ep16 ごめんなさいと真実

 結局半日くらい無駄にしてしまった。 気づくと時計は正午を回ったくらいだ。 俺はずずっとコーヒーを啜る。 コーヒーメーカーで作ったとは思えない香りが口いっぱいに広がって美味しい。 そして目の前にあるあんこがふんだんに塗られたトーストをかぶりつく。 小豆本来の甘みとパンの香ばしさがマッチし、サクッという軽快な音が更に食欲をそそる。


「雪和って料理できるんだな、このあんこ手作りなんだろ? 」


「料理は好きなので、それに姉たちができませんでしたから 」


 そう言うとちらりと二人の姉を眺める。 二人の姉は幸せそうな顔を浮かべてニコニコしている。


「ねぇあんた達いつ仲直りしたの? 」


「え、あぁ…… 」


「昨日は多大な勘違いして申し訳ありませんでした 」


 俺が説明をする前に雪和が頭を下げた。 少々シスコンなとこはあるが、根は多分いい子なんだと思う。


「そうね、少し落ち着いて話をしたほうがいいわね でも…… 」


 咲夜は雪和をぎゅっと抱きしめる。


「大切な人が傷つくよりその方が私はいいと思うわ 」


 そう言った咲夜の顔は見たことがないくらいに暗く悲しそうな顔をしていて、胸を締め付けられた。 見たことがないはずなのに、見覚えがある。 俺はこんな顔をさせてしまったことがあっただろうか。


「あの……苦しいです、胸が物理的に…… 」


 抱きしめられた雪和の顔はほぼ胸に埋まっていてかろうじて口だけ出ているようだった。 咲夜はバッと腕を離して後ろに下がる。


「あらごめんなさい 」


「いえ…… むぅ、慰められたのに貶された気分です 」


 両手をぽんと胸に置いてなんとも言えない顔をして口をとんがらせた。 横からすすり泣く声がふと聞こえてきて、横を見ると実夕がハンカチを目元に当てて涙を流していた。 その隣で口元に手を当ててうふふと笑う渚。


「よくわからないけどいいお話だねぇ…… 」


「元はといえばみーちゃんが原因だけどね〜♪ 」


 実夕には心当たりがないみたいで首を傾げた。 いろいろあなたが原因です。

 ちょっとスッキリしたお昼ごはんだった。 とりあえずあの男の子にお礼を言わなくては…… お陰でつんつん頭を捕まえられたからな。 でもどこにいるかわからないな、この寮の人なのはわかるけれど。 するとちょうどタイミングよく目の前からその人が歩いてきた。


「やぁ、探していた人は見つかった? 」


「あぁ、見つかったよ。 助かった 」


 彼はそうかそうかと言うとうんうんと首を縦に振った。 その時肩をトントンと叩かれて、振り向くと青ざめた咲夜が立っていた。


「どうした咲夜? 」


「な、な、な、なんでタメ口を聞いてるの? ば、馬鹿じゃないの?! 」


「いきなりバカってなんだよ、確かにバカかもしれないけど…… 」


「違うわよ! あんたが今タメ口を叩いてたのはうちの学校の生徒会長よ! 」


「あはは 」


 彼はニッコリと微笑んだ。

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