第30話 魔力をフォースに(いいですとも)

「すごいな、フォースフィールドって。用途は分かったけど、起動のし方とか移動先を決めたりするにはどうすればいいんだろう?」

「マスターに知見がない、とのことでしたら、わたしが操作いたしましょうか」

「お、おお! ありがとう、頼むよ」

「はい」


 フェンリル(仮)に黄色い床から離れてもらい、入れ替わるようにしてタヌキが中央に立つ。


「マスター、魔力をフォースフィールドに」

「魔力?」

「わたしにかけてくたさった時に膨大な魔力をお使いになられたではないですか」

「分かった」


 黄色い床を再構成しても余り変わらなそうだけど……。元々破損もないし、埃が多少消えるくらいか。

 黄色い床に両手を当てる。

 

『必要材料なし。そのまま再構成可能です。再構成しますか?』

「再構成する」


 ブワッと黄色い床が光る。

 床全体かと思ったが、一部だけ再構成するみたい。黄色い床そのものが製品になっていて、別の箇所と異なるってことかも。

 考えてみると確かにそうか。黄色い床はフォースフィールドになっているのだから、ある種の魔道具だものね。

 魔道具に対して再構成を行ったので、再構成されるのは黄色い床のみってわけさ。


「マスター。行き先を指定して下さい」

「頭の中で思い浮かべるの? 俺以外でもよいかな?」

「はい。マスター以外でも指定してくだされば問題ありません」

「そんじゃ、パック。海の向こうか山の向こうの陸地を」


 唐突に話を振られたパックが驚きからか煙がもわっとあがった。

 カモメ姿から人間の姿に変わった彼はうーんと両手で頭をがしがしとかく。


「お試しだから海岸沿いの人がいないところとかでも」

「兄ちゃん、景色って案外覚えてないもんなんだよお」

「言われてみれば確かに」

「海じゃなきゃ大丈夫だよね? 陸地で浮かんだ景色でいいよね」

「それでやってみよう、ディスコセア、頼む」


 「了解です」の意味なのか尻尾を上下させたディスコセアがパックを呼ぶ。


「わたしの背に手を乗せて下さい」

「うん!」

「場所を思い浮かべましたか?」

「バッチリだよお」

「では、マスターたちもフォースフィールドの中へ」


 彼女に言われた通りフェンリルに乗り、黄色い床の中に入る。


「転移まで後10セコンド」


 ディスコセアがカウントダウンを始めた。

 3、2、1……ゴー!


「完了。オールグリーン。マスター、周囲の確認を」

「う、うん」


 「ゴー」の瞬間まで見逃すまいと目を開いていた。すると、こう映画で場面が切り替わるように瞬時に景色が変わったのだ。

 これで二度目の転移となるが、不可思議過ぎてしばらく上の空になってしまう。


「パック、ここは?」

「おいらはこの木を想像したんだよ」

「おお、これは確かに目立つ」

「でしょー」


 目の前にあるのは鮮やかな赤い実をつけた木……ではないよなこれ。

 太い蔦がグルグルと絡まり上へ上へ伸びている。高さはおよそ20メートルくらいと普通の高木くらいか。

 目を引くのは赤い実で、すももくらいのサイズのペンキで塗りたくったような赤が一際目を引く。

 なるほど、これは印象的だ。パックが思い出せたのも納得だよ。


「ハナミズキです。残念ながらマスターのエネルギーにはなりません」


 ハナミズキって、普通に木だったような……。異世界のハナミズキは赤い実も大きく、蔦でできているのか。

 地球のとそっくりな植物とそうでない植物の差が激しい。


「食べたらお腹を壊すってこと?」

「経口摂取はオススメしません」

「分かった。ありがとう」

 

 蔦をハナミズキと呼ぶのは少し抵抗があるな……蔦ミズキとかにできんものか。

 お、なかなかうまく言ったんじゃない俺?

 ……。

 ハナミズキが目立ち過ぎてついそこだけに目がいってしまったが、改めて周囲を見渡す。

 赤い果実は食べられないと聞いていたが、キャンプの跡がある。

 薪をくべてここで煮炊きしたらしく、石が積まれて焦げ跡も残っていた。

 ん、キャンプ?

 キャンプだと!

 

「誰かがここにいたってことだよな!」

「おいしいのかな、あれ?」

「いや、食べられないってさっきディスコセアが言ってただろ」

「じゃあ、何でここで食事にしたんだろうねえ」


 繋がってないパックの言葉だったが、ちゃんとエスパーして察した俺、えらい。


「キャンプをしていたってことは、近くに人がいるかもしれないってことだよな」

「そうだねえ。見てこようか?」


 答えも聞かずにパックが少年の姿からカモメに変化する。

 バサバサっと飛び立って行ってしまったので、彼が戻ってくるまでここで待つとしますか。

 キャンプをしていたってことは何らかのゴミが残されていたりしないかな?

 彼をボーっと待つのも時間がもったいないので探してみるか。どんな細かいものでもいい。再構成があればね。

 燃え残った枝、鍋からこぼれただろう何か、何かを洗った後……碌なモノがないな。

 ん、人工物ぽい石が。直方体に六角錐を上下に引っ付けたような形をしている。

 自然にこのような形になることは考え難い。

 手に取って両手で包み込む。


『必要材料なし。そのまま再構成可能です。再構成しますか?』

「再構成する」


 石が光り、透き通った赤色に変化した。

 綺麗な石だなー。元々は赤クリスタルみたいな石で、唯の石に変化してしまったってことだろうな。

 パックがいればこいつが何か分かるのだけど、とりあえず懐に納めとこうっと。

 

「少し休憩するか。フェンリル、ディスコセア、水分補給しとく?」

「がおー」

「わたしは必要ありません」


 フェンリル(仮)の口に水袋を突っ込み傾ける。

 半分くらい水が減ったところで彼の口から水袋を引っこ抜き、今度は俺が水を飲む。

 ふう、生き返るー。

 水はまだまだ持って来ているからな。

 水以外はいつもの装備しか持っていないので、身軽な状態だ。何か持って帰れるものがあれば積極的に拾っていきたい。

 箱に残っていた装備品や製品を置いて来てよかったよ。まさか転移することになるなんてな。

 

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