第4話 その勇者、神霊と闘う


 静謐せいひつだった拝殿はいでん前の空間に、突如とつじょ出現した禍々まがまがしいしい空間の裂け目。

 それだけで先程の黑闇天こくあんてんとは比較出来ない程の得体の知れない力を感じる。


「皆下がれ!何か出て来るぞ!」

「さっきの黒鬼より、ずっとヤバいのです!」


 スズネを後に下がらせながら、カイ達にも警告した。まぁ、見りゃ分かるだろうがな。


ドーントントンドーンカッ!


陣太鼓じんだいこ・・・」


 聞いた事の無い太鼓のリズムだが、大男のカイは聞き覚えがあるようだ。


「古くは奈良時代から続く、戦陣において軍勢の進退を指揮する太鼓だ。」


「流石、年の功。物知り。」


 あっちの世界を込で45年生きた俺だが、知らん物は知らんし。


ザッザッザッザッザッザッザッ!


 今度は陣太鼓に合わせて、軍勢が足踏みする音が聞こえ来た。


 うん、これは聞き覚えがあるぞ。魔族の前線で自陣の精鋭せいえいを送り出す時、魔族の兵卒へいそつが精鋭を鼓舞こぶする為に息をそろえて足踏みをしていた。

 万を超える軍勢がこれやると、俺でも慣れるまでは心臓をギュッとにぎられる様な恐怖を感じたよ。


ゾワッ!


 神経をヤスリでけずられる、なじみの感覚!

 やはりこいつ、かなり強い!


 軍勢の音にされる様に、一体の鎧武者よろいむしゃが姿を現した。


「ひっ!」


 それを見たトウジが短く悲鳴を上げたが、その気持ちは分かるぞ。


 空間の裂け目から姿を現したのは、古風なよろいを身に着けた武者であったが、かぶとはなく頭が有るべき位置には、赤黒い火の玉が浮かんでいる。


「あの鎧は大鎧おおよろいだな。作りから見てかなり古い。平安か鎌倉時代の作りか?」


「あれを見てその感想とは、オッサン大物だよ。ホント」


 大男は時代劇マニアなのか?

 そんなウンチクより、この武者、頭のない姿でじっと俺を見てるみたいなんだが・・・こっち見んな!


 嫌そうにしている俺を見かねたか、大男が鎧武者に話し掛けた。


「掛けまくもかしこ

荒魂あらみたま大神おおきみ

豊葦原中国とよあしはらのなかつくに鷹巣たかのすもり

せる

諸々の禍事まがごと・罪・穢れ有らざらえば

黄泉比良坂よもつひらさかかえりたまえと

かしこかしこみもまをす」


「日本語で話やがれ、です!」


 小声でスズネが悪態を付く。

 うん、俺も半分分からんが、分かった振りしよっと。


『主命によりまかり越したが、一廉ひとかどの礼を知るの方は童共わっぱどもほふってから苦まぬ様に切り捨ててつかわそうぞ!』


 地獄の亡者もうじゃの様な声で物騒ぶっそうな事を言う・・・声帯も無いくせに!


「絶対コロスマンにオッサンの呪文が効いてない件。」

「脳まで筋肉の肉だるまには荷が重すぎなのです。」


 さて、さっきの黑闇天よりずっと格上みたいだが、を使ったらこの神社一帯が更地さらちになっちまうし、今の俺だと制御しきれなさそうだからな・・・


『黒丸!』


 再び愛刀を呼び出した。


『ほう!異形なれどわっぱには分不相応な大太刀おおたちよ。どーれ、童をくびいてその大太刀を手中しゅちゅうに収めてくれようかぁ!』


 それを無視して、すーっと黒丸を右に立て寄せ、息をゆっくりと吐き出した。


『キエェェェェェッッッッ!!!』


 鎧武者よろいむしゃが腰の太刀を引き抜き、俺の首を狙って飛び掛ってきた!


 簡単には取らせんよ!


 俺はヤツの二の太刀、三の太刀を足を半歩引くだけでかわし、化け物の連撃を静かにかわしつづけた。


「なんと言う足さばきだ!あの全ての斬撃を、みな一分いちぶ見切みきりでかわすとは!

 相手は荒魂あらみたまとは言え、神なのだぞ!」


 大男のカイの驚きの声を聞きながら、スズネが呟いた。


「それがどうしたなのです。お兄ちゃんは、あっちの世界では亜神や邪神までも倒した、心優しき勇者なのです。」


『はっはっは!わっぱよ、避けるだけでは余は倒せぬと知れ!』


「は、早い!剣筋が見えない!」


「武者鎧のの太刀筋も驚きだが・・・トウジよ、その連撃を休む間もなくしかも正確に一分の見切りでかわし続けている少年の精神力こそ見事だ!」


 大きいのと小さいのが、人の死闘をさかなにゴチャゴチャ言っている。

 まあ、今回は見てる側なので気楽なのは分かるけどさあ・・・


「おっと」


 胴を払った一撃を半歩後ろに下がっギリギリに躱す。と、下段から逆袈裟きゃくげさに切り上げて来た。


 刃文はもんが美しい。りも大きいし、古太刀ってやつかな?見せてって言ったって、無理だよなあ・・・見たいなあ・・・ほしあなぁ


『どうした、童!余裕が無くなったとみた!黙ってひざまづき、大人しく首を差し出せば苦しまぬよう首をねてつかわそう!

見事な足捌あしさばきを見せた礼として!』


 もう、物はこれ以上無いかな?


「なあ、落武者おちむしゃさん。さっきから同じ太刀筋が何度か繰り返してるけど、もう新しい技は無いのかな?だったらお終いにしても良い?」


れ者め!先程から逃げる事しか出来ぬ小童に何が出来ようぞ!身の程をわきまええろ!』


 俺は、鎧武者の怒りに任せたヌルい剣戟けんげきを避けながら、ゆっくりと黒丸を持ち上げ大上段に構えた。


「いかん!ここで大上段とは!格上相手に『後の先』をとられるぞ!少年。」


『小賢し小童めがぁぁ!許さぬぅぅ!』


『八葉』

ふんっ!


 上段に構えた黒丸を、気合と共に振り下ろした。と、同時に化け物の大鎧はズタボロに切り裂かれた。


「同時に八本の剣戟を生み出す、お兄ちゃんの奥義なのです。

 高速で連続して切る残像による錯覚ではなく、正に

 勇者が血のにじむ努力の末に体得した剣技なのです!」


『くっ!み、見事な技じゃ!だが、鎧を切っただけでは余は・・・・・・ぎややゃゃゃゃ―――!』


「済まないなぁ。この黒丸は敵の刀なんだ。

 その鎧の中は空っぽでも、妖力か魔力かは知らんが、何かそんな力で操って居るんだろう?

 黒丸は、一度それを切ったなら、そこから敵の魂を喰らいつくす!」


『おのれぇぇー!小童ぁー!いずれ余の首が・・・・・・・・・』


 ドクンと黒丸が満足そうに身震いした。さぞかし喰いごたえのある魂だったみたいだな。


 拝殿を見ると、もうそこにはあの不思議で高貴な童子の姿は無かった。


「あの御方はどうやらお隠れになったようだな。

 ところで、礼を言わせてくれ。

 俺は壹級伏魔師いっきゅうふくまし秋津洲あきつしま カイ。それと、こいつは弎級伏魔師さんきゅうふつまし門松かどまつ トウジだ。

 民間人の君達に助けられるとは、全く面目無い話だが、弟子共々助かった!本当にありがとう!」


 そう言ってカイとトウジは俺達の目の前で手を付き礼をした。


「イヤイヤ、どうか顔を開けてください。秋津洲さん。門松さん。

 本当に二人を助けたのは、あのやしろのお方ですよ。

 あの子が二人にエリクサーをくれたんです。でなかったら二人を蘇生することは出来ませんでしたから。」


「そうだったのか。この社の御神体が・・・」


「ところで、ちょっと教えてもらえませんか?今の落ち武者や、さっきの黒鬼って何なんですか?」


 俺はぎもんを素直に質問した。


「そうか、君は妖魔神霊ようましんれいを知らないのか。簡単に言えば、妖怪や怪異のたぐいだ。

 ところで、君の名を教えてはくれないか。このとおり!」


「俺は天霧 ユキト 。ん〜、ただの中学生だ。」


「私は天霧 スズネ。ただのユキトお兄ちゃんの妹なのでっす!フンス!」


「・・・ただのってなに・・・」



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