第50話 神の使いVS魔天
「黒木様、来ていただきありがとうございます! 現在、あの龍人に手古摺っておりまして」
そう言って助けに来た黒木の下へ兵士が一人駆け寄ってくる。そんな様子を黒木は一人、冷めた目で眺めていた。そして突然、その手に持っていたナイフで兵士の胸を貫く。
「なっ、どうし……て」
「敵には変装する力を持つ奴がいるんだろ? そんな腑抜けた事を言う奴が仲間に居るわけないじゃないか」
突然与えられた力によって増長するのは人の性と言うには些か過激な言動をとる黒木に対峙している魔天ファフニールも嫌悪という感情が芽生える。
「おい、貴様。そいつは仲間じゃないのか?」
「さあ? 疑わしくは罰せよって言うだろう? それを実行したまでだよ。ああ、この世界の住人じゃ分からないか」
「やっぱアストゥールとは相容れねえなぁ」
「その話し方、なんか嫌だな。神の使いに居る僕の嫌いな奴に似てるからさ!」
ナイフを構え、走り出す。神の使いで最速の男の足は魔天の目すらもごまかすほどの残像を生み出していく。
「おらぁ!」
ファフニールが槍で穿つも、手応えはない。しかしてファフニールの背後にある影の中からその姿は現れる。
「
背後から迫るナイフ型のアルム。まさにファフニールの背中を貫くかと思ったその時、ガクンッと何かの衝撃が走り、黒木の動きが止まる。
「甘えなぁ」
見ると黒木の更に後ろからファフニールの龍の尻尾が黒木の身体をからめとっていた。ファフニールはそのまま大きく尻尾を上げると、黒木の身体を掴んだまま地面へと叩きつける。
「カッハッ……」
言葉にならない衝撃が黒木の身体全身を駆け巡る。それが予想だにしない一撃であったからこそ受け身を一切取ることが出来ずにその衝撃を直で受け取る。
「おいおい、神の使いなんざこんなもんかよ!」
「ファフニール。あんまり調子に乗っているとまた気絶するわよ」
「うるせえ! あれはアリスフォードの奴が強すぎるだけだ! それに次戦ったらぜってえあんな醜態は晒さねえ!」
魔天の一人、ゼオグランデがファフニールを茶化す。他の場所が有利になったため、加勢しに来たのである。
「ていうかてめえの助けは要らねえ! 他んとこ行きやがれ」
「とは言っても兵士たちが魔王様に強化されすぎてて必要ないかも? 強いて言えば神の使いだけどそいつらの主力級じゃないと兵士たちに敵わないから私暇なのよ。それに私達ってコンビネーション抜群じゃない。一緒に戦いましょうよ」
「ちっ、分かったよ」
明らかに数で負けている魔王軍であるが、その質は連合軍を遥かに上回っている。圧倒的不利な状況から現在、優勢へと戦況が傾いてきていたのだ。
「一匹増えたか。数で押すというのは弱者がやることだ」
「そっくりそのままお前に返してやんよ。たった二千の軍に数万の軍隊を率いてるお前たちになぁ」
「黙れ!」
激しく怒鳴り、こちらへと突っ込んでくる黒木の前にスッとゼオグランデが立ちはだかる。
「神の使いって喧嘩っ早い人が多いのね。怖い怖い」
そう言ってアルムを装着した拳を軽く振るう。刹那、途轍もない波動が空気を揺らし、黒木の全身を弾き飛ばす。
「ぐああああっ!!!!」
もはや叫ぶことしかできない程の痛みが黒木の全身を穿つ。ライトによって強化スキルを渡され、更に王の号令によって超強化されたゼオグランデの一撃は人の身には余るほどであった。
「ファフニール」
「言われなくても分かってんよ!」
体を吹き飛ばされた黒木に追い打ちをかけるべく、ファフニールが地面を蹴る。
「天下無双!」
宙を舞う槍の嵐が黒木の身体を穿っていく。そうして地面へと墜落した時、黒木の体はピクリとも動かない。
「あれ~? ファフニール殺しちゃったの?」
「んな馬鹿な! 急所は外したのに」
「いやでもそこまで体に槍を打ち込まれたら普通死ぬでしょ。あなた基準で考えないでもらえる?」
捕虜にするためにファフニールからすれば急所を外して手加減をしたはずなのだが、それは人間の身には酷な話というものだ。ただ、黒木はただの人間ではない。神の使いである。
「う、うぅ。まさか……この僕……が」
「おお! やっぱ生きてんぞ! 流石は俺様だな!」
「ま、でも意識があるのは不味いし取り敢えず気絶させちゃうけどね」
倒れている黒木に容赦なく拳を打ち込んで気絶させるゼオグランデ。それを見てファフニールは若干引くのであった。
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