第3話

「習作その一」SS

 ミレイは、日常生活に飽いていた。

 ひとたび、外出をすれば、わらわらとどこかから男供が湧いて出てくる。要りもしないがらくたを贈りつけてくる。

 今日も今日とて、人の目をくぐり抜けて秘密の場所へ足を伸ばす。

 誰もいないはずの、ミレイだけの聖域のはずだった。青く透きとおる湖、白砂に立っていたのは、黒衣の男。夏だというのに、手袋をしている。そして、その手には、匣がー…。


 *


「お前、今、『魍魎の匣』読んでるだろ?」

 言われて、傍らに立てて置いていた本を背後に隠す。

「え、何のこと?」

「まあ、いいか…」


 *


「お嬢さん、今の生活を変えたいのならば、この匣を受け取れば良い」

 言われて、ミレイは微笑む。

「ようし、開けちゃうぞお!」

「えっ、待って。よく考えてから…」

 男が止めるのも空しく、ミレイは箱根の寄木細工のような仕掛けを一瞬で解いた。

 煙玉かしらと、ミレイは白い視界の中で思った。再び、清々しい景色が立ち現れると、黒衣の男は目の前から消えていた。残されたのは、主を失った衣と、赤ん坊だった。

「あら、おちびさん! これでは、まるで、処女懐胎ね! いいや、私が育てちまおうっと」

 黒衣に包んで、赤ん坊を抱え上げる。

 家に戻ると、案の定、騒ぎになった。

「それは、誰の子なんだい?」

「私の子ですが、何か?」

 大家は言いにくそうにしたが、結局、口を開いた。

「この家は、独身者専用でねえ…」

「はい?」

 ミレイは家を追い出された。


 おわり


 *


「いや、『おわり』じゃないよ! 確実に、続き書けよって、顧問から言われるからな?」

 首根っこを掴まれて、ガタガタ言わされる。

「だって、『世界の秘密』が何だか、解らないのだもの!」

 後日、やはり、顧問から続きを書けよと言われたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る