血盟学園へ

「ここがウワサの、血盟学園ですね……!」

 次の日の朝、私は荷物を抱えて血盟学園の門の前に立っていました。

 昨日やってきた、コウモリさんと一緒です。

「わぁ、イケメンがいっぱいです……!」

 私と同じ制服に身を包んだ、美男美女が通り過ぎていきます。

 今日から私も、この学園の生徒の一員になるのですね。

「やぁいらっしゃい。新入生の佐伯千鶴さん」

 後ろから声がして、振り返りますと。

「わあああぁあ!」

 黒いスーツを着た、長身の男の人が立っていました。

「失礼。驚かせてしまったかな」

「い、いえ……」

 足音もなく、気配もなく、声をかけられる。

 これも、吸血鬼の能力なのでしょうか……。

「入学式の前に、キミの部屋に案内しようと思ってね」

 男の人は言いました。

「わたしは、この血盟学園の学園長、月城由助だ」

「は、初めまして……」

 私の言葉に、学園長さんはにっこり微笑む。

「キミには大変申し訳ないのだが、部屋の用意ができなくてね。……男子寮に入ってもらう」

「……はい?」

 学園長、今、なんて言いました……?

 首をかしげる私にもう一度、学園長さんは言います。

「キミには、男子寮に入ってもらう!」

 先ほどより大きな声で言ってくれる学園長さん。

 やはり、聞き間違いではなかったようです……。

「どうして、女の私が男子寮に入ることになるんですか!?」

「だから部屋が空いてなかったごめんねって言ったでしょ!」

 学園長さんがそう言うけど、納得できない。

 いくら部屋が空いてないからって、女子を男子寮に入れるってどうなんですか!?

「お詫びと言っちゃ、なんだけど、キミにはこの薬を支給する。固有能力を随時使える薬だ。つまり、キミで言うと常に男でいられるというわけだね」

 学園長が、瓶に入ったアヤシイ液体を差し出してきます。

「うわぁ、なんですか、このアヤシイ飲み物は……」

「この薬を一口飲めば、三時間、能力が持続する。さぁ飲んで。今すぐ飲んで!」

 学園長に急かされて、ごくり。

「あわわわっ」

「はい、イケメン一丁あがりっ」

 学園長がにやりと笑って私に鏡を見せてきます。

 そこには、昨日見たのと同じ、イケメンがいました。

「どうして今、能力を使う必要があるんですか!」

 まだ寮に着いたわけでもないのに!

 そう続けようとした私の言葉を遮って、学園長さんが言いました。

「キミのルームメイトが来る前に、と思ってね。……ほら来た。待ち合わせ時間のきっちり、十分前に」

「……オイ。オレは一人部屋がいいって言ったはずだぞ、バカ親父」

 学園長さんの隣に姿を現したその人は……。

「きゃああ、イケメン!!!」


 今までに見たことがないくらい、私の好み、ドストライクなイケメンでした。

 黒髪、色白の肌。もう、言う事ありません!


 私が発した声に、イケメンさんが私を見ました。


「……お前、今、『きゃあ』って言ったか?」


 そして、私の方にずずいっと顔を寄せてきます。

 わああ、イケメンの顔が目の前に! 神様、ありがとうございます!


「……。見た目は男だが……。お前、まさか、女じゃねーだろうな?」


 そう尋ねてくるイケメンさんに、そうです! と答えようとしたら。


「まさか。愛する息子のルームメイトに、女の子を選ぶはずがないじゃないかっ」


 学園長さんがあわててそう大声で言いました。


「そりゃ、そうだよな……」


 納得した様子のイケメンさん。

 おかげさまで私は、何も言えなくなってしまいました。


 確かに、男子寮である以上、ルームメイトが女子なはず、ありませんよね。

 


は、佐伯千鶴さん。千鶴さん、こっちはわたしの息子の、月城由夜だ。仲良くしてやってくれ」


 学園長さんが目で訴えかけてきています。

 絶対に、息子には自分が女であると言わないように、という圧力を感じます。


「が、学園長さんの息子さん、ですか……。えっと、佐伯千鶴です。よろしくお願いしますっ」


 学園長さんの息子さんというだけでも緊張するのですが、女子だとバレてはいけないということで、もっと気を使ってしまいます……。


 由夜さんは、私をじっと見つめて、そっけなく言いました。


「……気に入らねぇ」

「へ?」

「さっきの『きゃあ』も、お前の雰囲気も。名前も、女みてぇな名前じゃねぇか」


 た、確かに……。

 千鶴って名前は、女の子、ですよねぇ……。


「きっとご両親が、かわいい男の子に育ちますようにっていう願いをこめたんだよ、きっとね!!!!」


 学園長さんがすかさずフォローを入れてくれましたが。

 どこまで彼が納得してくれたかは、わかりません……。


「とにかく! オレは、お前と仲良くするつもりは、一切ねぇ!!!」


 そう言い放つと、由夜さんは、さっさと歩き始めてしまいました。

 最悪の出会い方です。

 恋愛マンガだったらきっと、絶対、仲良くなれない男の子です……。

 いや? 意外とそういう男子と最終的に、仲良くなれたりしますよね?

 なんなら、そういう人とお付き合いしたりも、しましたよね!?


「学園長さん、私、決めましたっ」


 彼の背中を眺めながら、私は学園長さんに言います。


「私、絶対、由夜さんを振り向かせてみせます! そしてあなたからきっと、『吸血鬼卒業証書』をもらいます!!!」

「うん、その決意した表情、実にいいね」

 学園長さんが頷く。

「わたしから『吸血鬼卒業証書』をもらいたかったら、何か、今までにないことをしてもらわないとね」

「そのことなら、もう考えてあります」

「……ほう?」


 昨日、お父さんが言っていました。

『普通には、吸血鬼卒業証書はもらえない。何かをすごい頑張ったり、学園長が、おっ、と思うようなことを成し遂げないと、難しいぞ』


 それで、昨日、寝ずにずーっと考えていたのですが。

 一つ、いいことを思いついたんです。

 それは、イケメンヴァンパイア系動画投稿者を始めること!

 私一人で始めてみてもいいですが、きっともっと、イケメンがいるとウケるはず!

 そのためには、たくさんの『吸血鬼卒業証書』が欲しいと思う吸血鬼さんを集め、人気を集めなければいけません。

 思いついたものの、実際、うまく行くのか、そもそもそれで、学園長さんが認めてくれるかは、わかりません。

 でも、今の私にできることは、そのくらいなので!

 できることを精いっぱい、やろうと思うんですよね!

 そのためには、まず……。


「待ってください由夜さん、寮に連れて行ってくださいいいぃぃっ」

「嫌だね。そして、いきなり名前で呼ぶな」


 まずは、ルームメイトである由夜さんと仲良くならなければ!


 私の吸血鬼ライフは、まだまだ始まったばかりです!!!

 


(完)

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Vちゃんねる!~ヴァンパイア系動画投稿者、爆誕!~ 工藤 流優空 @ruku_sousaku

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