第七話 Detective story の終わり

a)会えない苦しみ。

 トレーに乗ったうどんがテーブルの上に置かれる。

「昼から重いのな」

 リアンの前には牛丼が置かれている。

「これぐらい食べないとバテる」

直ちに牛丼を口に運び出すリアン。

「つゆ多め?」

「まぁ」

「すき焼き風?」

「すき焼き風」

「此処とさ、他この辺に二件あるだろ、牛丼屋」

「何」

「すき焼き風の味付けって、実はローテーションで三軒がもち回りしているという噂」

「へぇ。それで。」

「いや、其れだけなんだが」

「バイトにでも雇ってもらえ」

あっという間に牛丼を平らげて口を拭くリアン。

遅れないよう、慌ててうどんを啜る。

「黒音女史は?」

「今日は午後から」

「詳しいな」

「大体いつも一緒だからな」

「攻略済み?」

「いや。何も聞かないでくれ」

 

 外へ出ると夏に入って30℃を超える空気が押し寄せるように肌を襲った。

「うわ,アツ」

「早いとこ戻ろう。冷房の無い所には居られない」

最近リアンは冷静だ。

「冷房病って知ってる?」

「ああ、黒音女史」

何時の間にかリアンの隣に黒音が居た。

「空調の中にばかりいると体温の調節機能狂うわよ」

「医学部志望だっけ」



b)黒音とリアン

 店内の電話ボックスが特徴の、BGMに古うい洋画のサントラとか、かかってそうな喫茶店。黒音と二人で向かい合って座っていた。

「何、相談って?」

「もうちょっとロケーションに気を配ってよ」

黒音はチョコパフェをスプーンですくった。

「チェーン店の方がよかった?」

アイスコーヒーをストローで吸う。

「何とも言えないわね」

Bねこれ、と呟きながら黒音はパフェを食べる。

Bって何だろう思ったが質問はしなかった。

代わりにロケの是非を問うてみる。

「割と密会にはいいかと」

返答はなく、黒音は窓の外、階下の通りを眺めだした。

「リアンはいいの?」

「今日もバイトよ」

あの男は金の亡者、とでも言いたそうだった。

若しかしてそういう話なのだろうか。

「なに。お金の話なら」

「他所にもっていった方がいい?」

「雇い主もいないので、お金は持ち合わせていません」

「……気楽ね」

黒音は復パフェに匙を入れる。

三匙目に耐えれれなくなって若干譲歩する。

「此処の代金ぐらいは払えなくもないが」

「それは大丈夫。日乃の彼女」

「には、未だ」

「は、他に男は居なかったの?」

何の話だ。

「生憎未調査で」

「そんな関係ではなかった、と」

「まぁ、そうだな」

黒音はしばらくジッと此方を見て、……駄目だな、とうなだれた。

「何?」

「何でも」


東の空が黒く曇っている。

「一雨来そうだね」

「日乃」

「何?」

「鍛えとけよ、色々と」

「其れはまぁ、色々と」

黒音はにっこりと笑った。



c)detective storyの終わり

教室の外、リアンと黑音が言い合っていた。

多分。

授業まで後十分だったが、何も言わなかった。


「日乃。」

授業後チューターに呼び出された。

「はい」

「判ってるようじゃないか」

「不味いとは思ってるんですが」

「59は少しまずい」

ああ、偏差値の話か。

「この夏期講習で回復しよう」

「はい」

目標は65だった。

「日乃」

「はい」

「探偵ものは受験、終わってからな」

チューターはにっこり笑って肩をたたいた。



リアンと黑音は結局、授業に来なかった。

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