第6話,生衛
「構え」
その一声で10数丁の銃が水平に持たれる。
「撃て!」
またこの一声で、10数弾の弾丸が放たれる。
訓練場の一室に存在する喫煙室内には私含めて4人。それぞれ駄弁っていた。
「最近は平和すぎますねぇ団長。なんかこう...バーって敵がやってくりゃいいんですが」
一人が話を振ってきた。既に灰皿は満杯で、上に積み上がっていて、その山の頂点にまた新たな頂を作った。
「私達が動かないことこそが真の平和だろうによ。それに、まだ敵には来て欲しくないなぁ」
「それはそうだ」
別の団員が相槌を打つ。そして続けて言った。
「団長。最近は特にピリピリしてませんか?訓練メニューだってこんなに多く無かったじゃなかったじゃないですか」
その言葉に私以外の全員が同調する。
少し考えた後、また新たな煙草に火をつけて、その理由を言う。
「つい最近、私が提携組織に話つけに行っただろ?ほら、あれだ。費用前借りしたくせになんの成果も上げなかったところさ。そん時に丁度会社が攻めてきてな。武器は持っていたから応戦してやろうとも考えてたんだ。一応、大事なうちの組織だし。ただ」
煙草を吸い、白煙を吐く。甘いようで苦く、酸っぱいようで少し辛い味がした。私はその時のことを思い出しながら言った。
「あいつら、強すぎんだよ。確か名前は月蝕っつったかなぁ。そいつが前線切り開いてもう一人の...藤里?って奴が後方から支援したりしていた。ただ、正直言ってな?あいつら一人でもあの組織を潰すことは出来ただろうよ」
冗談でない、本気の話ゆえに喫煙所の空気は重くなる。その状態で、一人が口を開いた。
「どうやって帰還したんです?もちろん窓からでもなんでもいけるでしょうが、他に外で待機している隊員がいたりするじゃないですか」
「あぁ〜」
確かにな。外で待機している隊員だっていたはずだ。その可能性は完全に頭になかった。
「正直言って全然そんなこと考えてなかった。正面突っ切って、うまく振り切って、そのまま帰ってきたんだ」
その言葉に一同、言葉を失っていた。
「通路で一瞬目があっただけで殺しにかかってきたんだから怖ぇんだよなぁ!正直能力がなかったら追いつかれて殺されてたかもなぁ」
「いや『殺されてたかもなぁ』じゃなくてですね?」
ツッコミのように先程まで黙っていた団員が口を開く。
「もっと自分の命大事にしないんですか?はぁ...団長がいなきゃこの組織で戦える人なんて殆どいませんよ?僕らだって、統率も何もない中で団長に助けてもらってやっとの状態なんですから」
「『仲間が死んでも戦え。負けられざる魂がお前を勝利へと導く』だったっけなぁ」
小声でそういうと、一人が応じた。
「『我こそが指導者。戦場の音を操る魂の指揮者だ』」
そうだ。それそれ。けど、なんでこいつが知っているんだ?かなり古い本なんに知る動機なんてあるのか。
「そういえば、団長。話聞いてて思ったんですけど、俺ら近衛団以外に戦闘できる職員なんているんです?俺らの他は大体研究じゃないですか」
「あぁそうだなぁ...いるにはいるぞ」
タバコの火を捻り消し、頂を尖らせる。
「最近スカウトしたんだ。一応以前に知り合ったばっかなんだが研究者でさ」
「もしかして、あの猫みたいな人のことですか?確かにすばしっこさそうな感じはしますけど...」
確かに見た目は普通の人ではないが、受け入れないわけにはいかない。研究には必須、そして我らの職務を果たすためにも必須だ。
ただ、扱いづらいというのは説明しておいた方がいいか?いや、いいか。
「私もあんま詳しい話は聞かされてねぇんだよなぁ。ただ、会社のこともジェントリーのことも戦闘のことも知り尽くしてるらしいし。まぁそこはボス情報だけど。情報は渡してぇのか渡したくねぇのか全然わからん。こっちの状況を俯瞰視して楽しんでるようにも見えるしな」
「そんな人を受け入れて大丈夫なんですか?」
心配そうな声を受け、私も考える。ボスのことだし、口出し無用な面もあるだろうが、余りあるメリットを持っていることに変わりはない。
「まぁ私達が考えてもしょうがねぇな。この話の初めに戻るが、ようは相手が強ぇから私達も頑張って強くならにゃいかんってことさ。正直言って今のお前らじゃぁ私の能力に頼んなきゃおどおどするばっかだろ?」
団員の一人が自分のタバコが尽きることを知らず、熱い末端を指に合わせて短く悲鳴を上げ、つられ少し笑ってしまう。
「こういうところさ。もうちょいガッツ持てよ。せめて他人を守れるぐらいにな」
そう言い残して喫煙室を開放し、外に出た。
周りを見渡せば、やはり喫煙所は少し暗くなっていたようで、眩しく感じる。そして、その場に似つかないのがベンチに座っていた。そいつの近くによっても、こっちを見ようとすらしないが、確実に気づいてはいるだろう。大体そんな奴だ。
「何やっているんだ?」
こっちから声をかける。が、その返答はなく、全然関係ないことをそいつは言った。
「イオ団長。私をスカウトしてくれたのはいいものの、本当にこんな条件で良かったのか?私からは情報の提供は殆どせず、ただ研究に没頭していていいし、嫌になったら辞めてもいい。話してくれればリバとの接触も許す。そっち側からこっちへの詮索は無しって」
テルルは前を見つめていた。あまり、慣れない条件ゆえに不信感があるのだろうが、そうしたのはこちらの希望だから、別に断るも何もない。
「ボスの決めたことだからなぁ...こっちから文句は何も言えないね」
テルルはやっとこっちを見た。不思議そうな、困惑している様な目はしていない。が、何というか、読めない目だ。
「別に言ってしまってもいいだろう。近衛団にとって裏切りは最も懸念すべき点だ。君だって団長だ。私がここにきたのは君の意向だからって、条件に関して異議申し立てはできたはずだ」
「何というか...しても意味ない気がしたんだよなぁ。大体こんな人間だろっていうのは私には見ただけで粗方分かる。それを踏まえてだ。お前は私達を裏切るだろうが、それはお前にとっては全然関係無ぇこと、お前にメリットのないこと。つまりは面倒ごとに巻き込まれたくはないが自分の欲は満たしたい。これが私の見解だ」
驚いた顔をした後、ニヤッと笑ってそいつは立ち上がり、私の頬に両手を当てる。
「よくわかってるねぇ私を。そうだな。この組織に来た目的はただの研究ではない。君の言う通り、私欲を満たすためさ」
嘘だな。
テルルの両手を払ったが、異様に冷たい。私はそのまま回れ右する。吐き捨てる様に言い残した。
「私達を面倒事に巻き込むなよ」
最後に見たテルルの顔は概ね笑っている様に見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます