第37話 屈折系自意識過剰
夏になって・・・もすぐ夏休み。
皆は夏祭りに行こうとはしゃいでいた。
私は、そんなキャラではないから・・・と、聞いていない振りをしていたけど
双葉さんに誘われた。
「浴衣着ていくから・・・そっちも着て来たら?」
双葉さんは言葉が素っ気ないのだけど、心は優しい。自分だけ浴衣で来ると、私が下がってしまうのでは?と気遣ってくれている事が分かった。だって、これは世に言うWデートなのだから。
裕翔くんとはもう恋人同士ではない。だから、正直に言えば迷う誘いではあった。
双葉さんと陽介さんは恋人だし、そんな二人と一緒にお祭り行くなんて・・・と・・・。
だけど嬉しかった。さえない私なんかが、そんな充実したイベントに入り込めるなんて数か月前までの人生で思いもかけなかったからだ。
浴衣はもっていなかった。でも、パパやママに”買って欲しい”なんて言えなかった。なんだかそう言ったものを普通に欲しがるキャラではないから。
でも、双葉さんがせっかく言ってくれた言葉を無駄にはしたくなくて、ママに行った。
「あの・・・友達何人かで夏祭りに行くんだけど、皆で浴衣着たいねって・・・話でね」
するとママは和ダンスから直ぐに浴衣を出し、
「背丈は同じくらいだけど、ママの浴衣はちょっと地味かもしれない・・・買いに行く?」
そう言われたけど、私は首を横に振った。
「これがいい。別に友達とお祭り行くだけだし、浴衣着たいって思ってるわけではないし・・・皆が言うから揃えるだけだから・・・。」
妙に言い訳じみた言い回しにママは小さくため息。
「菜穂はどうしてかな?もっと何でも楽しみに思える方が得だと思うけどね・・・ま、ママに”楽しみ”って知られることが気恥ずかしいだけならいいのだけど・・・。」
そう言って、浴衣一式を渡してくれた。
「有難う」
小さく言いながら受け取る。
ママの言う通りだ・・・私は何に言い訳したいのだろうか?
”お祭り楽しみ!!浴衣着てお洒落したい”
そう言う事って後ろめたい事ではないのに・・・ごめんママ。
私ってどこか捻くれてるね。
お祭り当日。
裕翔くんは家まで迎えに来てくれるって言っていたけど、”家族が心配するから・・・”と、断った。すると少し寂しそうに、
「そうだった・・・俺らもう恋人じゃないんだよね。友達が迎え行くの不自然か・・・じゃ皆と同じで駅前集合ね。」
と、笑った。
ママに浴衣を着せてもらって、少し赤めの口紅も貸してもらった。
「行ってきます」
するとママは、ニッコリ笑って。
「遅くなると心配だから帰る前にメールしてね。」
私は頷き玄関の戸をあっけた。たまたまそこには弟と俊輔くんがいた。大吾は、私の格好を上から下まで見て
「デート?」
俊輔くんはにんまり笑って
「兄貴も祭り行くって言ってた」
そう言って二人で目を合わせて笑う。
「デートじゃない!友達何人かで・・・お祭り行くだけ」
私は急いでママンの方を見る。ママは確実に聞こえてはいるけど、そっぽを向いた。また、私は何かを打ち消した。俊輔くんは少ししょんぼり顔で、
「そっか・・・違うんだ。てっきり兄貴とデートかと思った。」
申し訳ない気持ちになった。嘘をついている気持になった。でも、嘘ではない。裕翔くんとも今は友達だし・・・。
「あんまりねーちゃんからかってると、嘘積ませるだけだから、俺らも行こうぜ」
大吾はママに聞こえないくらいの声で、俊輔くんに言うと、俊輔くんは微妙な顔でウンウンとうなずきこちらを見てペコリと申し訳なさそうに頭を下げた。いや、悪くない。俊輔くんは悪くないのに・・・私の妙な言い訳で変な空気にしちゃって本当にごめん。大吾が言うのが本当。そうなんだ・・・この子たちもお祭り行くんだ。嘘・・・バレちゃうな。
そう思いながら、私は俊輔くんに会釈してその場から逃げる様に離れた。駅の方へ真っすぐに向かうと、弟たちと一緒に行くことになってしまうから、私は少し公園で時間をずらすことにした。
公園は静かだった。そうだよね、皆、お祭り行くもんね。小さな子もお年寄りも・・・若い子も恋人も・・・家族も・・・楽しみにしてるんだよね。
そう思うと、ここ数日の自分の”友達に誘われて仕方なく”という雰囲気をママにアピールしていた自分に恥ずかしくなった。
私ってバカみたい。
楽しい事を楽しみにして、ウキウキしている姿を家族に見られたって何がおかしい事だっていうのよ。自意識過剰。しかも、屈折した自意識。そんな自分がやっぱり嫌い。
少しでも少しづつでもそんな自分を変えたいと思った。
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