手術

孝司の体に手を当てる。

「頭部・胸部・腹部打撲傷…。右肋骨多発骨折による血気胸…。…肝臓破裂・脾臓破裂。腹腔内出血、出血性ショック……」


パブロの手から光のメスと糸のようなものが見える。

「脾臓、肝臓、腎臓の止血しながら、細胞を活性化させ修復。同時に血液を造り、注入する」

さらに、光が強くなる。

「砕けた骨の成分を調合、整形、後に修復部分の交換」

「皮膚の活性化。同時に皮膚呼吸の補助」

それぞれの臓器の修復、それをつなぎ合わせる作業をひたすら繰り返す。

作業手順を次々に言い、手術を進めていく。

100以上の、手順をすべてこなし、

「終わった…」

光は消え、パブロは力尽きた…。


夜、絵理は目を覚ました。

「…?!孝司!!」

あたりを見渡した。

そこに先生が来た。

「孝司くん、重症ではありますが、無事で本当に良かったですね」

「無事…?助かったの…?」

「元々、そこまでの怪我ではなかったから、良かった。あの事故でこれだけで済んだのは奇跡です」

「??」


頭が混乱した。

(夢だった…?)

「それと…こちらの方、ご家族ですか?眠ってるようなんですが…。随分長く眠っているみたいで。心配なら起こして、診察しますが…」

先生の目の先には、パブロがいた。

「…あ、いいえ…。大丈夫です…」

パブロは椅子に座って、孝司のベットのはしに突っ伏して寝ていた。

「わかりました。では、失礼します」

「ありがとうございます…」

医師は部屋を出ていった。


(パブロ…卒業試験は…?目を覚まさないって、いつから…?)

絵理は、混乱しながらも、じわじわと真実にたどり着いた。

パブロが孝司の危機に何もしないわけがない。

例え、今後の自分を犠牲にしても…。

絵理は泣いた。


「…絵理…?」

「パブロ…」

「大丈夫だよ。孝司は」

弱々しい声で言った。

「ありがとう…。ありがとう…。ごめんね…。ありがとう…」

絵理は泣きじゃくって言った。

「…う…ん」

そして、パブロはまた眠りについた。


朝、パブロが目を覚ますと、絵理がパブロの横で手を握って寄り添うように寝ていた。

「絵理、絵理。」

「ん?パブロ…?」

「絵理、大丈夫?」

「…」

絵理は、パブロの胸で泣いた。

「ありがとう、ありがとう…。ごめんね…」

「…」

「試験…。受けれなかったんだよね?」

「そんなのいいよ。俺は、どうやっても孝司を助けたかった」

絵理はまたパブロの胸で泣いた。

「ありがとう…」

「…俺は、このために、あんだけ勉強して頑張ってきたんだと思うよ。死ぬほど勉強してきて良かった…。孝司を助けられた」

パブロは、悲しそうであり嬉しそうにも見えた。


「ありがとう…。孝司を助けてくれて…。

ありがとう」

何回言っても足りないくらいだった。

「大丈夫」

「ありがとう」

「大丈夫だよ」

パブロは優しく絵理の頭をなでる。


「でも…もう一緒には…」

「…知ってたの?」

「…うん…」

二人は黙った。


和美が病院に来た。

和美は昨日、孝司が危篤と知らされ、病院に行ったが、骨が折れてるが命に別状はないと言われた。

面会時間が過ぎたからと、帰らざるを得なかった。

絵理の携帯に電話をしたが、繋がらなかった。  

よくわからないまま、今日、病院にやってきた。


絵理から一部始終を聞いた和美は、涙がとまらなかった。

「パブロ君…。ありがとう!ありがとう!ありがとう…」

「大丈夫」

「ありがとう」

「うん」

和美はパブロの手を握りしめてお礼を言った。

博之は、アメリカに住んでいるので、和美からの報告を受けていた。

最初は危篤と言われ、その後骨が折れる程度で助かったと。

それでも日本に帰ろうとした時、ビデオ電話が来た。

絵理は、和美にした話をもう一度博之にした。

博之は誰よりも、泣いた。


「パブロ、本当にありがとう!ありがとう!うぅっ…。ぅっ…。ゴメンな…」

涙でぐちゃぐちゃな顔を服の袖で拭っていた。

「ううん。孝司を助けられて良かった」

パブロは笑った。


パブロの処遇は、数日かけて、決められる事になった。


その日の夜、2人は家に帰った。

何も言わず、パブロは絵理を抱きしめて、キスをした。

「しよ」

「ん…」

深いキスをして、互いの肌を感じあった。

大好きと愛してるを繰り返した。


「絵理、たりない…。」

「うん…」 

二人の繋いだ手が汗ばんでいる。


何度抱きしめあっても足りない気がした。


(この先もう会えないんだ…)

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