第2話

「世界の秘密って、何だよ…」

 学校からの帰り道。ひとり、呟く。ピタゴラス教団? 知識を独占して、権威を保つとか言う。

「いや、違う…。だから、その中身が肝要なのだ」

 頭を抱えて、懊悩する。正直、そんなものが現に存在したとして、私は気にもとめないだろう。

「それでは、話が始まらないだろうが!」

 思わず、自分につっこむ始末。どこかで犬が吠えている。さっと、頬に紅が差す。急ぎ、帰る。

 坂木さかきの本屋敷。悪名高い、憑物筋の家である。

 地域の人にしてみれば、悪夢そのものの建物である。かつて何度も人死にが出た。ぐっと、拳を握る。

石矢いしや君のために、ファンタジー小説くらい書いてみせるさ」

 とりあえず、きっかけがあれば良いのだ。そう、顧問の一声みたいな。うん、おっさんか。何事か解らぬが、おっさんから何かを要請されるのだ。何か、多分、偉い人だな。とすると、何者なのだ。主人公は。勇者か。

 だから、勇者って何だよ。机に拳を叩き付ける。

 結局、話は世界の秘密に立ち返るのである。


「だから、まず、勇者とおっさんのシーンを書きなさいよ」

 学校で、呉碧くれあおいはのたまった。

「ええ? 世界の秘密が何か解らないのに? 書くの?」

「大丈夫だよ、坂木君。大抵、そういうおじさんは何か隠しているはずだから!」

 キラキラした瞳。……。可愛い。手元には、何かこうもの凄い刺繍(現在制作中)がある。

「ああ、これ? もうすぐ文化祭だから、手芸部女子をぎゃふんと言わせてやろうと思って!」

「せっかくの美少年なのに、捻れている…」

 切ない。

 石矢君は、養子である。ちょうど姉が高校生と中学生だった時分に貰われたので、女子中高生などいちばん絡みたくてならない年代なのである。

 しかし、美少年である。

 女子部員との心温まる交流を楽しみに手芸部に入部したものの、現実はほとんど嫌がらせである。目も合わせてくれないと石矢君は嘆く。

「もういい。姉さんたちに見せるために作るから!」

 ご立腹である。いや、そうしないと、いじめられるのは手芸部女子のほうなのだよ…。しかし、口を噤む。

「大丈夫だよ、石矢君。ほら、碧お姉さんの胸にとびこんでおいで!」

「うん!」

 笑顔で、抱き締められにいく石矢君であった。これを手芸部女子に求めるというのは、酷であろう。殺す気か。色々な意味で。


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