病院からの電話

卒業試験の日。

パブロは、早朝、絵理と孝司に見送られて家を出た。


「孝司、私があの事知らないふりしてくれて、ありがとう」

「…俺、気を使いすぎて老けた気がする…」「ごめんね」

「…否定しないの?やっぱ老けてるの?俺」

孝司はげっそりした顔をしている。

「パブロ兄ちゃん帰って来たら、今までの不満ぶちまけるから!」

「うん」

「絶対だかんな!」

「うん」


ピンポン

家のチャイムがなった。

「あ、春乃だわ。行ってくる。」

「春乃ちゃん来るのめずらしいね」

「うん、今日の朝、委員会の仕事あって、起きれるかわかんないから、寄ってもらった。じゃね」

「うん。いってらっしゃい」


「おはよ、孝司」

「…おはよ」

孝司と春乃は並んで歩き出す。

「何?どうかした?」

「疲れた」

「もう?」

春乃は笑った。



学校が終わり、孝司は1人で下校していた。

今日は午後から季節外れの、暴風雪。

9月に雪なんて降ったことがない。

学校帰りだった孝司は、目も開けられずとにかく前に進んでいた。

雪に慣れていないせいで、滑って転んでしまった。思いっきり仰向けで倒れて、頭を打った。

「痛ってー!!」

起き上がろうとしたその時、急な風が吹いてきた。

「うわっ!!」


ガコンッ!!!

何かが外れる音がした。

大きな看板が、支柱から剥がれて舞い上がるのを孝司は見た。




絵理は天気が悪化してしまったので、落ち着くまで駅で、雨宿りをする事にした。

さっき家に電話したが、誰も出なかった。

(孝司はまだ、帰ってないんだ…。大丈夫だといいけど…)



その頃、パブロは、卒業試験を受けていた。

試験は、筆記に加え実技もあり、物体を自在に動かす魔法、睡眠魔法、忘却魔法、回復魔法、防水防火魔法、追跡魔法、瞬間移動…、数えきれないほどある。


試験も中盤に差し掛かった時、

突然、パブロの頭に痛みが走った。

実技試験真っ最中、この痛みは孝司のだと気づいた。

とにかく早く試験を終わらせようとした。

他の生徒の3分の2のスピードで終わらせた。

「おぉ~!さすがパブロ」

「スゲェな」

(孝司に何が起きたんだ?!)


パブロは魔法で孝司の気配を追ったが、次の試験が始まってしまった。

自分の番になると、孝司の気配を追うのと、試験と同時進行でやった。

また、他の生徒より早く終わったが、教授には、焦りがあって粗があると評価された。



絵理は、まだ雨宿りをしていた。

(なかなかやまないな〜)

その時、電話がなった。

(知らない番号…)

絵理は電話にでた。

「谷川孝司さんのご家族でよろしいでしょうか?」

「?はい…」

「こちら、麻布病院なんですが、孝司さんが、事故に合いまして…。大変危険な状態です。来ていただけますか?」

「……」

「もしもし?」

「…あ、はい。すぐ行きます…」


駅前のタクシーに乗って、病院まで急いだ。

「すいません、谷川孝司の家族です」

「お待ちしてました!急いでこちらへ!」


案内されたのは、ICUだった。

絵理には何かわからない機械が、孝司にたくさんつながれていて、体は包帯で巻かれてた。


「意識不明の重体です。内蔵器官などの損傷で、病院に運ばれて来た時点で手の施しようがありませんでした…。生命維持が困難な状態です。…」

もう何も頭に入って来なかった。

孝司の横に立つと、感情が一気に溢れた。


「いやー!!嫌だ!嫌ー!」


その瞬間、パブロの頭にはっきり映像が浮かんだ。

孝司の事故、医師の判断、絵理の悲痛な叫び。


残る試験は、一つだった。


パブロは、何も迷わず、病院に瞬間移動した。


「孝司!」

パブロは、走ってやってきた。

絵理が、孝司の横で声を出して泣いていた。

パブロに気づいた絵理は、パブロに抱きついた。

「孝司が!孝司が!」

取り乱して、言葉もうまく出て来なかった。


「大丈夫」

絵理の頭に手をやると、絵理はスッと眠りについた。


「俺が治す」


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