15.体育祭.T

―――体育祭前日の昼休憩


俺達は3人でみやびさん達から離れて校庭の隅にいる。


「決めたぞ智行」

「……一応聞いとこうか」

「……俺はみやびさんが好きだ、心の底から、だからお前には渡せない」


「まあそう言うと思ってたよ、焚き付けたわけだしな、まだウジウジ言ってるようだったら本気で奪ってたけどな」

「ありがとう智行、お前のお陰で決心がついたよ」

「だってお前バレバレなんだよ、クラスのみんなお前がみやびちゃん好きなの知ってるんじゃないか?」

「ええ?そこまでか?」

「敏夫マジ?自覚なさすぎない?」

「哲平もそう思ってたのか」

「そりゃそうだ、あんなん誰が見ても分かる、一緒に弁当、一緒に練習、練習の見学、一緒に通学、ここまでしてるんだぞ、それにその時のお前の表情ったらなあ、むしろまだ付き合ってないのがおかしいだろ」

「いやそこは色々人には言えない事情があるんだよ」

「まあ義妹だからな、色々あるんだろうけどな」


うん、哲平ありがとう、でも義妹なのは実は全然関係無いんだ、そして本当の問題は人にはマジで言えない。言った所で信用して貰えないだろうし、だってみやびさん男に見える要素なさすぎだもん。


「まあでも、これで覚悟決めたわけだし頑張れよ敏夫、応援すっから」

「手伝える事があったら何でも言ってくれ」

「ああ、ありがとう、そのうち借りは返すよ」

「あ、俺みやびちゃんの友達のももかちゃん紹介してくれたら良いよ」

「いや哲平には言ってない」

「みやびちゃんグループ可愛い子ばっかだよな、まじでももかちゃん紹介でもいいぞ」

「まあそれでいいなら考えておくよ」


よし!智行に伝えたことだし、これで前に進める覚悟を決めた。


―――体育祭


体育祭当日、開会式から始まり、俺の参加競技である200m走はなんとか1位を取れた。

嬉しかったのはみやびさんが応援してくれた事、厳密にはみやびさん、中広さん(ももかちゃん)、矢矧さん(さなちゃん)の3人なんだけど。200m走で呼ばれた時にみやびさん達に声を掛けられた。


今日のみやびさんは白組用のはちまきをヘアバンドのように頭部に巻いて、さらにポニーテールにしていて、動く度に尻尾が遅れて動いて可愛い、歩くだけでも金髪のポニーテールがぴょこぴょこと動いて俺の目を楽しませてくれる、和む。ああもう本当に可愛いなあ。


「敏夫君、200m走頑張ってね、練習見てたけど君ならきっと1位取れるよ」


と言われたのだ、こんなの、1位を取るしかないじゃないか。

他の2人もがんばってね、くらいは言っていたかも知れないが耳には入っていない。

元々やる気のあった俺だがその言葉でやる気120%くらいになり、全力で走った。そして結果が1位なんだからそりゃあ嬉しい。

思わずみやびさんに向けてガッツポーズをしてしまった、気付いてくれただろうか。


「流石敏夫君、余裕の1位だったね、私も嬉しいよ、おめでとう」

「これもみやびさんの応援のお陰です、いつも以上の力が出ましたし、ありがとうございます」

「私は大した事はしてないよ、敏夫君の実力だから、でも力になれてよかった」


そう言ってくれて、みやびさんも嬉しそうで、俺も嬉しかった。


「なんかいちゃいちゃしてるんですけどこの2人」

「一応私達も応援したのになー」


なんか小声で聞こえてきた。


「あ、2人もありがとう」

「はいはい、ごちそうさま~」


まあいいか。


大縄跳びはそれなりで特に……と言いたい所だけど、この日ばかりは俺が縄回し役であった事を後悔した事はない、順位とかはどうでもいい。

先にみやびさんの名誉の為に言わなければならないが、引っかかったのはみやびさんではない、それだけは伝えておきたかった。


後から智行に聞いたんだけどやっぱりみやびさんの揺れが凄かったらしい、ワンテンポ遅く揺れ動くそれはやはり男子の注目を集めていたみたいだ、金髪美少女なんだからそりゃあそうだろう、俺も見たかったな、揺れ動くポニーテール。

というのは冗談で普通に胸が凄かった、と。俺も見たかった。


という訳でお昼ご飯の時間、今日は立ち入り禁止指定区域以外は何処で食べていい事になっている、なので俺達は校庭脇の芝生の上で2人でお弁当を食べる事にした。


偶には外で食べるのも良いかも知れない、いつもと違う空気が流れている。

それはやっぱり普段と違う、白のヘアバンドに金色のポニーテールなみやびさんがいるからだろうか。

そして今日はいかにもお弁当!って感じの海苔の巻いて有るおにぎりとタコさんウィンナーに最強定番な玉子焼き!後はいくつかのおかず。こんなに美味しいお弁当が食べられて俺は幸せだ~。

ほっぺたは緩みっぱなしでだらしない顔をしていたと思うけど、みやびさんはそんな俺を見ていつものように微笑んでいた、この時間がずっと続けばいいのに。


さて昼ご飯が終わると次は応援合戦なんだけど赤青黄白色の4チームで俺達は白チーム。

俺もみやびさんも1年生でメイン所ではなく、モブのような役割なので、特筆するような事も無く終わった。


やっとみやびさんが主役の借り物競走が始まりそうだ。

当然俺はみやびさんがしてくれたみたいにみやびさんを応援するぞ、と思っていたら智行と哲平も付いてきた。


「みやびさん、借り物競走頑張って下さい、きっと簡単なものを引いて1位になれますよ」

「うん、ありがとう、借り物競走だから本気で走る!って感じじゃないけど、頑張るよ」


「光野さん、敏夫の友人として応援してるよ、頑張ってね」

「みやびちゃん、この前はごめんね、敏夫の友人として応援してるから、頑張って」


さり気なく"ちゃん"付けするな、俺だってしてないのに。

哲平と智行に言われたみやびさんは不安そうに俺を見た、俺は頷くとみやびさんは2人に答えた。


「う、うん、ありがとう」


やはり男はダメなんだろうか、俺の前途は多難だな……。



みやびさんの番は一番最初、簡単な物を引け~と念じる。

スタート!借り物指定位置まで走り、紙を開いて見た後、殆ど迷いなく真っ直ぐコチラへ向かって来た、なんだ?何を探しているんだ?

他の人は自分のクラスの担任や教頭先生を探している、これは……借り物競走じゃなくて借り人競争か!


「敏夫君、一緒に来て!」


みやびさんは俺の前に来て、そう言いながら手を伸ばしてきた。

なんで?と考えようと思ったけどそれよりまずはみやびさんへの協力が先だ。

直ぐにみやびさんの手を取り、一緒に検査係へ走り出した。

みやびさんは検査係に紙を渡して、検査結果を待った、俺はジロジロ見られて少し恥ずかしい。

……OK!みやびさんと一緒に直ぐにゴールへ向かって走り出し、無事にゴールした。なんと1位だった。


「みやびさん、一体なんの借り物だったんですか?」

「んー、まあ、後で分かるよ」


少し恥ずかしそうにそう言うみやびさんだった、手はまだ繋いだままだ。

見たら周りも繋いだままだった、そういうルールなんだろうか。


やっとみやびさんと手を繋いでいる実感が湧いてきた、みやびさんの手は小さく柔らかい、俺の手より温度は低いのだろうか少しだけヒンヤリしていて、感触が心地良い、どうせならずっとこのままで良いんだけど。


全員がゴール後、最下位から借り人の内容が発表された、恋人、みたいなのは無いようだ、いやまてよ、みやびさんのは何なんだろうか、俺って借り人の対象になるようなのあったっけ。

うーん、兄妹?それじゃ無理な人が居るし、家族?それも無理だ、友達?だとしたら俺じゃなく中広さん達だろう、だとすると……分からん。やっぱり恋人…?いやそれはないか。


「1位の光野さんの借り物は……"イケメン"です!」


驚いた俺はみやびさんの顔を見た、みやびさんは頬を紅潮させ少し顔を背けていた。

というか俺も相当恥ずかしいんだけど。メッチャ沢山の人から見られてる。


みやびさんが俺を選んだという事は少なくとも俺の事をイケメンだと思っているという事になる、なるほどああいう人が好きなんだね、と判断されるのが普通の感想で。つまり全校生徒に対してみやびさんは"私のイケメンはこの人です"、と宣言しているのに等しいのだ。

そりゃあ恥ずかしいだろう、俺も凄く恥ずかしい。


そして俺は知ってる、みやびさんは紙を見て殆ど迷いなく俺の所へ向かってきた、つまりみやびさんの中ではイケメン=俺になっている、という事?いやそれは流石に自惚れ過ぎか。

とにかく俺は嬉しい、他の誰かにイケメンと云われるより、みやびさんにイケメンと思われる事がなによりも。


「確かにこれはイケメンですね、文句ないでしょう、実はイケメンは検査厳し目にしておいてくれって頼んでおいたんですよね、悔しいから、それなのに1位とはやりますね!1位おめでとうございます!」


そこでやっと手を離した、そして拍手、こうしてみやびさんの借り物競走は終わった。借り物はその場で解散となった。

教頭先生はこの後もまた呼ばれていて、イケメンを引いた人は検査で弾かれて最下位になっていた。


クラスメイトにイケメンが帰ってきたぞ、とか学校公認のイケメンだなとか色々弄られた。

弄るのはいいけど呼び方をイケメンに変えるのだけはやめろ。


みやびさんが席に戻ってきた時にも、みやびさんの好みってやっぱり光野くんなんだね、とか、まあそうなるよねーとか、やっぱり弄られた。


「敏夫君ごめんね、迷惑かけちゃって」

「何言ってるんですか、嬉しいですよ、役に立てて」

「そう、うん、良かった」


嬉しそうにニッコリ微笑むみやびさん、何度見ても可愛い。


そして最後、クラス対抗リレー。


クラス毎に4人選出されて、俺は2番手、流石にアンカーをやるほど足は早くない。


「敏夫君、リレー頑張ってね、これが最後だからね」

「はい、1位でバトン渡せるように頑張りますよ」


よし!最後だし、応援して貰ったし、やるかあ!


最後はクラスの皆の声援を受けながら結果は2位、本当にわずかの差だった。


こうして体育祭は終わった、俺とみやびさんの仲が少しは男女として親密になれただろうか。

多分変わらずだろう、当たり前だ、俺は特に何も出来ていないのだから。

もっと俺を好きになるような事しなければダメだろう、急ぎすぎない程度に。


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