第3話 その勇者、神様に会う

本日の2話目です。

まだ第2話をお読みでなかったら、

そちらからお読みください。

それでは、以下本編


―――――――――――――――――


 拝殿はいでんから現れた童子わらしは、涼やかな狩衣かりぎぬ姿で無冠むかんだが気品のある顔立ちをしており、その後ろには二人の狐の面を付けた巫女服姿の幼女を従えていた。


 雰囲気ふんいきからしてこの世の者ならぬ空気を身にまとっており、静やかに俺を見据みすええる眼差まなざしには図り知ることの出来ない英智を感じる。


 貴人の童子が唇に薄く微笑みをたたえながら、手に持つ扇でスっと境内けいだいに横たわる大男を指して、ゆっくりとうなずいた。


「お兄ちゃん。助けろって事なのです?」


「ああ、どうやらそうらしい。スズネは蘇生魔法リザレクションは使えたりする?」


 スズネは残念そうに首を横に振りながら言った。


「お兄ちゃん、ごめんなさいなのです。回復系の魔法は得意ではないのです。」


 いや、涙目になる必要ないから。


「そうか。俺も高位回復魔法ハイヒールまでしか使えないから、気にするな。

 でも、どうしたもんかな・・・。エリクサーなんか、持ってないよね?」


「ううっ・・・。お役に立てないダメダメな妹でごめんなさい、なのです。お兄ちゃん。

 スズネは生まれたばかりなので、無限倉庫ストレージも空っぽなのですぅ〜。」


 生まれたばかりとは何ぞやと突っ込もうとしたら、殿上でんじょうの高貴な童子が袖元そでもとで口を隠して声もなく笑いながら扇でトントンと自分の袖を叩いて見せた。


 知らず知らず俺も右手を左手の袖の辺りに持ってきた時、懐かしい感覚が脳裏のうりにイメージされた。


無限倉庫ストレージ・・・」


 魔王と邪神との長き決戦で、補給物資ほきゅうぶっしをかなり消費していたが、確かにこれは俺のストレージだった。


「あれ!でもエリクサーなんかとっくに使い切ったはずなのに、在庫が2つも残っている。」


 エリクサーの存在に驚いて殿上の童子を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべながらホレハヨとばかりに扇で俺をかした。


 急ぎ黒丸を帰還させて無限倉庫ストレージからエリクサーを2本取り出し、その内の1本をスズネに渡した。


「スズネ。この1本をあの倒れている大男に使ってくれ。出来るね?」


「ガッテンなのです。お任せなのです。」


 ススネが石畳に倒れ伏した大男に元気に駆け寄って行く。あらら、エリクサーを振りかけるまえに、足でひっくり返してるよ・・・せっかくだから、優しくしてあげて。


 俺は無惨むざんにバラバラにされたトウジと呼ばれた化け猫使いの身体パーツを寄せ集めて、彼の全身にエリクサーの黄金の液体を振り掛けた。


 すると彼の全身パーツ金色こんじきの光に包まれて、それが納まると五体無事に復活したトウジが静かに横たわって居た。

 でもね、残念ながら着てたスーツはボロボロでほぼ裸なんだよなぁ。生き返えれたんだから、裸族でも気にしないよね?


「・・・ううっ、ばあちゃん・・・お腹すいたけん・・・」


「何だそりゃ、どんな夢みてんだよ?」


 トウジが、息を吹き返すと・・・


「トウジィー!無事だったか!良かった!本当に良かったぁ――!!」


 こちらもスーツがボロボロな大男が、トウジに飛び付いて、オイオイ大声で泣きながらトウジの肩をブンブン揺さぶっている。


「カ、カイさん、や、やめて〜」


 大男のパワーで肩を揺さぶったので、デスメタルのヘドバン以上に激しくトウジの髪が前後に踊ってる・・・

 オイオイ、踊る長髪は見てて面白いが、脳震盪のうしんとう起こさないのか?


 二人が互いの無事を喜び合っていると・・・


シャンシャ―――ン♪


 透明な鈴の音と共に、巫女姿の幼女二人が、拝殿はいでん殿上でんじょうから御神木ごしんぼくの有った所へ転移して来た。


 この世界、転移できる人多すぎね?転移から出現する際の魔力の予震も全然感知出来ないし、みんな才能有りすぎ・・・


♪シャシャンシャ―ン♪

 二人の巫女が神楽かぐらを舞い始めた。一糸乱いっしみだれず同調した、優雅ゆうがで見事な舞である。


♫ピ――ヒャララ―ピ―♫

 巫女の神楽に合わせて殿上の貴人が横笛を吹き始めた。


 しばし遠いいにしえみやびな笛の音と神楽舞かぐらまいの調和に身を預けていた。

 何か天と地のことわりを問いかけられている、そんな気持ちにもさせらる笛と舞だった。


 カイとトウジの2人もかしこまっている。


 思えば異世界転生してからは、モンスターや魔族との戦いと、人間同士のみにくい争いの毎日で、俺の心はすさみささくれ立っていた。


 唯一魔王に挑んだ四人の仲間だけは、ありのままの俺を、勇者としてでは無くただのユキトとして受け入れてくれた。

 そんな仲間が、一人一人と倒れて行った時、人としての俺の心は死んでしまったのだろうなぁ・・・・・・


 でもこの不思議な笛の音と神楽かぐらの舞は、俺とこの世界の調和ときずなを取り戻すかのように、優しく心に染みて行った。


「お兄ちゃん。泣いているの・・・です?」


「ち、違わい。目から汁がね・・・」


 急いでコートの袖てゴシゴシを涙をぬぐった。


 いつの間にか、つか神事しんじは終わり、二人の巫女は拝殿はいでんへ戻っていた。


 俺たちは拝殿の貴人に向けて、ゆっくりと深く最敬礼さいけいれいを行った。

 柏手かしわでは要らないよね?


 すると、狩衣かりぎぬ姿の童子は再び薄く微笑みながら、ちた御神木を扇で指した。


「あっ、あれあれっ!お兄ちゃん!御神木に若芽が息吹いぶいているのです!すごいのです!」


 雷に撃たれ、化け物にけがされ破壊されたかしの木は、もう駄目だめだとばかり思っていた。

 でもわずかに残った根元から、3・4本の小さな若芽が伸びやかに芽吹めぶくく姿に、俺はとても大事なことわりを教えられた気がした。


「例えその命に終わりが来たとしても、その命は次の命に受け継がれて行くんだね。ああ、この世の生命に終わりはないんだな・・・なあ、エルドレイン。」


「お兄ちゃん・・・・・・」


 スズネが強く抱き着いてきた。

 言葉では何も語らなかったが、スズネにとってもこの事はとてと大切な出来事であったんだろう。


 いつか、二人でこの事を語り合えたらなと思い、俺もそっとスズネを抱き返した。


 そんな俺達を殿上の貴人は、優しく見つめてくれた。


ヴウギャャ――ウワア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

バチバチバチバチ


 突然、男の狂乱する声が鎮守ちんじゅの森の静謐せいひつを破り、一瞬で神社の聖域を禍々まがまがしい気で満たした!

 同時に、拝殿はいでん前の広場の中央に、何本もの黒い稲妻がぶつかって大きな空間の割れ目を作り出した!



*************


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