第16話 謎の少女

 ゴツゴツとした岩の感触でわらわは目を覚ます。確か妾は魔王の試練のためダンジョンへと潜ったのだが操作を誤って1000階層くらいに飛んでしまった。それから……。


 一つ一つを思い出していくと現在自分の身が危険であることに気が付き、その場から飛び上がって辺りを見回す。


「うん? 魔王喰まおうぐらいが居ない?」


 黒い狼の姿をした魔王喰らい。ここでは通常の魔王の試練の最終ボスとして居る魔王喰らいとは比べ物にならない程大きな個体。あれに出会った瞬間に妾は死を覚悟し、実際、死にかけていたはずだが。


「そういえば気を失う直前、何か暖かい光に包まれたと思えば全身の痛みが消えていった。あれはなんだったのだ?」


 よく見れば周囲の景色は先程までの開けた場所とは違って個室のようになっている。それに加えて暗く光の見えないダンジョンの底へと来ているのにもかかわらず、灯りのような物に照らされ、部屋全体を見ることができるようになっている。これは一体。


 思考を巡らせていたその時、突然横にあるダンジョンの壁が動き出す。何が始まるのだ? 一切逃げ場のないその場所で緊張感を保ちながらその方向を見ていると、次の瞬間には人影のような物が見える。


「おっ、やっと起きたか」


 そして魔王の試練のそれも1000階層であるこの場ではあり得ない光景が妾の視界に飛び込んできたのであった。


「人……間?」


 そこには黒髪で少し大きな目をした正真正銘の人間が立っていたのであった。



 ♢



「人……間?」


 桃色の髪の毛に頭から二本の赤い角をはやした少女は俺の姿を見た瞬間に間の抜けた表情でそう言葉を零す。うん、その気持ち痛い程分かるよ。なんせ、こんなところに人なんているわけないんだしな。だが残念。人間なんだよな。


「とりあえず元気そうでよかった。あっ、そこにダンジョン内で採れた食料と水は置いてあるから好きに食べておいてくれ」 


 そう言うも少女はこちらをジッと見つめたまま最初の体勢から動かない。それもそうだろう。怪しい場所で怪しい奴と出会えば誰しもが不信感でいっぱいだ。


「安心してくれ。変なもんなんか入ってないから。それじゃ俺はこれで」


「あっ、待って」


 不審者は早々に退散すべき。そう思った俺がくるりと踵を返し、離れていこうとしたとき俺の背に声がかかる。


「どうした?」


「いや、その、名前を聞いても良いか?」


 若干男勝りの口調で少女はそう尋ねてくる。


「俺は葛西ライトだ」


「葛西……ライト? へんてこな名前だな」


「まあ、普通じゃないかもな」


 元居た世界でも下の名前だけカタカナなのってあんまり聞かないしな。明るく元気な子に育つようにと両親からつけられた名前だ。結局、クラスの中では光とは対照的な立ち位置に居たわけだが。


「君は?」


「妾の名はアリスフォード。偉大なる魔王候補の一人だ」


「へえ、アリスフォードっていうのか。いや~しっかしこんなところで人と会うなんてな~。魔王候補ね、うん。!?」


 言われてから数瞬遅れて気が付く。俺の耳がおかしくないのであれば目の前の少女は魔王候補だと、そう言った。いや確かに頭から角が生えてる時点で普通の人間じゃないんだろうな~とかもしかしたら魔物かもなとか思っていたけどさ! まさか魔王なんて思わないじゃん!


 一応鑑定!



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 名前:アリスフォード

 種族名:魔族 魔王候補

 レベル:569

 スキル一覧

 ユニークスキル:『暗黒魔法』『鬼神』『融合』

 常時発動スキル:『暗視』『身体強化Ⅴ』『魔法強化Ⅴ』『魔法防御Ⅴ』『物理防御Ⅴ』『状態異常無効』

 魔法スキル:『全属性魔法lv.10』『闇魔法lv.10』

 特殊スキル:なし

 ===================



 種族名が魔族。そして横には確かに魔王候補と書かれている。やっぱり本当だったんだ。若干レベルは低いのが気になるけど。


「その反応。やはりライトは人間なのだな」


「い、一応」


 今度は逆に俺の方がおどおどとしながら答える。だってそうだろう。敵の総大将が目の前に居るんだから。


「そんなに怯えないでくれ。お主が助けてくれたのであろう? 命の恩人に手を出すことはない」


「ほ、本当、ですか? アリスフォード様」


「いきなりなに敬語になっておる。普通に喋ってくれて大丈夫じゃ。それに呼び方はアリスでよい」


「アリス様」


「様も付けなくてよい」


「アリス」


「うむ、若干堅いがまあそれでよい」


 どうやら許されたらしい。それにしても魔族は人間の敵だって聞いていたからてっきり目の敵にされてるんじゃないかって思ってたんだけど違うのか?


「それでライト。一つ聞きたいことがある?」


「な、なんだ?」


 若干敬語になりそうだったのを抑えて問い返す。


「お主、人族であろう? なにゆえ1000なんかに居るのじゃ?」


「はい?」

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