涙
東大、魔法学科。一週間の合宿も後半戦。
合宿の中で一番きつい、魔法の実技の授業の後は、パブロも、他の生徒も疲れきっていた。
「…レイは平気そうだね」
パブロは休憩中に、話かけた。
「俺は、一週間持つように、飛ばし過ぎないようにしてたから」
ひょうひょうと答える。
「…そうなの?限界〜とか言ってたの、嘘?」
パブロはスポーツドリンクを一気に飲んだ。
「嘘じゃないけど。限界超えてやる事はしないようにしてるから」
「へー」
「どっかで、ホントの限界きて、パフォーマンス落ちるの嫌いなんだよ」
「…大人」
「でしょ」
レイはニヤッと笑った。
「でも、俺にはそんなマネできないな…」
「パブロは魔法力がバケモンみたいだからね。羨ましい」
「違うよ。俺、10位以内じゃないと、人間界いられないから…。やんないと不安で」
「…別に大丈夫だと思うけどね」
「最下位になった時を思い出しちゃって、ダメ」
「だから、遊びすぎたからでしょ?彼女と」
「うん。だから、それからしてない」
「え?!バカじゃないの?」
「え?」
「よく彼女に振られないね」
「…そうなの?」
「ただいま…」
パブロは合宿を追えて帰ってきた。
「お帰りー。お疲れ」
絵理はキッキンから声をかけた。
「今日はカレー?」
鼻をヒクヒクさせながら、パブロはキッチンに行った。
「うん、もうちょっと待って…」
慌ただしく、レタスを洗う。
「懐かしいね」
パブロは、鍋のカレーを混ぜる。
「ずっと前に絵理とビーフカレー作った」
「美味しかったね。また作ってくれるって言ってたような…」
絵理はパブロを睨んだ。
「あ、時間なくて…」
「魔法でチャチャッとできないの?」
「…ホントはね、あんなに簡単に魔法使っちゃいけなかったの…」
「え?すんごい気軽に使ってたよね」
「うん。…ほら俺、ヤバいやつだったから…」
「アハハ」
「試験終わったら作るよ」
「…うん」
「孝司は?」
「部屋で勉強してる」
「…。…あの子、勉強ばっかして、ちゃんと友達とかいるの?」
カレーを皿によそいながら言う。
「春乃ちゃん」
「あぁ、幼稚園からの…。あのやけに可愛い…」
「そ」
「付き合ってはないの?」
「んー、孝司がなかなか落ちないらしい」
「あんなカワイイ子に?」
パブロはびっくりして、目が見開いた。
「孝司、私らの面倒みすぎて、ちょっとおかしくなってるって。湊が言ってた…」
湊は春乃の兄で、絵理とパブロの友達でもある。
「あいつ、ホント、口悪いな」
パブロは笑った。
「俺もさ、レイに、勉強ばっかやり過ぎて、バカって言われた」
「あはは」
「孝司は、大丈夫かな」
「…ね…」
絵理とパブロで、カレーとサラダをテーブルに運んだ。
「孝司ー!ご飯食べよ」
パブロが声をかける。
「パブロ兄ちゃんおかえり」
孝司はリビングに来た。
「ただいま。お腹すいた。食べよ」
「うん。いただきます。…ん…美味いっ」
「俺が鍋、混ぜたから」
「最後、ホントに少し混ぜただけじゃん…」
「いや、俺には魔法という手段が…」
「簡単に魔法使っちゃいけないんでしょ?」
「何?2人とも、今日は随分仲いいね」
孝司は、2人を横目出見ながら食べ続ける。
絵理とパブロは、恥ずかしくて少し黙った。
「明後日だよね、試験」
孝司が沈黙をやぶった。
「うん」
「頑張ってね」
「うん」
「孝司」
パブロは孝司の目を見つめて言った。
「ん?」
「ありがとう」
「何が?」
孝司はカレーを口に放り込みながら言った。
「今まで。色々」
「…だから…何が?」
「んー?孝司が可愛くて好きだってこと」
「?…言う相手間違ってるよ」
「ハハッ。間違えてないよ」
「?」
「会ったときからさ、懐いてくれて。今は、俺の気持ちを一番分かってくれて…。孝司に会えて良かった」
「大げさだし、やっぱり言う相手間違えてない?ね?」
絵理に同意を求めた。
絵理はただ笑ってた。
「俺と絵理の事も。孝司いなかったら、俺とっくに振られてたよ」
「え?!」
絵理はこの時ばかりは声を出した。
「あぁ、これもレイに言われて。でも、ホント。俺達を繋いでくれてたのは孝司だから」
「おっ…重い…!」
孝司は苦しそうな声を出して胸を押さえた。
「あぁ、ごめん。そうだよね」
「11才には重すぎる…!」
「だよね」
パブロは笑った。
「笑い事じゃないよー!」
「ごめん」
「もうっ。パブロ兄ちゃんも絵理も…。…しっかりしてよ…」
孝司は何故かわからないが涙が出てきた。
「ごめんね」
今度は絵理が謝った。
「もうっ。ホント嫌だ!」
「うん」
パブロと絵理で、孝司の肩を抱いた。
嫌がるかなと思ったが、孝司は受け入れた。
「パブロ兄ちゃん…。…ずっと…、一緒にいたいよぉ…」
孝司は細い声で言った。
「うん、大丈夫。俺、自信あるから」
「うん…」
気がつけば、3人とも、泣いていた。
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