第4話,道違いの仲間
「これがこの組織の親玉?」
医療用の無機質なベッドに横たわる人間を見て、エカに質問が投げられた。投げた本人は耳が猫のような感じで、背後で尻尾が踊っている。
「これって言わないで。リバっていう名前があるんだから」
ベッドを挟むかのように2人は対峙している。一方は椅子に座り足を組み、一方は腕を組んで怪訝な表情をしている。
エカはその怪訝な表情を崩さなかった。なぜなら、どうしてもこのお調子者が気に入らなかったからである。
「そもそも、無神経すぎるよ。リバは親玉ではなく私達の救うべき人。中心人物であってもこんな組織の親玉なわけがない」
ちょっと怒ったようなその口調に猫の口が緩む。
「そうかいそうかい。まぁ、雇われたなら仕方ないけど、かなりの物好きなんだろうねこの組織の1番のお偉いさんは」
あくびをした猫にエカはまた不機嫌になる。
「大体、なんでこんな組織に入ってきたの?雇われたって...誰に」
「イオさ。君は知らないだろうけど、この組織の近衛兵団長。君こそ、誰が認めてこのリバの世話をしてるんだい?」
その言葉にエカは詰まった。まず、イオという名を脳内で探す。確か入職日に見たような気がする。厳かな雰囲気だったが、その目はどこか虚だった。次にこの質問に対する対応。あれやこれやと考えているうちにタイムリミットが来たみたいだった。
「答えられないなら、それで良いんだけどさ。まぁ推測するにスカウトだろ。君はリバを落ち着かせるのにピッタリなんだろうからさ」
エカは、猫がリバに向ける視線があの団長の虚な目と似ていることに気づいた。
この対面に座る奴とあったのも入職日だった。団長と同じように少ししか視界に入らなかったが、その視線に気づき、こっちに目線を合わせてきて、小さく手を振っていた。他の研究者は見向きもせず、そもそもこっちを見つけること自体が難しいというのに。
そもそも、研究の出来ない団長が普通の研究者を手配するはずがない。見た目もそうだし、何よりこの研究者らしからぬ態度と全てを見透かしているような行動は少し怖さすら感じてしまう。こんな毅然とした態度なのであれば、少なからずリバのことも、知っているのであろうか。
「リバは大切か?」
正しく彼女のことを聞こうとしていたエカに質問が投げられる。猫の目線は少し魘されているリバから離れない。
「もちろん。少なくともあなたよりかはね」
「ならよかった」
しばし沈黙が流れる。レポートを書き終えたのか、猫は深く息を吐いた。
「私からの忠告は必要か?」
唐突に言われたので、エカの注意は猫に向く。
「...一応聞くけど」
「そうか」
レポートを持って立ち上がり、背伸びをしてから、猫は言った。
「絶対的なルール。法律や憲法以前のルールを破ってはならないよ」
「じゃぁまた」と言って猫はさっさと去っていった。残されたエカはその言葉にどういう意味が込められているのかを思索した。ただ、可能性の大部分を占めていた「冗談」という結論に最終的に至ってしまった。
===
ため息を一つ吐く。あの様子じゃぁ、守り切るのは不可能だろうな。携帯を取り出し、電話をかける。1コールもしないうちに電話に応じてくれた。
「もしもし?」
相手はスピーカーモードで話しているようで、食事の途中だったらしい。
「...はいはい。テルル?」
「そうだよ。今さっき用事終わったから。またあのカフェでマスタード抜きのホットドッグでも食べてんのか?」
相手は返答に困ったようで少し間が空いたが、じきに答えた。
「何か悪いか。用がないなら切るぞ」
「あぁいやいや、ある」
テルルは得体の知れない人間だ。素性を完全に知るものは存在しない。どこで生まれ、どこで育ち、何をしたのかを含め、全てだ。
信頼は仲間間存在せず、飄々と生きているようにしか思われていないだろうが、テルル自身、それで構わなかった。
「この前言ってた件だけど」
「...それが?」
テルルは笑みを浮かべ、答えた。
「適任が見つかった」
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