第5話 その勇者、帰宅する

「ただいまー!母さん!」

「た、ただいまなのです。」


 主観的しゅかんてきに30年ぶりの帰宅。ドアを開けただけで胸が熱くなった。


「お帰りー」


 夕飯の匂いと共に聞こえた母さんの声に、玄関で靴を脱ぎすててキッチンの母さんのもとへダッシュした。


「母さん!」


 キッチンで夕食を作っていた母さんに、思わず抱きついてしまった。


「きゃっ、なになに!どうしたのユキト?」


 しまった・・・。30年分の思いが暴走してしまった・・・

 母さん、包丁を持ってなくて良かったなどとしば現実逃避げんじつとうひなぞしてみる。恥ずかしい・・・やっちまった


「スズネもお帰り。なに?混ざりたいの?さあおいでなさい。」


 リビングの入口でただモジモジしていたスズネに母さんが優しく声を掛けた。


「お、お邪魔するのです・・・」


 照れながらスズネも俺と母さんに抱き着いて来た。


「スズネも私の娘なのだから、遠慮しなくて良いのですよ。」


 二人を抱きしめながら、そう母さんが優しく言った。


 ここでは涙は流さなかったと名誉めいよの為に付け加えておこう・・・かろうじて、な・・・



 夢にまで見た母さんの手料理は、文句無しに最高だった!

 俺の大好物のハンバーグだった事もあるが、俺とスズネはきそうように母さん手作りのハンバーグをかき込んで、母さんを苦笑させた。


「ふぅ〜、お風呂最高〜!お風呂最高〜!はぁ、生き返るよ〜」


ぶくぶくぶくぶく・・・


 それで今、お湯の中に潜水なう(死語)


 風呂は命の洗濯よと昔のエラ(且つエロ)い人が言ってたが、本当にその通りだと思うよ。

 異世界での30年に渡る殺伐さつばつとした生き方で、心にこびり付いたドス黒い何かがとけて落ちる様だ!


 何故か15歳の身体に戻った様なので、勇者時代全盛期の能力は発揮出来ないが、それでもこのまま30分位なら湯船の中に潜水していられそう・・・ぶくぶく・・・


「お兄ちゃん、何をしてるのです?それもお風呂の作法なのです?」


「ぶはああああっ!」


 マッパなエルフが湯船をのぞき込んでいた。


「スススススッ!」


「ちょっと退いてなのです。これじゃ入れないのです。」


 主観的精神年齢45歳の元勇者を舐めんなよ!女の裸の1つや二つやIIIつ・・・み、み、見た事あらァ!


 真面目な話、魔族との国家総力戦を繰り広げていたあちらの世界では、女性でも才ある女性は前線に投入されたし、前線では男も女も裸なんて気にしてられない環境だったんだよ。


「よっこらせ、なのです〜」


 スズネはたくみみに俺の股の間に入り込んで、背中を俺の胸に押し付けてきた・・・


 濡れた長髪をアップにまとめてタオルでめているが、シャンプーの良い香りが・・・って、俺のと同じシャンプーだかな!


 手のやり場に困ってると、スズネが俺の両手を取って自分の胸の前で交差させた。俺がスズネの小さな身体を抱き抱えている形だ。


 あっ、ヒラタイムネ族だ・・・


「お兄ちゃん!」


「えっ、な、なんも考えてませんよー。はい。」


「もう、しょうがないなぁ、なのです。

 ところで、ねえ、お兄ちゃん。どうしてスズネがお兄ちゃんの事パパって呼ぶか分かってるの?です。」


 スズネはうつむきながら、からかうように聞いてきた。


「うーん、困ったなぁ。正直身に覚えない。しかも今は義妹ぎまいだし。なんじゃこりゃって感じ・・・」


「よよよ、私の事は遊びだったのですね。ひどい!あんまりよユキトさん!なのです。」


「おい!」


 スズネのクサイ小芝居に、両手で握ったお湯をピューっと顔に掛けてやった。

 勇者奥義ウォータースプレーなんちゃって・・・



 結局スズネが娘であり義妹ぎまいであると言う謎案件に関しては、はぐらかされてしまった。『まだ、教えてやんないのです』だそうだ。


 その後いっしょに風呂を出て、脱衣場でスズネに強く強請せまられたので、彼女の全身をバスタオルで拭かされる事になった。


 全裸のロリエルフの全身を拭くとは、一部の紳士読者諸兄にはご褒美ほうびなのだろうが、俺は綺麗な子だなあとつくづく実感はしたものの、俺自身も我が戦友(ストロングトマホーク(笑))も一切興奮などしなかったぞ!

 やっぱ、妹だとこんなものなのか?んむ、どうなの?


 でももう、今日は色々とイベントが多すぎたよ。未だに理解が追いつかないし・・・。

 きっとボルカなら、何か理屈をひねくり出して説明してくれたんだろうけど・・・アイツはもう・・・


 やめた。もう、ベッドで寝よう・・・


◇◇◇


『・・・見事、勇者ユキトよ。勇者の力量以上に其方そなたの不屈の意思にわらわから最大限の敬意と賞賛を・・・。』


 偉大だったヴェネビントの肉体はほとんど失われ、もうすぐ俺の攻撃で深く損傷した魂がはじける。そうなれば、この強大な敵の存在は輪廻りんねうずからもはじかれて虚無きょむの闇に消え去るだろう。


『勇者ユキトよ。わらわ末期まつごの願いを聴いてはくれぬか・・・』


 黙って頷いた・・・


『妾の死後、魔族の呪いは解呪かいじゆされる。あれはそういう呪いなのじゃ。だから、どうか向後こうご魔族の事はそっとしてたも。

 我が民には、妾の消滅後しょうめつご人族との争いを止め、人とは交わらすに安寧あんねいに暮らすよう命じておる。

 だから、勇者ユキトよ。わらわの民を眷属けんぞくをどうか許してたもれ。静かに生きる事を認めてたも・・・・・・』


『それなら安心してくれ・・・・・・』


『感謝する。心優しき勇者よ・・・・・・』


◇◇◇


「お兄ちゃん!起きるのです!朝ご飯なのです!もう、出来てるのです!お兄ちゃん!」


 朝から元気なスズネに布団をひっぺがされてしまった。

 不覚にもスズネが部屋に進入してきた事に気付かずに起こされてしまとは!スズネの隠形おんぎょうスキルはジジイ師匠以上なのか!?


「お兄ちゃん・・・コレハナンデスカ」


 まあ、何ということでしょう!スウェットのおパンツを高々と押し上げて、我が戦友が雄々しく大地に立っているではありませんか!


『・・・ク○ラが立った!クラ○が立った〜!わ〜い!』


 脳内でハ○ジが浮かれて踊っています。


 ていうか、余りにも過酷かこくすぎる異世界での経験のせいで、我が戦友はEDになっていたのでし・・・だがしかし、戦友よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ!戦友よ! ジーク・ジ○ン!


「コレが朝立ちというものなの?です。ふむふむ」


 あっ、スルーはしてくれないのデシカ・・・


 スズネが戦友の上にベタんと腰を下ろし、更に続けた。


「さあ、お兄ちゃん!スズネと子作りするのです。バッチコーイなのです!ふんすっ!」


「出来るかーい!お前の頭の中はどうなってんだ!」



 ちょっと遅めの朝食 ―スズネのせい― は、塩鮭と卵焼きと味噌汁の黄金のレシピだった。

 だが、ご飯をしっかりとオカワリしながら母さんにスズネの文句を言った。


「母さん。スズネの情操教育じょうそうきょういく間違えてやしませんかね?女の子なのに、恥じらいってものが・・・ウンタラ」


 確かに共同生活は昨日からはじまったばかりで、母さんに責任が無いことは重々じゅうじゅう承知しているのだが・・・


「あら、何言ってるのユキト。スズちゃんはお兄ちゃんに甘えてるのよねー♡」


「はいなのです!スズネはお兄ちゃんにデレデレなのです。ツンなしなのです!」


「それにユキト。スズちゃんは養女だから、16になったら結婚だって出来るのよ。お母さん、ユキトとスズちゃんの赤ちゃん早く見たいわ〜」


「ガッテンなのです!お母さん。頑張ってポコポコ量産するのです!」


ピンポーン


 いたたまれなくなり、食卓の会話からのがれるように玄関で来客を迎えたら、昨日の黒スーツの凸凹でこぼこ2人組がニヤニヤしながら立っていた。


「今聞いた事は、忘れろよ」



*****告 知*****

新作短編投稿始めました。


【ダンジョン部物語】

親子の夢をひたむきに追いかける物語です。


https://kakuyomu.jp/works/16816927862407959471


*************


【応援よろしくお願いします】


「面白かった!」


「続きが気になる!読みたい!」


「ユキトの今後はどうなるの?」


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