第10話 前倒しと事情

 アルの忠告を聞いて、すぐにお父様に相談を、と思ったのだが、帰宅した時には既に話は伝わっていた後だった。


「パメラを通して花の女神様から事情を聞いたぞ、対策はもう済んでいる。それにしても厄介な事になったな」


 花の女神様ってそのような話も伝えてくれるの? 早馬がなくてもそのような事が出来るなんて、女神様ってやはり凄いのね


「申し訳ございません、私もまさかこのような事になるとは思っておりませんでした。オニキス様に対して認識が甘かったですわ」


 ライフォンやアルに対応を任せるのではなく、家として抗議を出せばよかったわ。


 今更ながらもう少し早くに対策して何とか出来たのではと、悔やんでしまう。


 お父様と対面で座りながら、今後どうしていくかを話し合う事となった。


「ヴィオラのせいではない。そもそも他国の王子とはいえ、決まっていた婚約の話を無くし、受け入れるわけはないのだからあり得ない事をしたのはあちらだ。下手な横槍と茶番に乗って、大事なヴィオラを渡すわけがないだろ。たとえ花の乙女でなくても、このように事件を捏造すれば手に入れられると考える傲慢な王子との婚姻などさせるわけがない」


 大切に思ってもらえてると聞いてほっとする。


 もしかしたら要求に負けて私を渡してしまうかもと思ったけれど、お父様は乗り気じゃないようで良かった。


 家の存続や国の事もあるし、行くわけにはいかないんだけどね。


「今回の話はうちだけでは留まらない者だ。だから先方にも話はしている」


「あちらは何とおっしゃったのでしょうか?」


 カミディオンとの王族とのしこりになる可能性が高い事だ、もしかしたら辞退をされたりしないだろうか。


「ヴィオラの事をかなり心配している。それで早めに婚約をし、地盤を固めようという話になった」


 女神様と国王陛下が認めた婚約を覆すのは相当難しく、また一度婚約を交わせばライフォンのように花の乙女のパートナーとして相手の事も守られる。


 そうなれば少しは執着がおさまり、花の乙女の力を狙われなくて済むかも。


 でも、楽しみな反面、不安感が募る。


(次こそは大丈夫なのよね?)


 もう女神様に断られたりはしないだろうか。


 そして私も婚約者となる方を愛せるかしら。


 ずっと会ってもないし、文すらも交わしていない。それなのに。


「パメラやライフォン様のような関係を築けるかしら」


 二人のような関係性を築ければいいのだけど、可愛げのない性格の私がそのように出来るか心配だ。



 ◇◇◇



 それから改めて婚約の日が決まった。予定よりも二週間も早まって為に準備が急ピッチで行われる。


 私は早く大きくなれるという喜びよりも戸惑いの方が強く何とも落ち着かない日々を過ごす事になる。


 あれからまら学園を休むようになったからなのもあるけれど、落ち着かない。


 これ以上問題を作らないようにという事と、今回の件でまだ話し合いがあるかららしいが、何もしていないとむしり気が滅入ってしまった。


「緊張する……」


 そんな事を部屋で一人呟いていると、パメラが来た。


「お姉様、大丈夫ですか?」


 優しい声と言葉に私は思わずパメラに抱き着く。


 体格差のせいで姉妹逆転しているようになるけれど、今はそんな事気にならないし、揶揄するものもいないから、うんと甘えてしまう。


「大丈夫かな、私。しっかりとやっていけるかしら」


 婚約はゴールではない、スタートなのだ。


 それなのにスタートに立つ前から挫けそうで弱音がぽろぽろと口から出てしまう。


 普段こんな事をパメラに言った事はないのだけれど、パメラは嫌な顔一つせずに私の話を静かに聞いてくれた。


「大丈夫です、お姉様。私もそうでしたが、すぐに不安はなくなりますよ」


 花の女神様が認めてくれた運命の相手というのは、自分達が思っている以上に相性がいいらしい。


 会えばビビッと来るそうだ。


「でも最初は女神様のお眼鏡にかなわなかった人よ。本当に私達やっていけるかしら」


 今度は認められたというけれど、本当なのかもわからない。


 私はまだパメラのように花の女神様の声を聞けていないから、余計に不安になってしまう。


「ふふ。あの時はお義兄様になる方が少し焦り過ぎたそうですよ。お姉様を守る力もないとか、色々な形式を無視したとか女神様がおっしゃってましたもの。だから、反省させる必要があったそうです」


「そうなの?」


「えぇ。だから女神様より試練を与えられたのですわ、お姉様に相応しい人になるまでは会わせないと」


 そこまで言ってパメラは少し言いにくそうに声を小さくする。


「……実は女神様なのですが、彼が成長するまでお姉様が思い出せないよう魔法を掛けたそうです。彼について記憶が曖昧で、名前も顔も思い出せないのはそういう事なのです」


 えっ、そんな怖い魔法もかけられてたの? 


 体だけではなく記憶までいじられるなんて……女神様に対して文句を言っても罰は当たらないわよね。


 沸々と怒りがこみあげて来る。


「ごめんなさい、私達も口止めされていたの。女神様も反省しているわ」


 それを聞いて、はいそうですか、とは許せないが、今パメラが話せたという事は、彼が女神様に認められるほどの男性となったからだろう。


 女神様の仕業はともかく彼の努力は本物だと信じたいわ。


 でも、そんなに努力をしてくれた彼に対し、私は何かを今まで頑張ってきたかしら。


「女神様のせいとは言え、私何も知らずにただ時を過ごしていたのね。彼はずっと頑張っていただろうに……そんな甘えていた私が、彼にとって本当に相応しいのかしら」


 私はただ妹に嫉妬をしたり、様々な事を女神様のせいにしたりと、心綺麗になんても過ごせていない。


 勉強等は確かに頑張っていたけれど、正直他の道がなかったから、という思いもある。


 敷かれたレール上で生きてきただけの私が、そんな努力家な彼の配偶者でいいのかしら。


「心配になる事はありませんよ。女神様のせいなのもありますし、彼もお姉様の為に頑張る事は名誉な事だとおっしゃってるそうですから」


 その口ぶりだと、既にパメラは彼を知ってるようね。


「それと女神様はいつもヴィオラに申し訳ないことをしたって、私に話してきますもの。いっぱい謝罪したい、だそうですわ」


「謝罪ねぇ……それは成長を止めたことについて? それとも記憶を勝手に変えたことについて言っているのかしら?」


「両方ですわね。あと両思いだったのにすぐに認めてあげられ無かった事もでしょうか。これ以上は女神様が直接話したいそうですよ」


 そうか。


 私ももうすぐパメラと同じく女神様の声を聞くようになるんだった。


 それもまた緊張しそうな要因だ。


「常に見られてる感じなのよね。なんか嫌だわ」


 守ってくれていると思えばいい事なのだろうけど、何だか監視されている気になりそう。


「慣れると意外と気になりませんわよ。離れているライフォン様の事も教えてくれますし、私はありがたいですわ」


 そんな風に割り切って考える事が出来るなんて、意外とパメラは強かね。


 でも離れているのに様子を伝えられるのは便利だわ。


 今までのお詫びに早馬や伝書鳩の代わりになって貰いましょう。












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