第18話 嗅覚x

誘ってきた女は凄く洒落た女だった。

年齢は不詳。

風俗系の仕事をして居るようでもない。

幾ら、って聞いてみようとして辞めた。

売春婦とも言えない。

「不思議?」

動機が不明と言うのは不安を催す。

「ーー行こ」

席を立った女性の後を追って席を立った。

注視していた茶店の客の溜め息が聞こえた気がした。


街中を隣り合って歩く。

目立つ美貌の女性なので自然に注目が集まる。

街中を流す理由が判らない。

イイ女を連れている実感でも持て、ということなのだろうか。

寧ろ周囲が気になって来て、視線が泳ぎ始めてしまった。

「リアン?」

反応が西洋人のようだが黒い髪は東洋人の地毛だった。

「あれ」

少し近づき過ぎと思しき彼女の香水の匂いがした。

「線香の」

ラベンダー。媚薬の香り、だった、と思うがほのかに匂っていた。

「何処か――」

休憩できる所を知らないか?

このパターンならやはり娼婦の類なんだろうに。

未だ要求されていない。

ただ、ってことは無いんだろうに。


「退屈ですか?」

レンタルした車まで山岳方面に向かう。

高層ホテルで良いだろうに他の場所を要求してきた。此のまま関係するのだろうか?


与える、懐柔する、耽溺させる

貢がせる。


きっと其が目的だろう。

何故?

貢ぐ相手が居るから。


「辞めませんか、こう言うの」

「?」

ばれないように笑顔で偽装する彼女。

「時々溜め息つかれても」

なんだ、ばれてるのか、と素の表情になる。

「鼻が利くんですよ」

鼻?と鼻を指す彼女。

「初心者でね。慣れてないの」

人を騙すのに馴れてるようには見えなかった。

「男ですか?」

「まぁ」


何事もなく出発点へ戻ってくる。

「復会ってくれる?」

「遠慮しときます」

少し考えて答えると、彼女は頭を抱えて、

「グハぁ、見切られたぁ」

とオーバーアクションした。


「よい男見つけてください」

女性は少しうつ向いてから、

「そうね。リアン君も」

と笑った。

「彼女持ちなんで」

と笑って去った。





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