2 Detective Story

第五話 if

a)彼女の出自

クーラーの効いた館内から出ると生ぬるい外の空気が侵食してきた。


「いらっしゃいませ」

リアンが明るく笑って接客している。

冷凍食品のクーラーボックスからバニラアイスを拾ってレジへ向かう。

「どう?何か判った?」

「何が?」

「手掛かりなしか」

「勤務中の私語は禁止なのでは?」

「接客だから、これも」

いつもの席を陣取る。

開放感のあるイートイン。

その窓の外は更に明るい。

偏光ガラスの効果で、外からは此方の顔が見え難いが、中からは外がよく見える。

安心してストリートのマンウォッチングが出来る仕様だった。

昼の零時半。

昼時の食事処探し、と言う訳でもなく、行き交う人々の目的は簡単に割れない。

同い年や中高校生が窓の前を過ぎていく。

通り過ぎる人々の中に、つい彼女、羽夢さんの姿を探してしまう。

入れ替えの音楽が店内に流れていた。

店長のアドヴァイスは人探しは玄人に任せろ、だったが。

十万円かぁ。

捻出して、探してもらうことを、真面目に考え出しているが――

「受験生。」

「ああ、店長さん」

「用意できた?」

「いやぁ、無理ですよ。バイトでも追いつかないし」

「はい――」

店長が紙片を差し出した。

「何ですか」

「好かったら使って」

そう言うと、じゃ、忙しいから、と言って店長は去っていった。

もらった紙片のヘッダーには、

”人探しのレシピ”

とあった。



b)足取り

 可能性ではなく事実を追っていく。

レシピに由るとそういうことらしい。

其処でもう一度アパートを訪ねることにした。

「こんにちは」

二、三回ドアホンを鳴らしたが、誰も出てこない。平日の午後一時半。仕事に行っているということだろうか。諦めて帰ろうとしたら、ドアが開いた。

「あ、こんにちは」

出てきたのは二十代後半ぐらいの女性だった。

此方の挨拶に女性は笑顔で会釈すると脇をすり抜けて去っていった。

「仕方ない」

帰ろうとしたら、

「人探し?」

ドアからこの前の男性が現れた。

「ええ、まぁ」

「急だったよね」

「何かご存じですか」

もって来た菓子折りを差し出す。

男性は、こういうのいいから、と受け取らない。

「何も知らない。知るほど居なかったし」

「一月ぐらい?」

「そのぐらい」

「他に同居人とか」

「人の出入りは少なかったみたいだけど」

同居の男とか居なくてほっとしたが、インデックスが一つ消えた。

手がかりはなしか、と溜息をつくと、

「電話は多かったみたいだよ、いやメールか」

着信音が煩かったと言う。

男性に疲れの色が見える。そろそろ引き上げるべきだろう。

「ありがとうございました」

頭を下げて、もう一度菓子折りを勧めると、それじゃぁ、と言って受け取ってくれた。

男性がドアを閉める。

手がかりは未だ霧のように掴み処がない。

「さて、何処から探したものやら」



c)受験戦争

四当五落とよく言われる。

受験で勝ち残るやつの睡眠時間の話。統計的にそうなのか無根拠にそうなのかは知らないが、努力した奴は勝ち、怠ければ負ける、と言う事を言いたいのだろうと理解していた。

深夜1:20分。

夜食のおにぎりを食べながら、休憩に漫画を読む。

夜食の時間設定に失敗したので、今日はもう寝ようかと思う。

二時まで 後四十分。音楽を聴きながら漫画を読むのもいいだろう。

現在の平均偏差値は61程度。志望校の必要偏差値にあと少し足りないという。

滑り止めの受験もさせてもらえるので大学進学までは何とかなりそう。だが、去年その甘い判断で全落ちしたのだから緩んでもいられなかった。


机の上、立体映像再生機で再生された彼女の像。

聞き取れる最小の音量で羽夢さんが語っている。


どの角度からでも見れる立体映像。触れられないのが残念だった。

立体映像の再生を停止してベットに横になる。

明日は夏期の校内模試だった。



d)若し

中々に惨憺たる結果の校内模試。

「なんか笑ってるようだが?」

リアンは結果票を手にこちらを見た。

「惨敗?」

「割と。リアンは?」

「大勝利」

「バイトとかしてるくせに」

受験には無関係そうな事していて成績が良いとは。

「教導しようか?」

「遠慮しとくよ」

帰り支度を始めるとリアンに呼び止められた

「自習室行かないか?」

「いや、やることあるし」

「人探し?」

「……」

「どうすんの大学」

「受けるけど」

「此のままで通ると」

「……何とかするよ」

「そうした方がいいよ」

「そうか」

「人手がいる時は言え」

ライバルが一人減った、と言ってリアンは自習室に向かった。

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