第38話 僕の我慢
”人が多い場所は嫌いだ。人酔いするから。だから、祭りにはいかない。”
僕はちいさなころからそう言っていた。
それは病弱な姉の手前、自分だけそういった普通な喜びを楽しみにすることが悪い気がしていたから。愛実が悲しむ顔が見たくなかった。
それって、自己満足だったかな?
だって、別に愛実は
”行って欲しくない”
”どうして私だけ?”
なんて、卑屈になる性格ではなかったし、裕翔はいつも家に遊びに来ては、愛実のベットにもたれ掛かり
”あんなことがあってね、こんな事が楽しくてね”
って、こちらの配慮なんてお構いなしに日常で起こった楽し気なエピソードをケラケラ笑いながら愛実に話していた。愛実は裕翔の話を本当に楽しそうに聞いていて、嬉しそうに笑って、
「私が経験できない事を、教えてくれて裕翔は優しいね」
なんて、言ってたよね。
もっと僕も、愛実に伝えたらよかったね。考えすぎてたんだよ・・・僕は真面目だから。
今夜は夏祭り。この街だけでなく、周辺の町からも人が集まり賑わう。僕は過去の後悔を背負いながら一人お散歩。
今年も何人かの女子に誘われたんだ。
「心晴くん、一緒にお祭り行こう」
愛実がいなくなってからは、祭りに行った。楽しくはなかったけど、非日常が寂しさを紛らせてくれたから、嫌ではなかった。
誰と行きたいなんて考えなんてなし。初めに声かけて来た子と行った。ああ、二人同時にってこともあったな・・・。だって同時に誘われたし、早い者勝ちならいいけど、どっちか選ぶって言うのは失礼だしね。
女子はめっちゃオシャレしてくる。夏だし、浴衣着てたらあついし、汗かくし・・・香水臭い。
キスしたらグロスが変な味するし、ラメとか顔や服についたら取れないし・・・浴衣着たままイチャイチャしてたら着崩れて、後が厄介だし。
めんどくさいんだよね。
だから今年は、即答で断った。
いや、断った理由は違う。別に行っても良かったけど、楽しめるかは分からなかった。だって、もしも、もしも祭りで菜穂ちゃんに会ったらどうする?
双葉から聞いたんだ。
【少し前、部室で】
部室で大人しくお昼寝してたら、双葉が上から話しかけてきた。
「心晴、最近は大人しくしてるんだね?もうあの子の事、やめたの?」
僕は双葉を言葉なしに見上げる。いつも通り下品な胸元。二つもボタンはずしてるから、おっぱいこぼれ落ちそうだ。スカートだって短すぎて、ここからは見たくもない中身が見えてしまう。黒パン履いてりゃ見えていいって思ってんの女子だけだぞ!こっちとしては、中身見えたのには変わりないんだから・・・。
「心晴は飽きっぽいからね。よかった。」
双葉は何が言いたいんだ?何も知らないくせに。デリカシーのかけらもない言動。品もなけりゃ、がさつな女。陽介の趣味を疑うよ。
「双葉も良かったじゃん。裕翔が手に入らないって実感するや否や、棚ボタ的に陽介と上手くいってさ。陽介は裕翔ほどオールマイティー男子ではないけど、顔可愛いし、性格いいし、何よりお前の事ずっと好きだったもんね。双葉みたいなわがままで気が強くて、少しバカな女の子は、陽介でお似合いなんじゃねーの?」
すると双葉はアカラサマにムッとした表情で僕に詰め寄り。
「バカで悪かったわね!あんただって裕翔にかなわないくせに!同類の負け組でしょ?」
そんな事を言うから、僕は少し鼻で笑って立ち上がり、双葉を見下ろした。
「負けか?勝か?まだ分かっていないよ僕らは・・・何にも知らないくせに分かった振りしない方がいいよ。バカが際立つ。」
そう言って、部室を出ようとすると、
「私と陽介、夏祭りデートするの。裕翔とあの子も誘った。Wデート。これで決まりね。二人はよりを戻すと思う・・・だって最近の二人の仲の良さ、あんたも知ってるでしょ?さっさと負けて、降参しな!」
どすの利いた声で僕の背中に投げつけてきた。双葉・・・僕は我慢してるんだよ、好きな人のために。あんまり挑発してくんなよ。香水臭いんだよ!
心で呟きながら、無言のまま後ろ手で部室のドアを激しめに閉めた。
あの日から頭から離れないんだ。菜穂に会いたい。菜穂に話しかけたい。僕の我慢がいつまで必要なのか?を・・・
そして僕は一人、お散歩中にたどり着いた公園で、会えてしまった。
菜穂だ。
どうして?
浴衣姿の菜穂が一人、夕焼け空を見上げながらぼんやりしていた。
神様、僕に幸せをくれようとしてるの?
神様なんて絶対にいないって思っていたよ。ごめんなさい。感謝します。
好きになりました(仮) 成瀬 慶 @naruse-k
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