第17話 魔王の試練

「お主、人族であろう? なにゆえ1000なんかに居るのじゃ?」


「はい?」


 今、千階層って言わなかったか? この人。えていうか魔王の試練? 


 アリスの言葉から俺の脳内が様々な疑問で満たされていく。


「何だ知らなかったのか? ここは魔族の中で魔王候補となる者だけが挑むことを許されたダンジョンなのだぞ?」


「へ? でも俺、普通の中級ダンジョンから入ったんだけど」


「普通の中級ダンジョンから? ふむ、意外なところに繋がっておるのだな」


「それに千階層って言わなかったか? ここってそんなに深いのか?」


「うん? 自分で潜ってきたのであろう? それくらいは知っていると思ったのじゃが」


「いや、実は……」


 それから俺がどんな経緯でこのダンジョンに来たかということをアリスに話す。ダンジョン探索に来た時、仲間に置き去りにされてヘル・フェンリルという魔物に襲われ、その結果このダンジョンの底へと来たこと。ここまで500階層くらいは登ってきたこと。それらすべてを話していくと、途中からアリスの表情が驚愕の色に染まっていく。


「なるほど、お主もいろいろと苦労しておるのだな」


「まあな。だから早いところこのダンジョンから脱出したかったんだけどあと千階層もあるって聞いて絶望してたんだ」


 ここまで来るのに相当な月日が経過した。それがこの先、後二回も待っているかと思うと、先が長すぎる。まあ行くしかないわけだから行くんだけどさ。


「そういえばこの世界に来た時に魔族は人間の事を襲うって聞いてたんだがアリスはそんなことないんだな」


「うむ。というか魔族は人間のことなど襲ったりはせぬ。むしろ逆だ。つい数百年ほど前まで仲良くしておったというのにいきなり向こうから牙をむき始めたのだ」


 流石は魔族。数百年前の事をまるでついこの間かのような言い方で言ってくる。ていうか聞いていた話と違うな。リズワールからは魔王は世界を壊そうとする悪しき存在だという風に聞いていたのだが、アリスからはそんな雰囲気は感じ取れない。


 アリスの話ではむしろリズワール達人間が魔族を迫害しはじめたから迎え撃っているという風に聞こえる。


「もちろん人間達が同胞を殺せば妾達も反撃はする。ただ、先に手を出してきたのは向こうからだ。父上から聞いた話では『神の使い』とかいう奴等を違う世界から召喚できるようになってから態度が豹変したと聞く」


 神の使い、と憎しみの籠もった声で言われてドキリとする。神の使い、それはまさしく俺達の事だ。


「なんか、その悪かったな」


「ライトが気にすることではない。見た感じ、ライトは違う世界から来たのであろう?」


「へっ? 何で知ってるんだ?」


「ライトの着ておる衣服は神の使いとやらが着ていた物とそっくりだ。そのような服装はこの世界にはないから一目でわかる」


 なるほど。確かにこの世界に来てから第五部隊だけ服を支給してもらえなかったから持っている衣服が制服しかなくて洗っては使ってを繰り返していた。よく考えれば学校の制服はこの世界では珍しい物なのかもしれない。


「なるほどな。まあ他に服ないし別にこのままでも良いか」


「今はそのままでよい。ただこのダンジョンの出口は魔族が住んでおる魔界である可能性が高い。魔界では戦争の始まったきっかけでもある神の使いを忌み嫌う者が多い故、外に出たら着替えた方が良い気はするがな」


「それもそうだな。そうするよ。教えてくれてありがとう」


「このくらい助けられたことに比べれば大したことはない」


 それからは久しぶりに他人と話せた嬉しさのお陰か、アリスの明るい性格のお陰か、普段人と話すときに言葉が詰まることの多い俺がアリスとの会話が楽しくなってついつい長いこと話し込んでしまうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る