14.他人の干渉.M

MIYABI View


―――体育祭の練習


体育祭の練習は思っていたとおり私が敏夫君が走るのを見守る毎日になっている。

だけど問題はない、様々な表情などはずっと見ていられるし、若者が頑張っているのを見るのは意外と退屈しなくていい。


ずっと帰りまで見物していたり、タオルを渡したりなんかしてる事を思うとまるで恋人同士みたいな事をしてるなあと思うけども、実際には恋人じゃないし、タオルは私が持っているからだし、帰りは一緒じゃないといけないしで、そう、これはしょうがない事なんだと思う事にしている。

恋人同士みたいに見えるからってタオルを渡さない訳にも、一緒が嫌だからと置いて帰る訳にもいかないからね。私は保護者みたいなものでもあるし。


―――週末


今日は掃除をしようと前から決めていた、1ヶ月の男子高校生一人暮らしの影響は意外とあって、まあまあ汚れているしホコリも溜まっている、なので掃除をする事に決めていた。

後は生活環境が変わり過ぎて、休日に何をして良いか分からなくなっていて、取り敢えず身近な掃除でも、と思った次第なんだけど。


朝起きて身だしなみを整えて、まずは洗濯物から、自分のも敏夫君のも全部纏めて洗濯機に放り込む、以前は洗った後で自分の物か敏夫君の物か悩む事もあったけれど、今は男物と女物に別れた為に悩む事も無くなった。

ちなみに男時代の下着や衣服はほとんど廃棄した、正直匂いをキツく感じてしまってタンスやハンガーに入れておくのも嫌だったから。

敏夫君に譲る事も考えたけど、おじさんが着ていたお下がりというのも嫌だろうと思いやめた、嫌な匂いのものを押し付けるのも良くないだろうしね。


朝食の準備をしていたら敏夫君が降りてきて、一緒に朝食を取った後、今日の外出予定がないか聞いてきた。

私が出掛けるとなると敏夫君も付き合わせてしまうんだったな、随分と縛り付けてしまって申し訳ないね。

でも今日はご飯の買い物くらいで他に外出する予定はないし、明日もない。食材の買い物を除くと殆ど外出しない予定なんだけど。

そう答えたら敏夫君も今日は一日暇らしい、何でも言って欲しいとの事だけど、買い物くらいしか……そうだ掃除を手伝って貰おうか、ちゃんとやってくれれば1日掛かるものが半日で終わるかも知れないしね。


お願いして手伝って貰う事に、敏夫君は頼もしいね、彼に頼み事をして嫌と言われた事がまだ無い気がする、頼りすぎないようにしないといけないなあ。

掃除でして欲しい事を伝え、私はまずネットで調べた通りに長い髪をアップにして纏めた、これで邪魔にならないかな、それからお風呂とトイレ掃除の準備をしていたら敏夫君が髪型を褒めてくれた。


「みやびさん、その髪型可愛いですね」

「その髪型も似合ってますね」


相変わらず嬉しくなるような事を言ってくれる、女の子の今、誉められるとやはり嬉しくなるもので、別に可愛くなろうとしてこの髪型にした訳ではないんだけど、それでも褒められると嬉しくて、少し照れてしまう。

そういう褒め言葉を自然に言えるのは凄いと思うよ、絶対女の子にモテモテだろうに。


掃除のほうは午前中で無事終わり、敏夫君のほうもしっかり掃除をしていて、本当に頼りになると感じる、出来れば私が入院中の時から掃除しておいて欲しかったとは思うけど、そこまで求めるのは酷というものだろうね。


一緒にお昼ご飯を食べ、お昼から暇になったので2人でネットの動画サービスを見ながら過ごしたんだけど、私は元々インドア派なので退屈しないけど、敏夫君は大丈夫なんだろうか、退屈していないだろうか、そんな事が心配になる、かといって私に何が出来る訳でもないのでそのまま過ごした。敏夫君が自由に外出出来るようになればまた違うのだろうけど。


―――日曜、朝食時


「それでね、今日は一日出掛ける予定が無いから、敏夫君は私に気兼ねしないで出掛けていいよ」

「大丈夫です、今日も特に予定も出掛ける気もないですし、家にいますよ」


そんな事を言われてしまっては私に言える事は無い、私に気を使って既にこの土日を空けていたのかも知れない。

このままではいけないなあと思いながら、かといって何もなく一日を一緒に過ごした。


―――週明けの学校


週を明けての学校なのだけれど、少し変化があってクラスメイトの女子から。


「光野さんって敏夫君と付き合ってんの?」


と何人かに言われるようになったので付き合ってない事を告げると、女子が何かを言おうとする所でももかちゃんやさなちゃんが割り込んできて。


「それならなんで―――」

「うんうん、まだこっちに慣れてないから光野くんがおもりを任されてるんだって」

「そうそう、"まだ"付き合えてないんだよねー、……で、何か問題でもあった?」

「う、ううん、別に何も……」


そんな事を言って黙らせてしまう。

ももかちゃんの"おもり"はともかく、さなちゃんの"まだ"も何も違うんだけど、そう思い異論を唱えようとしたけど


「そういう訳で、じゃあねー」


と私は引きずられていった。

聞いたところによるとやはり敏夫君は女子に人気があるらしくて(うんうんそうだろうね)、でも私がいつも近くにいるからどういう関係なのかと気になっていて、付き合っているなら諦めるけど、そうじゃないなら距離を置いてもらいたいという事を話してくる予定だったという事のようで、成る程と納得した。


「うん、みやびちゃんが敏夫君と離れても良いなら何にも言わないけど、そうじゃないんでしょ?」

「そうそう、離れちゃったら絶対後悔すると思うんだよね、だからお節介しちゃった、怒ってる?」


確かに、離れるという事は当然お昼ご飯もだろうし、練習中の見学や通学なんかもそうだと考えると、それは困るんだよね。

付き合うとかそういう事は全く考えてないから、敏夫君には申し訳ないけど暫くは私と一緒にいて貰うしかないみたいだね。


「そこまで考えてくれてるなんて、ありがとうね」

「うんうん、気にしないで、でも何かあったら助けてね」

「そうそう、私にもいい人紹介してね」

「うん、分かったよ」


いい子たちだなあ、今の私は友達に恵まれている、嬉しい。


「それにしても敏夫君はやっぱり人気なんだね」

「そりゃそうだよ、成績優秀で運動神経抜群、そしてイケメンで格好良くて、その上優しくて穏やかだし、凄い人気なんだよ」

「私がみやびちゃんの距離ならとっくに好きになってたかもねー」

「絶対みやびちゃんの事好きだよね」

「間違いないねー」

「え、そうかな、おもりを押し付けられてるだけだと思うんだけど」


2人で一緒に食事をするのは好きだけど、これはそういう感情とは別物だからね。

正直、好きとか言われても困るし、断らないといけないから関係が壊れるしで止めて欲しいんだけどね。


そんなやりとりがあって、結局その週も先週と同様にお昼ご飯も練習中も練習後も同じ距離感で過ごした、むしろ、先週より距離を近づけすらしたかも知れない、だってね、ここで距離を離したら思う壺じゃないか、それが嫌というのもあったんだよね。



学校に来て、下駄箱を開けたら手紙が、……え?まさかラブレターとか?

席に着いて中身を見てみたけど、どうやらラブレターっぽい、……本当に勘弁して欲しいんだけど、男からのラブレターとか、いや女の子からでも困るけど、とにかく今は男と付き合う気はさらさら無い。

そもそも顔も知らない相手に告白されてOKを出す人なんかいるのだろうか、あ、もしかしてクラスメイトとか?いやいやそれなら尚更手紙なんかじゃなくて直接話すべきだと思う、だからクラスメイトじゃないだろう。

断る為に時間を使わされるのは本当に嫌だな、本当なら敏夫君も巻き込みたくない。

でも敏夫君を心配させたくないし、着いてきてもらいたいし、言っておくべきだろう。


「それでね敏夫君、実は朝下駄箱にこんなものが入っていたんだけど……」

「なんですか?これは…もしかしてラブレターですか、名前も書いてないし誰か分からないな」


敏夫君と話し合い、友達2人にも断る前提で話しをしておく事、敏夫君には隠れて着いてきてもらう事に決まった。


呼び出された場所に到着したけどまだ相手は来ていない様子だった、呼び出しといて遅れてくるかな普通、戻ろうかな。

と考えていたら相手らしき人が来た、2年生かな、どうでもいいけど。


「すみません、私、そういうのに興味が無くて、付き合う気はありません」


告白を一応聞いて、きっぱり断った。

相手が何か言おうとしてるけど、私はもう断ったし戻ろうと着た道を戻り始めた。

すると相手が私の腕を掴んできた、え?そんな事する?絶対に嫌われると思わないのかな、もしくは嫌われてもいいから力づくで……と考えたら、怖くなって腕を振りほどこうとした、だけど解けない、腕が強く握られていて痛い。

恐怖した、初めて男の腕力が怖いと思った、今までは敏夫君を見ていて頼もしいなあ、なんて思っていたんだけど、それが暴力になるなんて思いもしなかった。自分が男の時だって、暴力に使うなんて考えた事は無かった。

いや、本人にはこの程度は暴力と思っていないかも知れない、私が男の時だったら腕を掴む程度、と思うかも知れない。

でも今は違う、これは暴力だ、現に私は解けないし抵抗出来ない、それに恐怖を感じていて身体がこわばり始めている。


そんな事を考えていたら、敏夫君が飛び出して来ていて、相手の腕を掴んで解いてくれた。


「おい、あんた!断ってるだろ!手を離せよ!」

「なんだお前は!お前には関係無いだろ!」

「みやびが断ってるだろ、手を離せ!」

「はぁ!?なんだよお前、彼氏か!?」

「みやびは俺の妹だ!文句あるか!みやびに近づくな!」


まだ恐怖で思考がまとまらないまま状況を見ていたが直ぐに敏夫君が私の肩を掴み、その場から移動させてくれた。


そして段々と冷静になっていく頭が色々と自覚し始めた。


男の腕力には敵わないという事、自分はあらためて、何度目か分からないけど女の子だと実感した事、普段の"みやびさん"呼びではなく、"みやび"呼び捨てに何故か心が反応した事、そして、そして……格好良く私を助けてくれて、なんだか胸が一杯になった事。

嬉しいという感情が溢れそうになっていて、涙が出てきていた。


いけない、こんな見っともない姿は見せられない、おじさんなのにこんな事で泣いていては。


「やっぱり君は頼れるね」


うん、敏夫君は本当に頼れる、信じられる。君がいてくれて良かった。


―――週末


結局買い物以外はどこも出掛けず、家の中で過ごした。

今回は予め敏夫君には出掛けない事は伝えてあったのに敏夫君はずっと家にいた、これ絶対私に付き合わせちゃってるよねえ、敏夫君責任感強いからなあ、本当どうしたものかなあ。


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