第18話 魔王の話

「よし、ではそろそろ行くか」


「だな」


 結局、アリスと一緒にダンジョン攻略を進めることになった。魔王の試練だからてっきり二人で攻略はできないんじゃないかと思っていたが、アリス曰く、本来ならば10階層からの攻略で良いものを間違えて1000階層からにしてしまったため問題はないとのこと。


「にしてもどう転移石をいじったら10と1000を間違えるんだよ」


「よくぞ聞いてくれた! 実はだな、魔界にある転移石では10階層までしか転移出来ないのだが、それでは物足りないと思ってな。実家にあった初代魔王様の角を妾の能力である『融合』で転移石と合成したのじゃ。そしたら転移石が暴走して1000になってしまったのじゃ」


 てへっと言わんばかりの表情を浮かべてそう言ってくる。おいおい、とんだ破天荒な魔王様だな。


「あっ、不味い。そのせいで転移石が壊れてしまったから帰ったら怒られてしまう」


「いや、問題はそこじゃないだろ」


 絶望的状況だというのにこの呑気さ。昨日までのダンジョン攻略とは打って変わった雰囲気に少し調子を狂わせながらも気分は悪くない。というか寧ろ良い。


「そういや潜った階層に応じて魔物の強さが変わるんだよな? だったらアリスと俺とで戦う魔物のレベルはどうなるんだ?」


「妾も詳しくは知らぬが普通ならば違う階層を選んだ者と出会うことはない。別のダンジョンと認識されるようだ。だがライトとこうして出会えているということはある階層からは同じダンジョンになるのではないか? この世界の生き物のレベルには上限値というものがあるからな。恐らく最上層にいる魔物たちがその上限値にいってさえおれば同じダンジョンに来るのだろう」


「へえ。そうだったのか」


 まあ確かにここに来るまでの間、魔物たちの強さに変化はなかった。明らかに強かった龍王とヘル・フェンリルを除いてだが。


 うん? ちょっと待てよ。


「てことは今まで出てきた魔物のレベルってもしかしてこのダンジョンの中では弱い方ってことか?」


「まあそうなるな。鑑定スキルを持っておるお主と違って妾は魔物のレベルを見ることはできぬから今でどのくらいなのか分からぬが」


「今で大体1000くらいだな」


「へ?」


 なぜか素っ頓狂な声を上げてアリスが固まる。なんだろう。聞こえてなかったのだろうか?


「だから今の階層で大体1000レベくらいだって」


「……いやいやいやいやちょちょちょっと待ってくれ。1000じゃと!? 生物の限界は999レベルじゃなかったのか!?」


「うん? 1000レベルぐらいならそこら辺に居るだろ。てかアリスが襲われていたヘル・フェンリルのレベルは3000越えだし」


「さ、3000。いかん、頭がくらくらしてきおった」


 歩きながら額を手で押さえてそう言うアリス。どうやら想定よりもはるかに高いレベルだったようだ。まあアリスのレベルって500だし、少しきついかもしれない。


 あっと、そういえば大事なことを忘れてた。


「うん? 何をしておるのだ?」


「ああ。アリスにちょっと渡したいものがあってな」


 そうして取り出しましたるはアリスを襲っていたヘル・フェンリルの宝玉。確かアルムの説明で宝玉の力は他人に譲渡することもできる。ここでアリスにパーフェクトヒールを渡しておけばこの先のダンジョン攻略に役立つと思ったのである。


「少しそのまま待っていてくれ。用意するから」


「ふむ? 分かった」


 アルムから龍の宝玉を取り除き、代わりにヘル・フェンリルの宝玉を嵌めなおす。



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 アルム名:ヘル・フェンリルの剣

 等級:神話級

 スキル:『獄炎』、『身体強化Ⅴ』、『魔法無効』、『状態異常無効』、『パーフェクトヒール』


 ヘル・フェンリルの宝玉による祝福を受けた剣。効果を一つ選び、剣の持ち主または持ち主が認めた他者へと付与することができる。ただしその場合、他の効果は消失し宝玉は壊れてしまう。

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 うん、やっぱり書いてあるな。じゃあこれでっと。


「アリス、ちょっと止まっててくれ」


「う、うむ」


 ヘル・フェンリルの剣をアリスに向けて構えて俺が能力を受け取るときと同じように念じる。付与先だけを変えて。


「ん? 何だこの光は」


 ポワッと柔らかな光がアリスを包み込み、一瞬激しく明滅したのちにヘル・フェンリルの宝玉がパリンと割れる。



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 名前:アリスフォード

 種族名:魔族 魔王候補

 レベル:569

 スキル一覧

 ユニークスキル:『暗黒魔法』『鬼神』『融合』

 常時発動スキル:『暗視』『身体強化Ⅴ』『魔法強化Ⅴ』『魔法防御Ⅴ』『物理防御Ⅴ』『状態異常無効』

 魔法スキル:『全属性魔法lv.10』『闇魔法lv.10』

 特殊スキル:『パーフェクトヒール』

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「よし成功だな」


「何が成功したのだ? 何も変わっていない気がするのだが」


「ステータスを見てみろ」


「? 分かった」


 そうしてアリスがステータスを確認し始める。そして少しした後、驚いた顔でこちらを見てくる。


「何だこれは!? パーフェクトヒールなるものがスキル欄に追加されておるぞ!」


「ああ。俺が今付与したんだ。そいつがあればどんな怪我でもすぐに直せる」


「付与しただと? 聞くほどにライトの能力というのは目を見張るものがあるな。せっかくだしライトが魔王になれば良いのではないか?」


「いや良くないだろ。魔族ですらないんだぞ」


「フフッ、魔族は実力主義だ。魔王になるものに種族なんざ関係あるまい」


 不敵な笑みを浮かべながらアリスがそう言う。アリスと話していて思うがもしかすれば魔族の方が人間よりも寛容なのかもしれない。


 そんなことを考えながらアリスとともにダンジョン攻略を進めるのであった。

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