9.友達/独占したい.T

―――体育、時間明け


初登校から3日目、今日は体育の授業があったんだけど、終わって教室に戻ってみたら、みやびさん含めて3人組が出来たみたいだ、友達が出来たんだろうか、それはとてもいい事だと思う、みやびさん以外の2人は確か……。


中広 桃香(なかひろ ももか)

矢矧 さな(やはぎ さな)


だったと思う、性格なんかも含めて後でみやびさんに聞いてみよう。


そしてみやびさんに友達が出来ると一つ問題が発生した、昼ご飯時に中広さん達がみやびさんに一緒に食べようと誘ってくれたのだ、みやびさんは問題ない、問題は俺で、お弁当はみやびさんが持ってて白米は2つ有って分けられるけど、おかずは1つしか無い、2人で食べてるからだ、どうしよう。


「うん、でも敏夫君と一緒にお昼ご飯食べてるから、敏夫君も一緒でいいならいいよ」


2人は少し悩んで相談した後に、じゃあ4人で食べよう、となった。本当にいいのかな?

机を4つくっつけてお弁当を広げると2人は思い出したようで納得した。


「そういえば、うん、お弁当2人で分けて食べてるんでしたね」

「まあこれなら一緒に食べる事になるね、しょうがないしょうがない」

「敏夫君ごめんね、勝手に決めちゃって、嫌だったら言ってね」

「大丈夫ですよ、みやびさんと一緒に食べられるなら問題ないです」


2人はおや?という顔をした、そこで俺は気付いた。

いつも一緒に食べていたし、その時のみやびさんの嬉しそうな表情や会話なんかも当たり前に感じていた、だから離れて食べる事が考えられないくらいには一緒に食べる事が当たり前、という考えに染まっていた事に。

だからみやびさんと一緒に食べられるなら、と思ってしまったし、意識してなかったから思わず口から出てしまった。

普通に考えたらこれは好意の現れだ、確かに好意は無いかと問われれば、有ると答えるけどもそれは恋愛感情じゃなく、……じゃなく?……本当に?

――仮に!仮にちょっと少しはそうだとしても!それはみやびさんに気付かれてはいけないのだ、男は無理だと思っているみやびさんにそれを気付かれるという事は、間違いなく今後は距離を置かれてしまうし、下手をすれば最悪家からも追い出されてしまうかもしれない、だって自分に危険が及ぶ可能性があって、拒否反応をしめす男が同じ家で寝泊まりとか、ありえないだろう。

それは絶対に避けなくてはいけない、みやびさんの料理が食べられなくなるし、家にも居られなくなるなんて、それだけは。


「ああ!いや!みやびさんのお弁当が食べられるならそれで問題ないです」


思わず言い直した。

みやびさんは聞き流していたのか、聞いてなかったのか、俺との机の間におかずを置いた。


「さ、一緒に食べようか」

「あ、はい」


いつもはみやびさんの机の上におかずを置いて2人で食べていたので、2人分の机があると距離があり遠くに感じる、みやびさんもちょっと食べづらそうに見える。


「うんうん、2人は本当に仲いいよねー、それに敏夫君、毎日みやびさんのお弁当食べれていいなー」

「お弁当分けるより纏めるのは結構賢い感じだよね、恋人同士でお弁当作ってるとこなら有りかな、まあそもそも同級生に兄妹とかそういう事自体があんまり無いけど」


……兄妹?……!?そうだった、そういえばみやびさんは義妹だった、この設定、いや設定じゃなくて事実はよく忘れる。

みやびさんも鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていて、もしかしてみやびさんもこの設定、いや事実を忘れていたかもしれない。


「そ、そうそう、なんだか直ぐに仲良くなれたんだよ、ご飯もおいしいおいしいって食べてくれるし」

「へーそうなんだ、確かに美味しそうだもんねー」


そこから話は続いたけど俺は会話に混ざらずに空気になって邪魔しないようにして、ご飯だけに集中して食べていた。なんだかいつもより味気ないような気がする。

やっぱり邪魔になってる気がして、いつもよりご飯も進まないし、全部食べきれてないけど食事を切り上げる事にした。


「ごちそうさま、それじゃね、ごめんね邪魔しちゃって」


2人にそう言って逃げるように席を離れた、みやびさんの顔は見れなかった。ゴメン。



友達のところに行き、教室の外へ行こうと促した。

ちょっと移動して廊下で智行と哲平の3人で話していたんだけど、さっきの事が気になって上の空だった。


「おい、敏夫、聞いてるか?……ダメだ聞いてね―わコイツ」

「あ!ごめんごめん、聞いてなかった、なんだっけ?」

「ん~まあいいや、それより敏夫、大事な話がある、聞いてくれるか?」

「智行か、なんだ?」


「ん~まあな、俺ね、みやびさんの事結構ガチで好きになりそうなんだわ」

「――ッ!」

「そんでな、ちょ~っと気になったんで一応確認しとこうと思ってな」

「どういう意味だ?」

「敏夫、お前はみやびさんの事をどう思ってるんだ?義兄としてじゃなく、1人の男として、な」

「そりゃおまえ――」

「先に言っとくけど、お前が中途半端な事言うなら俺は本気でみやびさんにアタック仕掛けるぞ」


ゴクリと唾を飲んだ。

智行のこの目は本気だ、俺はいつものように適当にはぐらかす所だったのを智行が逃げないように"逃げたら後悔するぞ"とあえて言ってきているんだ、本当なら俺にわざわざ言う必要のない事なのに。

みやびさんは今なら男を恋愛対象として見られないし拒否反応が出るから大丈夫だろう、だけど、智行は本気だ、1回や2回振られたくらいじゃ曲げないだろうし、前みたいに強引にやらずに正面からいって成功させるかも知れない。


自問する、みやびさんの事が好きか?と、答えは、好きだろう、だけどそれは多分という不安定なものだ。しかしじゃあ、みやびさんを他の男に奪われるのはいいのか?と自問すると、"絶対に嫌だ!"と強く思う、思った。

正面から好きだと言えない癖に奪われるのは嫌だと思う、なんて卑怯で狭量な男なんだ俺は、でも今の俺の本心だ、俺はみやびさんの正体を知っていて、男は無理だという事を本人から聞いている、だからこそ二の足を踏んでしまう、知らなければ俺も好きだと胸を張って言えただろう。

こんなのはみっともない言い訳で、今まさにみやびさんから逃げてきたばかりの情けない男だと言うのに。


考えたけど答えを出せずにいた。追い詰められても尚悩んでいる、本当に情けない奴だった。


「分かった、次の体育祭の前日まで待ってやる、その時にあらためて答えを聞かせろ」

「…え?智行、いいのか?」

「ま~な、そういや義理の妹って結婚できるらしいぜ、知ってたか?」

「……ああ、知ってる」

「それなら話は早いと思うんだけどな~、ま~、待つって言ったからには待つけどよ、せめてどんな答えにせよ、それまで他の男には盗られんなよ、俺か敏夫のどちらかだからな」

「智行、お前良い奴だな」

「うるせーよ哲平!お前も分かってるだろうな!」

「分かってるって、もしその気になりそうなら2人に声を掛けるよ」

「……智行、ありがとうな」

「礼をいうのは間違ってる、敏夫の返事次第じゃ~俺のモノになるんだからな」

「分かってる」

「あ、そうだ、俺の事を良い奴だと思うなら今ここで譲ってくれてもいいけど?」

「調子に乗るな智行」

「なんでお前が突っ込むんだよ哲平!」

「ハハッ、まあ体育祭前日まで待ってもらうさ、智行も約束忘れるなよ」

「わ~ってるって、俺はな、友達と約束は守るからな」

「やだ智行かっこいい…惚れちゃいそう…プクク」

「哲平、お前まじ馬鹿にしてんだろ…」


前回の食事の時はどうしたものかと思ったけど、こいつら本当に良い奴だ、友達でよかった。

俺に気付かせてくれようとしてるんだろうし、勿論本気でみやびさんの事も好きなんだろう、だから体育祭までという期限を設けた、線引きをしてくれた。

体育祭まで約2週間、それまでに俺自信も答えを決めないと。



席に戻る時、非常に気まずい思いをした、だけどみやびさんには謝らないといけないと思った。

そして、お昼ご飯を一緒に食べる事はやめましょうと言わなければ、本当はやめたくなんてないけれど、これはケジメとして言っておきたい。


「みやびさん、さっきはすみませんでした、ちゃんとご飯も食べられず途中で逃げてしまって」

「……良いよ、気にしてないし、むしろ謝るのは私の方だから、無理矢理巻き込んでしまってわるかっ――いや、ごめんね」

「いえ、何というか、俺はみやびさんと2人で食べたかったんだなって言うのが分かりました、それで――」

「そうだね、私も同じ事に気付いたよ、敏夫君と2人で食べたい、だから、明日からはまた2人で食べようね」

「エッ?折角友達が出来たのに良いんですか?」

「別に友達だからって、お昼一緒に食べなきゃ行けない訳でもないからね、それに君だって友達と一緒に食べてないだろう?」


言われてみれば確かにそうだ、一緒に食べなきゃ友達じゃないって訳じゃない、当たり前の事だったけどみやびさんを心配する余り忘れていた。

明日からまた2人きりでのお昼ご飯か、そう思うと喜びや嬉しさみたいなものがふつふつと湧き上がってくるのが分かる。


多分、みやびさんとの食事の時間を特別に感じていて、邪魔されたく無いんだ、みやびさんの時間を、独占したいんだ。

全く欲張りだ、ただみやびさんもそう思ってくれてたなら、それはとても嬉しい事なんだけど。

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