第9話 証拠と冤罪

 最初に異を唱えてくれたのは彼だ。


 私もおかしいとは思いつつも、確証がないままではライフォンを庇いきれないと躊躇うばかりで、何も出来なかった。


 そんな中友人の為にとアルは声を上げ、糾弾してくれたこそ、私も決断できたのだ。


 アルの行動はとても勇気がいり、そして後押しをしてくれた事に感謝している。


(後はこの決断が実を結んでくれれば……)


 何かが見つかる事を祈るばかりだ。


 そうして待つこと十数分、どうやら何かがあったようで、ざわついている。


「怪しいと思われるものはあったのですが……」


 見た事もない金属の筒、ペンより少し太いくらいかしら?


 片方の端にはガラスのような物がついている。


「何でしょう?」


 何かの魔道具かしら? でもこんなものどうやって使うのかしら。


「怪しいとは思ったのですが、使い方が分からず、確証がないのです。聞いてもただの飾り物と言われるばかりで」


 このままでは証拠にならないという事か。


 魔道具に詳しい先生を呼んでいるそうだが、魔道具は高価で、市井にはそこまで普及していない。


 いくら詳しくても、見てわかるものだろうか。


「貸してください」


 アルはその魔道具を見て何か閃いたのか、手を差し出す。


 教員は少し戸惑った後私の顔を見る。


 私は自分が責任を負うつもりで頷いた。


 教員から謎の魔道具を受け取ったアルは、筒の部分を捻る。


 するとガラスのようになっていた方から白い光が伸びる。


 まるで小さな太陽を詰め込んだかのような眩しさを放っていた。


「暗い場所を照らす魔道具ですね。これでライフォン様の目を狙ったのでしょう」


 白く眩しいその光を直接目に当てられたら、到底物など見えなくなるだろう。


 ライフォンが動きを止めたのは、これのせいか。


 その証拠を知らされて、オニキス様は一瞬硬直し、そしてため息をつく。


「残念だ。私の側近でこんな事をするものが居るとは」


 それを聞いた側近は青ざめた顔になった。


「私は殿下の為を思って……」


「私は頼んでいない。全てはお前が勝手にした事だろう?」


「そんな!」


「言い訳は無用だ。今潔く認めれば家族までは問い詰めない」


 なんて卑怯な男だ。


 家族の事を思ってか、側近はそれ以上何も言えなくなっていた。


 しかしその顔には深い絶望と失望が感じられる。


 そのまま促されるままに教員に連れられこの場を後にする。


 こうなると側近の独断という事で処罰されるのだろうか。


 オニキス様が指示をしたのかどうかは分からなくなり、真相も有耶無耶になってしまう可能性がある。


 私は怒りを覚えたが、彼が何も言わなければ、これ以上オニキス様を追及する事は出来ないだろう。


(絶対に許せない!)


 卑怯な手で勝とうとし、それを棚に上げてライフォンと花の女神様を罵った男となんて、親しくなれるわけはない。


 当然だがオニキス様への信用はまるっきり地に落ちた。



 ◇◇◇



 結局オニキス様が罰せられることはなかったし、側近はあれから姿を消した。


 どうなったのかは知らないが、良い結末など訪れないだろう。


 あれ以来オニキス様とは距離が開き、話しかけてくることもなくなった。


「もうこれであの人と話すことはないわよね」


 私の呟きをティディが補足する。


「あんな事があったし、皆も距離を置いているわ。少なくともこの国の人ならね」


 あんな事をしておいて仲良くしようとは、この国の人ならば思わないはずだ。


 友人と共にそんな話をしていると、アルが走ってきた。


 何やら大事な話があるという事なのだが、何なのだろう?


 ライフォンも伴わずに来たのだから、余程急いでいるみたいだけど。


「ヴィオラ様、大変です! あなたとカミディオンの殿下との縁談話が出ているそうです!」


「えっ?!」


 寝耳に水なんだけど。


「勿論女神さまの許可もなくその様な事は行なえませんが、どうにも外堀を埋めて、あなたの逃げ場を失くして囲い込もうとしているらしく……」


 それを聞いて寒気がする。


 好きでもない男との結婚なんて嫌。


「でももうすぐ私は婚約するのよ? そんな事現実になるわけないわ」


「その婚約も潰そうとしているらしいです。どうやらこの間の件をあなたとライフォン様、そして僕のせいだと押し付けようとしているらしいのです。その見返りとして花の乙女を寄こせと」


 荒唐無稽過ぎてくらくらする。


 でも国同士の諍いともなれば、馬鹿らしいの一言では済まない。


 いくら花の女神様でも人間の政治には口を出せない、このままでは被害は大きくなってしまうだろう。


「どうしよう……どうすれば」


 何とか事態を鎮静化する事は出来ないだろうか。


「あの王子様を黙らせる事が出来ればいいのですが」


 何やら物騒な話だ。


 でもそれが一番早い気はする。


「もういっそ花の女神様の前に連れて行って、ぶっ飛ばしてもらおうかしら」


 恐らくあんな男を女神様は認めない。


 ならば像の前に連れて行って現実を見せれば……。


「それは駄目です!」


 さすが花の女神様の信者、そんな事をしたら罰当たりだと思うわよね。


「第一そんな事を公でやっては、逆恨みされますよ。あなたやライフォン様はともかく、ご友人や女神様の加護の行き渡らない方を人質に取られるような事をされたら、どうするのですか」


 確かにアルの言う通りかも。


 側近を簡単に切り捨てる人だもの、人質に取る事くらいしそうだ。


「あなたがまだ子どもの姿だから諦めないのもあるでしょう。婚約が成立し、成長したあなたを見れば諦めざるを得ない。だからこうして婚約前に妨害しているのだと思います、まだチャンスがあると」


 この姿だから、まだ付け入る隙があると思われているの?


 それならばとても不快な事だ。


 女神様、やはり花の乙女も普通の成長速度にした方が良さそうですよ。


 こうして変なのに目がつけられてしまいますからね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る