第30話 その勇者、復讐の輝き

 母さんが襲われた、その日の夜。俺は赤坂東宮御所の地下空間に存在する、総檜造りの御社殿ごしゃでんに転移した。


 一応の礼儀として、本殿の前の石畳に転移してからきざはしを上って本殿の内の外陣に入ってそこに腰を下ろした。


 すると正面の御簾みすがひとりでに上がって、奥の祭壇に向かって座っていたご老人が振り返って俺を見た。


「突然の訪問。失礼致します。『赤坂のご老人』。いや、伊邪那岐命いざなぎのみことと申し上げた方がよろしかったでしょうか?」


 するとご老人は柔らかな笑で答えてくれた。


「どうやら無事解脱げだつなされたご様子ですね。それは重畳至極ちょうじょうしごく

 私のことは『赤坂の爺』で構いませんよ。魂は伊邪那岐いざなぎでも、現世ではこの肉体に転生したのですから。」


「分かりました。ではそのように。」


「あの者はなんと・・・いや、何も説明しておりませんでしたか。さてさて・・・」


 赤坂のご老人は『過去を見て』話を途中で止めた。


「そうですね。あのお方、我が学園の学長である『役行者えんのぎょうじゃ』の転生者は、あなたに直接お尋ねしろと仰いました。」


「そうですか。小角おずねは口下手ですから。ではお話しましょう。我が娘、天照大御神あまてらすおおみかみの裏切りの話を・・・」


 神々の父神である伊邪那岐命いざなぎのみこととしての話を赤坂のご老人は語り出した。


「天照が狂い始めたのは、日ノ本にとっての未曾有みぞうの大災害であった、太平洋戦争が全ての原因でございます。」


 伊邪那岐いざなぎの心の痛みと共に、俺には太平洋戦争当時、天照が受けた心の痛みの光景がで脳裏に映し出された・・・


B-29によって爆撃される日本中の都市・・・そして、そこで暮らしていた人々の死!


艦載機の機銃掃射によって倒れる女や子供・・・


東京大空襲


広島への原爆投下


長崎への原爆投下


 地上の太陽に焼かれる都市と人々の苦痛みが無念が悲しみが・・・、天照の和御霊にぎみたまむしばんでしまった・・・決定的に。


「日ノ本の最高神だったた天照は、日ノ本の民の痛みと傷を背負ってしまったのです。不憫ふびんでなりません。」


「・・・」


 俺は黙って目を閉じて話に聞き入る。


「戦後、日本の各地で起こった大災害、阪神・淡路の大震災、三陸での大震災。それら全ては天照の荒御魂あらみたまの苦痛の叫びなのです。」

 

 俺はゆっくりと両目を開けて、赤坂のご老人に、いや天照の父神としての伊邪那岐命いざなぎのみことに訊ねた。


「今回の件。外国の呪霊を日本に誘致し、数多あまたの日本の神霊妖魔を堕天させた落とし前、自分が付けて宜しいか。」


 伊邪那岐いざなぎである赤坂の老人は、深く頭を下げて言った。


「日ノ本の神がつけることの出来なかった落とし前。歴史の決着。日ノ本の一番新しい新御魂あらみたまに、一切お任せ致します。」


 俺は伊邪那岐命いざなぎのみことの同意を得て、伊邪那岐の神域を後にした。


◇◇◇


 C国国家中枢本部。そこはかつてこの国の皇帝だった男の離宮があった場所。

 その地下深くにある核シェルターの中に、とある豪奢な会議室があった。


 その広くて豪華な会議室の中には、椅子がたった7つしかない。


 それはC国10億人民の頂点。C国共産党中央政治局常務委員の席であり、彼らは今重要な決断を下そうとしていた。


『日本の九十九里沖で発生した爆発のエネルギーは、科学院の報告によると推定で500キロトンの威力が予想されるそうです。

 これは美国アメリカのSLBM トライデントII D5 Mk-5を大きく上回り、我が国のICBMでは比べる事が出来ません。』


 報告をしていた男は、エアコンの効いた室内で、玉のような汗を流している。


 そして、この部屋の現代の『皇帝』は冷酷な表情で別の男に質問した。その男も『皇帝』がこの地位まで引きたてた男であり、腹心中の腹心だった。


『日本で今日未明に実行された『特殊作戦』の結果はどうなったか?』


『はい、国家首席。失敗の可能性が極めて高いと判断します。

 その理由ですが、


一、軍事偵察衛星からの映像を情報担当官か分析したところ、目標敷地内の建造物の破壊が少ないこと。


二、同じく軍事偵察衛星からの映像で、超務部隊が移動と作戦指揮所として使用したコンテナが、目標近隣の山道に放置してある様子が確認できたこと。


三、同上のソースにより、目標の建物の修復作業が開始されており、外部業者も参加してしること。


 以上、3つの理由により、超務部隊は作戦を失敗したと判断されました。』


『皇帝』が指先で机を叩き始めた。『皇帝』の苛立ちは、この部屋の椅子に座る彼以外の全員にとって看過できない兆候だっあ。


ヒューミントスパイからは何か?』


『大使館が壊滅した混乱で、現地のヒューミント情報の収集精査が出来ません。』


『どうも、同士諸君には事の重大性が理解できてない。

 日本は既に非科学的な方法で、500キロトンの『綺麗な核攻撃』の手段を手に入れたのだ。これを台湾と琉球に配置されたらどうするつもりなのだね?』


 ドン!


『どうするつもりなのかと聞いている!』


 『皇帝』は机を強く叩いて家臣に怒鳴った。


『国家主席。台湾侵攻作戦前にそれを殲滅させる必要があります。そのための超務部隊による奇襲作戦だったのですが、それは失敗しました。故に私は目標へのSLBMによる核攻撃を提案します。』


美国アメリカはどうする?日美安保で美国に介入させる口実を与える訳には行かないのだぞ!』


『美国に対しては、大使館が攻撃を受けたのですから自衛権の行使を盾に釘を指し、その一方で大統領と民主党、マスコミに金をばらまき不介入へ情報操作、誘導するのです。

 今の美国アメリカ政権なら可能です。』


『いい案です。自衛のための核攻撃で日本政府が大混乱しているうちに、艦隊を出して琉球を奪還しましょう。』


『宜しい。核攻撃を許可する。それに続く琉球奪還作戦を実行せよ!』


『なんて傲慢で独善的で利己的な老害ばかりなんだ!反吐へどがでる!』


 常務委員達が討議しているオーバルテーブルの中央に、金色に輝く光を放つ男が突然出現した。

 だが、C国の最高権力者達は動揺と驚愕のため、その男が自分達以上に綺麗なC国語で話したことに気にもとめなかった。


『貴様は何者だ!』

『ど、とこから入った!』

『衛兵!こいつを処刑しろ!』

『いや、背後関係を吐かせるのが先だ!』


 さすがC国人。一斉に話し始めると収集がつかず、うるさい。


 だが、突然の歓迎されざる『客』の出現を冷静に観察していた『皇帝』が言葉を発すると、臣下達は急に口を閉ざした。


『小日本人か?』


『傲慢な皇帝よ。日本の神々より、神を忘れた愚者への挨拶だ!受け取れ!』


【神力発現『スーパーノヴァバースト』】


 黄金の男を中心に出現した極小の超新星爆発が、現代の皇帝の権力の中枢と、過去の皇帝の居城の1部を地上から消滅させた。


 それとは時を同じくして、C国共産党中央軍事委員会の公庁が極小超新星の爆発に飲み込まれた。


 以後大国C国は、混乱の時代となる・・・・・・


◇◇◇


 C国の政治的、軍事的中枢が消滅したのと同時刻。俺は伊勢神宮の正宮 皇大神宮こうたいじんぐうの白い玉石を踏みしめていた。


 何重にも張り巡らされた神域結界の中央、正殿に座しているこの聖域の祭神をじっと見つめて・・・


 だが、ご祭神は俺を歓迎する気など、毛頭ないようで、俺の行く手を阻むように強大な神力を持った怨霊が3柱、目の前に現れた。


菅原道真すがわらのみちざね平正門たいらのまさかど、それに崇徳天皇すとくてんのうときたか。

 日本の怨霊界のドリームチームに出迎えてもらえるとは、俺も出世したもんだ。」


 おどけた俺に対して、3柱の冷たく暗い殺意が帰ってきた。

 そして、神宮神域の時間が凍りついた・・・



*************


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