第三話 虚像

a)現実

 星空の下、浮かれて家に帰ると、隣が何だか騒がしかった。

 4tトラックが隣の家の前に停まっていて荷物を積み込んでいる。

 荷物には皆タグが付いていた。


  家に入ったらまっ直ぐダイニングへ向かう。

 「何?隣引っ越し?」

 椅子に座って食卓に着く。

 「おかえり。」

 リビングに居た母は、問いには答えず、立ち上がって食事の支度を始めた。

 「遅かったわね」

 「ああ、一寸」

 油の入った中華鍋を加熱し始める。

今日の夕食は天ぷらだった。


 「引っ越しだそうよ」

 母は揚がった天ぷらを皿の上のキッチンペーパーに乗せていく。

 「急だね」

 母は黙って天ぷらを並べていく。

 「政情不安で最近不景気だから」

 家を売った、って事だろうか。

 

 「父さんは?」

 「未だ。」

 隣接都市のクローズ迄片道1時間以上あった。

 「今日は夜食いいや。」



b) 監視

 光学デジタル双眼鏡の中に映る二十歳前後の男子。

 フライを食べ終えて席を立つ。

 「彼がシチズン候補。」

  データはリンクしたペアのディスプレイにも送られている。

  無線の向こうから温度の低い返事が返ってくる。

 「採算割れしないことを祈るよ」



c)待ち合わせ

 梅雨は雨。暗く灰色に沈む街。入って来た客が傘を畳んで傘立てに。何時もの席でぼんやりと眺めた店内の風景。蛍光灯のせいか視界が若干青い。「いらっしゃいませ!」リアンが元気に接客している。時刻は15:25分。待ち合わせは13:00分。

 何回目かの客出しが掛る。

 客足が引いたところでリアンがイートインにやってくる。

 「お客さん。長時間のご利用はご遠慮下さい」

 仰角で眺める友人の顔。

 「二時間、いや、三時間待っていたと」

 「伝えておこうか?」

 「シフト変わったのか?」

 「では無く。……」

 「若しかしてお前がデートか?」

 「守秘義務って知ってる?だろ」

 溜息がでた。

 「勤務中の私用は禁止。」

 左手から店長が現れた。

 「お客さん、午前のシフトは今日12:00迄で」

 「もう帰ったんだ?」

 「帰ったと言うか……」

 店長が15x10x3㎝程の黒い金属の箱を置いた。

 「立体再生機が何か?」

 「伝言、と言うか置き土産」

 店長は再生すると、後宜しく、とレジに向かった。



d)メッセージ

 4,5年は旧式の光学デジタル立体再生機。空間に立体演算像を投影する装置。キャプチャリングされた羽夢さんの上半身が描画されている。制服姿。

 「店長のコレクション」

 少し緊張した羽夢さんが店の人にお別れと挨拶をしていた。結構長い。

 「辞めちゃったんだ……」

 「まぁ、最後まで聞け」

 「――最後になりましたが日乃君今日は御免なさい――」

 あとの言葉が続かず少し暗くなる羽夢さん。

 「――。」

 さよなら、と言うつもりだったんだと思うが、ニッコリ笑った後、像の端に手が現れて電源が落ちた。

 「以上。だよ。」

 「で、何処行ったのかな?」

 そんなこと、分かるわけないだろ、とリアンは少し怒ったようだった。 

 「プライバシーなのでこれ以上は」

 情報は与えれれない、と言う事か。

 


 データのコピーを貰う約束をして店を出た。

 雨は段々豪雨に成りつつあった。

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