10.勘違い/独占したい.M

MIYABI View


―――体育


通学にも慣れてきた何日目かの登校日。


体育の着替えは事前に予想していた通り、女子達の着替えに対し、下心を持てず性的興奮もしなかった、それ自体に思う所は無いけど、変わっていく自分を自覚せざるを得なかった。


そしてその体育の授業中に以前から何度か話をして仲が良くなりつつあった2人組が声を掛けてきた。


「みやびさん、良かったら一緒にやりませんか」

「良いですよ、一緒にやりましょうか」


という事で一緒に行動する事になって、友達のような感じになっているんだけど、高校時代ってどうやって友達作ってたんだっけ……私の記憶だとなんとなく気の合う人同士で一緒に行動して、なんとなく友達になっていってたような……男同士の話なんだけどね。

それで名前の呼び方もみやびちゃん、ももかちゃん、さなちゃん、とそれぞれちゃん付けで呼び合う事に。

これは友達と言ってもいいんじゃないかな?女の子になって初めての友達という事になるのかな。


ももかちゃんは少し丁寧な話し方をしているんだけど、決して大人しい訳じゃない感じで、さなちゃんはももかちゃんよりは砕けた話し方をしてて少し元気な感じで、2人共まともな子という印象かな。


―――お昼ご飯


お昼ご飯一緒に食べない?という提案がさなちゃんから有って、敏夫君が一緒でいいならという条件で4人で食べる事になったんだけど、敏夫君も私と一緒なら問題ないという風な事を言っていた、うん、お弁当のおかずが一つだからそういう事になるよね。でも問題はその後で。


「みやびさんのお弁当が食べられるならそれで問題ないです」


んん?私のお弁当が食べられるなら!?それだと意味合いが変わってきちゃうんだけど、お弁当が一つ、ではなくて、私のお弁当だから食べたいって意味になるけど?なんで態々言い直したの、気になるじゃない。


気付いてない風を装いつつ、お弁当を机と机の間に置いて、2人で食べ始めた。

そうしたら今度はさなちゃんがこんな事を言いだした。


「お弁当分けるより纏めるのは結構賢い感じだよね、恋人同士でお弁当作ってるとこなら有りかな―――」


こ、恋人同士!?私はその完全に想定外の言葉を聞いて固まってしまい、他の言葉は耳に入らなかった。

いやでも外で食べる時に分け合うのは距離が近い人なのは確かにそうだけど、でも恋人同士って、いやいやそんな、でも傍からみれば若い男女が同じお弁当を食べる光景は確かにそう見えてしまうかも知れない、そういえばさっき敏夫君が言っていた、"みやびさんのお弁当が食べられるなら"、これって2人にも聞こえてたはず、という事はそういう風に見られてて、だからさなちゃんは"恋人同士"なんて言い出したんだろうか、でも私達は恋人同士じゃない、そういう関係では断じて無い、でもあらためて考え直すとそう見えてもおかしくない行動をしている事に気付いた。


いつも2人で一緒のお弁当を食べていて、私の2人で一緒じゃないと友達2人とも同席出来ない発言、敏夫君の私のお弁当だから食べたい発言、これって、そういう風に見ようと思えば恋人同士に見えるような気がする、かと言ってここできっぱり否定してしまうと、私の癒やし時間がなくなってしまうし、それになんだか敏夫君にも悪い気がして、だって多分なんだけど、敏夫君は恋人という意味では言ってないと思う、純粋に私のお弁当が食べたいだけなんだと思う、だからここは否定せずに仲良くなれた~ぐらいに留めて返すのが良い気がするんだけど。


「そ、そうそう、なんだか直ぐに仲良くなれたんだよ、ご飯もおいしいおいしいって食べてくれるし」

「へーそうなんだ、確かに美味しそうだもんねー」


なんとか恋人疑惑は免れたのでしょうか、良く分かりませんけども。


そうして話をしている内に敏夫君がいつもの元気を分けてくれるような食事じゃなくて、元気の無い感じで、私を全然見ない、笑顔も無くて下ばかり見ていて、食事を切り上げてしまった。


「ごちそうさま、それじゃね、ごめんね邪魔しちゃって」


そう2人に言って、私の顔を最後まで見ないで行ってしまった。

多分私のせいだ、無理矢理4人での食事にして、男の子が女の子と食事と言っても私のおまけみたいな扱いで、恋人同士みたいな事も云われて、私は2人とばかり話をしている、そりゃあ楽しいはずが無いだろう。


勘違いをしていた、敏夫君は元々ああやって嬉しそうに楽しそうに食事をするのだと思っていた。

思い返せば男だった時は食べてくれるからやる気は出てたけど、今みたいな嬉しそうで楽しそうじゃなかった。


どうしたら良かったんだろうか。


「ごめんね、今日お昼一緒にって誘っちゃって」

「2人の仲を悪くしようってやってた訳じゃないんだよ、本当にごめんね」

「いいえ、私が同席を許可したんだから、私の責任です」

「多分だけど、光野くんはみやびちゃんと2人で食べたかったんじゃないかなあ」

「そうだよね、みやびちゃんのお弁当を2人だけで一緒に食べたかったんだろうね」

「だよね、あの時の言葉を合わせるとそうなるかな」


ハッとした、敏夫君が、私のお弁当を2人で一緒に食べたい?

そういえば以前に言ってくれた"幾らでも食べますから"これだって私が作ったものならという前提が付いていて、そしてその言葉は私にはまるで告白みたいだ、と感じられるような感情が籠っていたように感じて、じゃあやっぱり、2人の言う通り、本当に私のお弁当を2人きりで一緒に食べたいと思っていた?


そして私はどう思っているのか、……うん、私だって2人で一緒に食事の時間を過ごしたい。

ただ敏夫君のとは少し違うと思ってて、私が食べるよりも、君が食べるのを見ていたいという意味で、美味しそうに楽しそうに、それで時々褒めてくれて、それにはやっぱり、2人だけの空間が必要だと感じる。

決めた、2人には申し訳ないけど、お昼は一緒に食べられない。


「ごめんね、ももかちゃん、さなちゃん、明日からはお昼は一緒に食べられない」

「うんうん、いいよー、気にしないで」

「そのほうがいいと思う、みやびちゃん、がんばってね」

「うん、ちゃんと仲直りするから」

「…うーん、そういう意味じゃないんだけどなー、まあそれでもいいけど」


そういう意味じゃないの?仲直り、ちゃんとしよう。



昼休憩終わり頃、敏夫君は教室に戻ってきた。

緊張していて、情けない事に先に言葉が出せなかった。


「みやびさん、さっきはすみませんでした、ちゃんとご飯も食べられず途中で逃げてしまって」


びっくりしてしまった、敏夫君は立派だ、自分から、あの場から逃げた事を認めるんだから。


「……良いよ、気にしてないし、むしろ謝るのは私の方だから、無理矢理巻き込んでしまってわるかっ――いや、ごめんね」


そう、悪いのは私、敏夫君の気持ちをないがしろにして巻き込んでしまった私が悪い。


その後のやりとりでお互いが2人で一緒に食事をしたいと望んでる事が分かった。

そして明日からは昨日までと同様に2人きりで一緒に食事をする事も話して、仲直り出来たと思う。


正直に言って、同じ事を考えていた事、望んでいた事が嬉しかった。これが私だけの気持ちだとしたら、恥ずかしいのはそうだけど、それとは違う何か別のショックを受けていたような気がする、それが何かは分からないのだけれど。


敏夫君は本当に立派だ、逃げた事を自ら認め、今回も私が言わなければ昼の食事は身を引いた事だろう、私が友達と一緒に食事をしないといけないと思い込むぐらいには私の事を考えてくれている、私も彼を見習ってちゃんと成長しないといけないね。


結局、敏夫君との食事の時間は、私にとって特別なもので、それは誰にも邪魔されたく無くて、敏夫君の時間を私が独占したい、そういう風に感じている事を自覚しなければいけない。

いつまでも、君に頼ってばかりでは本当はいけないんだけど。

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