵理がパブロにキスをした。

「じゃ、行こ」

絵理がいらずらっぽく笑う。

「お前、すごいな…」

あっけに取られて、パブロも歩きだした。


孝司はまだ、コンビニにいた。

「…何してんの?」

孝司はパブロと絵理を見て、呆れた顔をした。

「まだ、アイス選んでたの?」

「…。だって…。いつ頃顔だしていいかわかんないから…」

孝司があまりにも可愛いので、パブロは、孝司を抱きしめた。

「孝司ー」

「やめろよー。恥ずかしい。もう帰るから!」

「アイスは?」

「買うよ!」

孝司はアイスをバッと選んでレジに行く。


3人での帰り道。

「え、パブロ兄ちゃんって医者になったの?」

「うん」

「俺もそうしようかなぁ…」

「…孝司の好きに生きなよ」

パブロは優しく笑った。

「見放してない?」

孝司も笑って言った。

「孝司がどう生きようと、俺はずっと応援してるから」

「…そっか」

「私もっ」

「絵理はいいや…」

「なんでだよっ!」

3人で笑って帰るこの時が、とても幸せに感じた。

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