第7話 黒ネコとの再会

 公園からマンションまで帰ってくる頃には、もう陽は落ちて暗くなりかけていた。西の空に雪を予感させるような分厚い雲が張り出してきている。


(やっぱり明日は雪だな)


 四階まであがり玄関の前でクローンチェックしようとしたら誤作動で入れなかった。古い建物だからよくあることだ。


 そしたらそこであの音がした。


 シャリーン、シャリーン。


 聞き覚えのある鈴の音。まさかと思い足元を見るとそこにあのオッドアイの黒ネコ。誤作動はそのせいだったみたいだ。


「びっくりした、やあ、なんだ君か」


 あのときはまた会える気がしたけどまさかこんなに早く再会できるなんて思わなかった。


(やっぱりこのネコは迷い猫なのかなぁ。もしかしたら飼い主がさがしてるかもしれないな……あれ??)


 首輪のところに昨夜はついてなかったデジタル迷子カプセルがついていた。


 なにかこのネコに関する情報がわかるかもと思い、そおっと手を伸ばして手に取ろうとすると、黒ネコは嫌がるどころか、胸を突きだして、むしろカプセルをつかませようとしてくる。


 少し驚きながらも手に取った僕はいろいろ操作してみた。ネコの肉球の形のボタンがあったので押してみる。するとニャーニャーと鳴いていた黒ネコの声が明るい男の子の声に変わった。ボイスチェンジアニマルメッセージだ。黒ネコの口の動きにあわせて内容が伝わってきた。


『はじめまして。ボクの名前は三池トミ丸。五年生。トミ丸って呼んでくっれていいよ。今、君が目の前にしている黒ネコはクロ丸という名前の男の子。ボクとクロ丸はすごく仲良しなんだ。ところでボクはある理由によって家の外に出られない。さらにある理由により外部とネットワークでのつながりもない。だから一緒に遊ぶトモダチができないんだ。そこで一計を案じて、ボクのことを何でも知ってるクロ丸にボクにぴったりのトモダチを見つけてきてもらうことにしたんだ。いい案でしょ。ただしクロ丸は警戒心が強いから簡単には知らない人に近づかない。だから、君がこのメッセージを聞いているということは、つまり、クロ丸が君を気に入ったということ。だから、君とボクはきっといいトモダチになれると思うんだ。ボクのママうえだってすごく喜んでくれるはずだよ。詳しいことは会ったときに話すから、とにかく君はクロ丸のあとについてくるだけでいいよ。クロ丸がウチまで案内するから。それじゃあ、またあとでね』


 メッセージが終わり黒ネコはもうネコの仕草で前足をなめている。


(……なんなんだ、いったい。すごく一方的な内容だし、わからないことだらけだし、家の外にでられないってどういうことだろう、このネコのなまえと飼い主がわかっただけでも良しか)


 しゃがみこんでクロ丸の頭をなでた。あくびを連発している。ところが急にそのあくびをやめて、何かを思い出したかのように背筋をピンと伸ばすクロ丸。それから素早くあたりを見回したかと思うと、次の瞬間、足で強く床を蹴って走り出し、階段を駆け下りていった。


「ちょ、ちょっと待ってよ、クロ丸。ねえ、待ってくれー」


 僕も急いでクロ丸の後を追って階段を駆け下りた。


 マンションの外にでるともうすっかり暗くなっていた。先に行くクロ丸はどんどん夜に飛び込んでいく。


 案内してくれているとは思えない速さだ。見失わないように必死で追いかける。一段と寒気が強くなったみたいで耳もひりひりするほどだ。クロ丸はふりかえることなくどんどん進み、人の多い商店街のなかへ入っていく。僕も続く。


 商店街のなかは様々なタイプのお買い物代行ロボでごったがえしていた。シンプルなカート型のもあれば人型ロボのもある。人混みというかロボ混み。マイお買い物ロボ同士のロボ友とかも流行ってる。登校代行ロボだってあっていいのに、ない。


 クロ丸はロボたちの間を縫うようにすり抜けていく。僕は忍者っぽい動きや場合によってはロボ跳び箱しながら必死に追いかける。


 しばらく走り続けて商店街を抜けると、今度は閑静な住宅地の方へ向かった。僕の住むマンションからは西へ数キロメートルぐらいのところだろうか。


 すると、ようやくそこで前を行くクロ丸の足が止まった。どうやら目的地にたどり着いたみたいだ。走るのをやめた僕は肩で息をしながらクロ丸のそばまで歩いていく。そこはただの広々とした空き地だった……。

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