11.形だけでも.T

―――午後のHR


午後のHRで2週間後に控えた体育祭の分担を決める事に。

俺はそれなりに足が早く、身長も高校1年生にしては大きい175センチ、という訳で個人参加は200m走とクラス対抗リレーに決まった、団体だと大縄跳びの縄を持って回す役と応援合戦に出る事に。

みやびさんは今までの体育の授業で、やっぱりというか、そうなんだろうなと思っていたけど運動は今一だという事が分かって、借り物競走と大縄飛びに応援合戦の3種目の出場となった。


「前も運動得意な方じゃなかったけど今はもっとダメなんだよね」

「まあ誰でも得手不得手はありますから」

「慰めてくれてありがとう、君は優しいね」


みやびさんはいつも感謝の言葉を伝えてくれる、そういう所が良いんだよなあ。

チーム分けは青赤黄白の4色チームに分かれて俺達のクラスは白チームだった。


俺は運動が好きな事もあって楽しみだし本気でやりたいと考えていた。

ついでにクラスメイトとももっと仲良くなれればいいかな、なんて思う。


早速今日から練習解禁日という事で体操服に着替えるところなんだけど、その前に。


「みやびさん、今日から練習ですけど一緒に帰りたいのでお互いが終わるまで待つようにしませんか?」

「うん、いいけど、多分私のほうが早く終わりそうだから待つ場所を決めておかないと」

「練習中はスマホも使えないし、前に綾姉も言ってたんですけど、1人にしときたくないんで、出来れば見える所で待ってて欲しいんですよね、いいですか?」

「あー、そういえばそんな事言われてたね、うん、分かった、そうするよ」


1人にさせると心配なのは本心からだ、だけど、うん、見える所に居て欲しいという気持ちがあるし、別の心配をしている自分がいる。他人に奪われたくないというやつだこれは。

出来る事ならずっと一緒にいたいけどそれは無理だし、ていうか借り物競走の練習なんかあるのか?


まずは団体の大縄跳びの練習からとなった、俺はこの後はリレーの練習予定でみやびさんはこの後は空いてる。


友達2人と一緒にこちらに歩いて来ていて、3人とも大縄跳びに出るみたいだ、こっちは俺が縄を回す役回りで飛ぶほうに哲平が出る。

そういえば体操服姿のみやびさんを間近で見るのは初めてかも知れない、髪を後ろに纏めていて可愛さが違ってそれも良い。そして凄くスタイルが良い、身体のラインは細くて、足は長くて、でも胸は大きい、頭は小さいし、身長を見なければ外人のモデルさんみたいな身体つきだ。


大縄跳びの練習をしているのだけど、なんだか男子のギャラリーが多めに感じる、これはあれだな、女子達のが、特にみやびさんのが弾んでいるからだろう、俺も見たかったがどうしようもない、お前ら見るんじゃない。


練習が終わってみやびさん達に声をかけようと近づいた。


「あ、光野くん、お昼はゴメンね、気を使わせちゃって」

「ごめんねほんと、明日からは2人きりで楽しんでよ」


中広さんは普通の受け答えだけど、矢矧さんはニヤニヤ笑みを浮かべながら言ってくる、なるほど、そういう風に見てるのか、……そういう勘違いは良いかも知れない。その時になったら協力してもらおう。


「大丈夫、気にしてないから、2人に悪気がないのは分かってるし、気にしないで」


そう言った俺をみやびさんがハンカチで汗を拭きながら見ていた。


「この後リレーの練習なんだよね?着替えたら戻ってくるから、場所が分かるように手でも振って教えてね」

「分かりました、お願いします」


3人で仲良く更衣室に向かって行った、仲が良さそうで本当に良かった、あのまま仲良く長続きして欲しいものだ。

というか友達の2人も十分に可愛いくてレベルの高いグループという訳か。


という訳でリレーの練習を始めたんだけど、少ししたらみやびさんが校庭に出て来たので手を振ったら気付いてくれて、近くで見ていてくれた。そして俺の想像より大分近い、校庭の端っこから見物する、と思っていたからまさかこんなに近くで見ていてくれるなんて、嬉しい誤算だ。


一緒に練習している人達が可愛い子がいるぞ、とか誰かの彼女か?なんて言っているのが聞こえる、俺の連れです、彼女じゃないけど。

休憩中にみやびさんの所に行って少し話と、俺のだアピールをしておく、俺のじゃないけど、良いんだ、こういうのは早めに誰のものか分かるようにしておくのが大事だって漫画で学んだ。それに智行との約束もあるし。


みやびさんがハンカチで首元の汗を拭いてくれて、ヤバい、すごく嬉しいし緊張する、そんでなんか良い匂いがする。


「あ、ありがとうございます」

「明日からはハンカチじゃなくてタオルが要るねこれは」

「そうですね、流石にハンカチじゃ小さすぎて足りませんね、あ、じゃあ俺が弁当持つんでタオルを持ってもらって良いですか、俺が重たい方持ちますよ」

「んー、分かったよ、じゃあ明日からはお願いしようかな」


練習後、更衣室の前で待ってもらって着替えているんだけど、なんだか恋人を待たせているみたいでドキドキする、そう思っていると今更衣室に入ってきた人達がみやびさんの事を話していた。

更衣室前にめちゃくちゃ可愛い子が誰かを待っているぞ、と、すいません、その誰かは俺です、なんだか嬉しくなってくる、ドヤ顔したくなる、彼女じゃないけど。


「お待たせしました、さあ、帰りましょうか」

「大丈夫、たいして待ってないから、うん、帰ろうか」


更衣室を出た後見せつけるようにみやびさんに声を掛け、2人並んで一緒に帰った。


帰り道でいつものようにスーパーでお買い物。


「すみせんでした、練習結構長かったから、待ちましたよね」

「いいよ、気にしないで、敏夫君が頑張ってる所を見るのは嫌いじゃないから、それにしても、やっぱりリレーに選ばれるだけあって足が早いね」

「いやいや、俺なんて陸上部のやつらに比べたら全然ですよ、なんせ帰宅部ですからね」

「その割には良い身体してるし、中学は何かやってたのかい?」

「良い身体って、……バレー部に入ってましたよ、だから身長伸びたのかな」

「いいよねえ、身長高くて、私なんて150センチだよ、男の時は171センチあったのに、20センチ以上縮んだんだよねえ、15才ならまだ少しは伸びるかなあ」

「そうですね」

「……敏夫君今、適当に答えたね?」

「何の話でしたっけ?」


だって今のままの方が可愛いから、伸びないで欲しいと思う。


「よし!今日は敏夫君の嫌いなものを作ろう!何が嫌い?」

「あー、ステーキですね、牛ヒレ肉とか大嫌いです、嫌い過ぎてこの世から消してしまいたいです、だから全部食べてこの世から消しましょう!」

「―――敏夫君、素敵な返しだね、そういうとこ好きだな、機転が効いてて」

「お嬢様、お気に召しましたでしょうか」

「うむ、余は、じゃなくて妾は満足じゃ」

「ははは」

「ふふふ」


あー、楽しい、普通の女の子だったら絶対好きだよこんなの、好きにならないほうが無理だよ。

見た目も勿論だけど、中身だって、丁寧で穏やかなのも好きだし、こうやって冗談を言ってくれるのも好き、ちゃんと認めてくれてそれを口に出して褒めてくれるのも好き―――ただ一つ、おじさんじゃなかったらなあ、と。

そして、みやびさんは男に対して拒否反応があって、男は無理なんだって。

今は俺が男を出していないから、こういう自然なやりとりが出来るけど、もし好きになって気持ちを出してしまったら、それは間違いなく、拒否反応が出て無理だと思われるだろう。


「じゃあ今日は君が嫌いな牛ヒレ肉にしようかな、この間のリベンジも兼ねてね」

「そうですね、この世から消しましょう、まずは第一歩という事で、まあ今度は分量も分かるでしょうし、リベンジ出来るんじゃないですか」

「もし多かったらまた君に食べてもらうからね、心配はしてないよ」

「前にも言いましたけど、みやびさんの作ったものならいくらでも食べますからね、安心して残して下さい」

「頼りにしてるよ」


だから今はこれでいいんだ、あと2週間の内にどうするか考えて決めなければいけないけど。

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