第5話 Day After Day

 ――なんて話がもう六年以上前のこと。

 それでも、私の戦いはまだ終わってない。

 戦いの現場は電脳空間、エキサイティング・バーサスというゲームの平原ステージ。身体を隠せない近接戦闘型の機体エクサスは本来圧倒的に不利なステージだが――。


「アカネ、あんまり呑気してると――落とすよ」


 少年ギン愛機シルバーコーラルにはちょうど良いハンデだ。


「や~ん怖いわ~」


 G-レックスの眼前にまで迫るシルバーコーラルの実体剣。

 姿勢制御用の尾からサブマシンガンをばらまいで、斬撃の軌道をずらしつつ、三本の脚は迷いなく逃走を選んでいる。

 ギンは追いすがるが、私は大咆哮アクティブソナーの予備動作をチラつかせ、彼の無理な追撃を牽制していた。

 ギンは良い。反応速度、武器の選択、機体の操縦センス、機体出力に直結する彗星粒子の保有量。いずれもトップクラスだ。

 だがそれはあくまで同年代でだけのこと。


「やっぱその弾幕うるさいんだよな」

「なんでこんだけ撃たれて落ちんのよキミは」

「何回見たと思ってんだよ」


 対エクサス地雷、自動追尾ミサイル、ガトリングガン、至近距離での重量を活かした四脚突撃エクサスキック、そして逃げを許さない狙撃砲。

 戦場ではありふれた武器を手慣れた人間が使うだけで、そこそこに動きを封じられる。


「ママ、結構修行してたんやけど」

「僕の方が伸び盛りなんでしょ」


 シルバーコーラルの白い手甲がミサイルを側面から弾き飛ばす。

 爆発により視界を一瞬だけ奪われた刹那、真横から実体剣を構えたシルバーコーラルが現れた。

 小型のシルバーコーラルが、私のG-レックスにぶつかれば、大破するのは向こうの方。

 だから至近距離で大咆哮を浴びせられないように「目眩ましをしてから一気に近づいた」というわけだ。ええわ、ええ。


「お~、これまたナマ言うこと」


 のは三本の足のうちの一本。

 防御は捨てて、狙うのは狙撃砲の接射によるシルバーコーラルのコクピット粉砕。

 このシミュレータ内部ならばそれでなくとも勝てるが、シルバーコーラルを落とすならばG-レックスにはこれしかない。


「落ちとけクソガッ――」


 機体が大きく揺れる。

 G-レックスより遥かに小さくか細いシルバーコーラルが、斬撃と同時に体当たりを仕掛けてきた。

 その衝撃と予想外の移動で狙撃砲の接射は大失敗。


「もらった!」


 G-レックスの口にシルバーコーラルの左腕を突っ込まれ、そのままシルバーコーラルのパイルバンカーが機体の火器管制システムを粉砕した。

 白煙を拭き上げながら沈黙するG-レックス。

 現実ならコクピットのウチは脱出、できなければ熱で蒸し焼きだ。

 シミュレータの中では「YOU LOSE」で済むけどね。

 ヘッドセットを外して、ため息をつく。


「あ゛~~~~~~~~~!」


 目を開ける。

 自宅の寝室、設置しているシミュレータの中には私と遊楽部ゆうらっぷギン。

 また負けた。この少年にまた負けた。


「ありがとうアカネさん。今回かなりスムーズに近づけたと思うけどどう?」

「一対一ならあれでええけど、大会で味方アシスト入ると厳しいな。小学生の時のチームはみんな強かったからええけど、今回はあんたがリーダーで、あんたが一番強くて、ほかはウチ含めてみんな弱いんやから、あんたがああいう冒険みたいな戦い方するのは良くない」

「オッケー、じゃあそれに気をつけてもう一回……あ、野良のランダムマッチにする? レート戦は他のメンバーもいないと……わっ」


 ギンの頭から、シミュレータのヘッドセットを外して、顔を覗き込む。

 なにやら顔を赤くし始めた。


「な、なんだよ」

「ん~? ウチもまだまだいけそやなって」

「べ、べつに、いつも、その……」

「なんやバトルの話やぞ。あ、この前のこと思い出してんのか? エロガキ~!」

「やーめーろー!」

「チームメンバー全員抱いてるもんなあ~お姉さんとは遊びか~? う~ん?」

「遊びじゃないよ」


 あの頃よりいくぶんか大人になった顔で、ギンは言ってくれた。


「急に真面目になるねキミ」

「アカネが隣で戦ってくれると安心するし、俺自身の練習頼めるのはアカネだけだから。アカネ無しじゃ成り立たないよ、俺のチーム」

「……分かってるなあ」


 ギンの手の上から手を重ねて、指をゆっくりと絡める。

 座ったままの少年の頬に頬を当てて目を閉じる。


「どうしたんだよ」

「なんでもないよ。もう少しこのままで良い?」

「…………あの」


 色んなことがあって、私は此処に居る。此処に私の場所がある。


「あの、ずっとくっつかれると、俺、我慢が、ごめん……」

「ごめんじゃない! ムード台無しじゃろがい! 思っても言わんとき! 男ならこう、ドーンと……あるやろもう!」

「ひん……」


 お気に入りのポイントは、まだちょっと頼りないところだ。

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※不正なユニットが接続されました~番外編:ウチが配信者になったワケ~ 海野しぃる @hibiki

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