一緒にいる未来しか

「孝司、おはよ」

パブロは、起きてきた孝司に声をかけた。

「ふぁあ…。おはよ。パブロ兄ちゃん早いね…」

「うん。もうすぐ家、出なきゃ」

「え、早っ…」

孝司は、朝食のパンが入ってるカゴをあさりながら言った。

「あ、ソーセージパン、食べちゃった」

パブロが申し訳無さそうに言った。

「え…」

「あ、ごめん」

「…じゃ、メロンパンでいいや」

「あ…、」

「あぁん?!」

「怖いなぁ。嘘だよ」

パブロは笑った。

孝司は無類のパン好きなので、目が笑っていなかった。

「合宿帰り、何かのパン買っとくから」

「やった」

パブロは孝司が可愛くて笑った。


「じゃ、合宿行ってる間、気をつけてなー。絵理にも、帰り遅くならないように言っておいて」

パブロは玄関から、声をかけた。

「あ、絵理起こしてこようか?」

孝司は絵理の部屋に行こうとした。

「あ、いいよいいよ」

「いいの?」

「うん」

「じゃ、いってきます」

「頑張ってね」

「おう!孝司も」


10分後、ようやく絵理は起きた。

「おはよ…。あれ?パブロは?」

「…もう、行きました」

孝司は冷たく言った。

「えー、早っ…」

孝司は溜息をついた。


「ね…何か最近、怒ってる?」

絵理は朝食を食べながら、孝司に聞いた。

「絵理はのん気なんだよ…」 

「確かにそうだけど、それで怒ってたの?」

「…。パブロ兄ちゃんとケンカみたいになったりさ。朝しか会えないのに寝坊したりとか…。腹立つ…」

孝司は絵理をジロッと睨む。

「うっ…。ごめん…」


パブロが試験で10位以内に入らなきゃ、人間界に居られない事を知ってるのは、孝司と兄の博之だけだった。

絵理に知らせて、変に気を使われるのが嫌なのと、呑気でいてくれた方がプレッシャーにならないとパブロが言うので、黙っている。

(黙ってるのが、つらくなってきた…)

孝司は思いっきりうつむいた。



東大の魔法科がある棟に、大きな鞄を持った生徒が、次々やってきた。

「おはよ。パブロ。合宿なのに、嬉しそうだね」

パブロが教室に入ると、レイが話しかけてきた。

「そう…かな?」

「ん。彼女?」

「うん…。ずいぶん気持ち良さそうに寝てたから…。…夢覗いちゃった…」

「げ、ストーカーじゃん…」

「そう…かな…」

「どんな夢?」

「新婚生活してた。俺と」

パブロは笑った。

「いいね。幸せで」

レイは呆れた顔をした。

(本当にそうなるように頑張んなきゃ)


合宿は一週間。

午前は座学4時間、午後は実技を4時間、あとはそれぞれ自主学習をして過ごす。


「あー!!きつい!」

レイはベットに倒れ込んだ。

「…パブロまだやるの?すげーな」

パブロは、食事を済ませて、自主学習ルームに行く準備をしていた。

「うん、やんなきゃね、できないのよ。努力型だから」

「…努力だけじゃ、そこまでできないでしょ。才能もあるの認めたら?」

「無いでしょ。あったら最下位取らないわ」

「それはただのやらなさすぎ。彼女とイチャイチャしすぎたんでしょ」

「しすぎたな」

「ベットで?」

レイはニヤニヤしながら言った。

「だな」

「ふざけんな」

今度は怒った。




孝司はあまりにも絵理にイライラしていたので、アメリカにいる、兄・博之に電話で相談した。


「もしもし、孝司だけど、」

「うん、どうした?」

「あのさー、絵理が呑気過ぎてムカつくの」

「あははっ、どういう所が?」

「パブロ兄ちゃんが卒業試験合格しなきゃ一緒にいられなくなるじゃん?絵理、それ知らないからさ〜。酔っぱらって男の人に家まで、送ってもらったりさ。その人から告白されて、それパブロ兄ちゃんに見られてさ。それなのに、次の日の朝呑気に寝てて、起きてこないんだよ。パブロ兄ちゃん合宿始まって家を空ける日だったのに」

孝司は一息で喋った。


「それは…大変良くないね…。パブロ、すごい大事な時期なのにね。孝司も、パブロのこと考えて我慢してくれてるんだな」

博之の優しい言葉に孝司は涙が込み上げてきた。

「俺から絵理に言っておくよ。パブロも今の孝司の気持ち考えたら、言っても良いって言ってくれると思うし…」

「ね!それなら!」

「ん?」

「俺が言いたい!」

「え?」

「だってムカつくんだもん!言ってやってスッキリしたい!いい?!」




孝司は博之に許可をもらったので、絵理にぶちまける事にした。


「ただいまー」

(帰ってきたぞ。言ってやる)

「おかえり、絵理…」

「ん?」

(ん、意外と言えない…)

「何?」

「…パブロ兄ちゃんなんだけど…」

「うん」

「卒業試験さ…」

「うん」

「…。…10位以内に…。入りたいって…」

「へぇ、いつも1位なのに弱気だね」

絵理はヘラヘラした。

(やっぱりムカつく)

「あのね、10位以内に入らないとね、」

「うん」

「…」

「何?」

(何だ、言えねー)

「もういい?お腹すいた…」 

孝司はプチンとキレた。

「あのね!10位以内に入らないと、もう一緒にいられないんだって!」

「え…?」


絵理はずっと黙っていた。

孝司は少し悪かったなと思っていた。

「ねえ、何で私は聞かされてなかったの?」「パブロ兄ちゃんから口止めされてて…。絵理には、呑気でいて欲しいって。その方がプレッシャーかからないからって…」

「そっか…。…ごめんね。知らないとはいえ、孝司に辛い思いさせて…」

「…うん」(こんなに反省するとは…)


「多分、大丈夫」

絵理は言った。

「…へ?」

「大丈夫」

「何の根拠があって…」

「私には、一緒に居る未来しか見えない」

「占い師かよ…」

「パブロが、孝司を置いて、何処かに行くなんて考えられない」

「は?俺?」

「は?ってやめなさい」

「俺、そんなに愛されてる?」

「愛されてるよ。パブロにも私にも…」

「ふ~ん。…絵理は…。いいや…」

「なんでやねん…」

孝司は笑った。

(言って良かった…)

孝司は色んな意味で安心した。

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