怪人少女の報告書と魔法少女とのオフ会

 魔幻都市と呼ばれるヘルイムシティでの出来事が片付いてから数日。


 コルトに報告書を提出した。



「お疲れ様、それにしてもとんでもないことになったね」


「どれのことだ?」



 コルトがそう言うほどのことがあったのかは正直俺の感覚ではわからない。


 大抵のことは予測しているように見えるが、妙なところで驚くことがあるからだろう。


 人それぞれ価値基準は違う以上それは誰にでも言えることなのかもしれないが、コルトの場合はそれが予想しにくいと思えている。



「そうだね、大きく挙げると2つかな」


「お前がそう言うほどのことが2つか、どれとどれだ?」



 ヘルイムシティでの戦闘に参加したメンバーは全員この場に揃っており、その中の赤司がコルトに確認の質問をした。



「まずは秋と魔法少女アリシアの変身についてかな」


「それってあの魔法少女フォームが自動的に起動したっていうあれ?」


「うん、それ」



 無道の確認にコルトが肯定の返事を返す。



「元々魔法少女フォームは実装してたんだけど、アリシアとの同調と共鳴で今回は自動的に起動したんだよね、秋の意図とは関係なく」


「アリシアの意志に同意は示したが、ああなるとは俺自身思ってはいなかった」


「うん、でもそこまでは別にいいんだ」


「いいんだ?」


「うん、問題というか驚いたのは魔法少女フォームが起動した後の秋とアリシアの力のことだね」



 俺とアリシアの間で力が循環して、同調、共鳴して拡大していったあれのことだろう。



「単純な出力は測定不能、力の波長や種類はこれまでのものとは異質で魔法少女の魔法とも次元が違いすぎる威力と性質、それによる加速や発動した魔法なのかな?あの街中を覆った皆にバフをかけたあの光、どれをとっても規格外としか言いようがないんだよね」


「あれはそうだよねぇ、ヒーローに魔法少女だけじゃなくて、車に機体の出力とか操作性まで強化されてたし…どういう原理なんだろ?」



 コルトも無道もあれに関してはお手上げということか。



「つまりコルトでも解析できないと?」


「うん、でもそうだね…敢えて言うとしたら、あれが奇跡ってやつなんだろうなって思うよ」


「他に言いようがないしな」


「うんうん」



 コルトの言葉に赤司と無道も同意を示している。


 謎技術のコルトに加え、科学者組もそう言うということは現在の技術で理解るものじゃないということなんだろう。



「それでもう一つのとんでもないことというのは?」



 コルトは大きく挙げると2つと言った。


 ならもう一つあるんだろう。



「ああ、それはその子のことだよ」


「私?」



 この場にいるのはデモノカンパニーのメンバーだけではなかった。


 姿


 見た目は少年か少女かわからない姿をしている子供はコルトの言葉に反応していた。



「神魔は討滅すべき相手だと考えていたからね、正直君の存在は予測範囲外だ」


「そうなんだ?でも私はここにいるし、まだ世界を全然見てないから討たれるのは嫌だよ」


「君を討つ気はないよ、魔法少女協会の方に行くよりも僕達の所に来たのも悪くない判断だとも思うしね」


「だって、アリシア困ってたし」


「それはそうだろうね、どこから拾ってきたんだってことから説明しないといけなくなるだろうし、それなら神魔を討滅したことにしてうちで引き取ったほうが話は早いよ」



 怪物達を倒し終えてから、この子供をどうするかという話になったときに子供の意志を確認した上でデモノカンパニーに連れてくるように勧めてきたのはコルトだ。



「最悪、君を悪く思う連中が君を討とうとしてアリシアの立場が悪くなる可能性もあるしね」


「それは嫌」


「わかってるからここに来たんだろうし、歓迎するよ」


「それについてはありがとう」


「素直でよろしい、色々君についても調べさせてもらうけど、戸籍とかはこっちで用意するから安心してよ」



 そういうことをあっさり言って実行できるのがコルトなんだろう。


 そこについてはあまり考えすぎても仕方ないことだと思うことにした。



「それに当たってなんだけど、君の名前を決めないといけないんだけど、なにか希望とかあるかい?」


「そう言われてもパッと思いつかないよ」


「そっか、誰かなにかいい名前思いつかない?」



 そう言ってコルトは全員に話を振ってきた。



「名前ってそんな簡単に思いつくもんじゃないと思うんだけど」


「そうだよ」



 海斗君と律君がそう答え、他の皆も首肯していた。



「僕が適当に決めてもいいんだけど…君は自分だけで決められないなら誰に決めてほしい?」


「それなら…」



 そう言って俺の方に近づいてきて手を握ってきた。



「そっか、秋とアリシアが親みたいなものだしね、なにか思いつかない?」


「なにか、か…」



 神如き力を持つ悪魔の素体として作られた人造人間ホムンクルス


 そうなることはできずに循環する光に手を伸ばした。


 そうして神魔としての生き方を無くし、新たな生き方を探す子供。


 思いつきの連想でしかないけれど。



神無かんな



 神如き悪魔はもう無い。


 だからこそ、新たに生まれたときに手を伸ばした光を忘れないように。


 その生まれをいつでも思い返せるように。



神無かんな、というのはどうだろう」



 そう言って子供の方を見てみる。



「神無、神無、それが私の名前…うん、私は神無!」



 思いつきだが気に入ってくれたようだ。



「まあ、手を伸ばした相手が考えてくれた名前だからね」


「名字の方はどうする?」


「秋と同じでいいんじゃない?」


「適当だな」


「ならそれも秋が考えていいんじゃないかな」


「秋が決めてくれるならいいよ」



 コルトの言葉に神無も同意するが、俺だけで決めるのもよろしくはないだろう。


 



「いや、神無が生まれたときにいたもう一人にも意見を聞いてみよう」


「それってアリシア?」


「ああ、逢う予定があるからな、そのときに聞いてみよう」


「私も行きたい」


「わかった、神無自身のことだからな」



 とりあえず名前は決まった。



「戸籍はそんなに急いで作らなくてもいいんだけど、いつ逢うんだい?」


「今日だ、報告が終わってからだな」


「あ、そうなんだ?」


「ああ、夕方から空いているからな」


「そっか、なら報告会をサクサク終わらせようかな」


「そんなに急ぐわけでもないが…」



 そう言ってコルトは報告会を本当にサクサク進めていった。


 ヘルイムシティで起きたことが及ぼしたこと、これからの神無のこと、魔法少女やヒーロー達のこと、滞ることもなく話は進んでいった。


 報告会が終わった後に律君と彩君から色々と話を聞かれたが、神無が手を引っ張ってくれたことで切り上げることになった。


 そうして、デモノカンパニーを出て、待ち合わせの場所へと車で向かった。





「ねえ、ふうちゃん、これでどうかな?」


「さっきから何回聞くんですか、似合ってるし、可愛いですよ」


「うん、付き合ってくれてありがと」



 そう言って私の名前を呼ぶ先輩を見て、色ボケやがってと思ってしまう。


 魔法少女のチームメンバーだからって休息日にこれを見せられるのは…悪くはないんだけど、なんとなくモヤッとする。



「それで真言まこと先輩、時間はいいんですか?」


「うん、まだ大丈夫、余裕持って動くのは社会人の基本でしょ」


「いや、今日休息日ですからね?」


「どっちでも一緒だよ、それに楽しみにしてた日だし、遅れるなんてできるわけないよ」



 ホント性質悪たちわりぃ!


 休息日くらいもっとダラダラ過ごせよ!


 そう言いたくなるのをいつものように心の中で止めておくことにする。



「よし、これで大丈夫!、なはず…」



 後半声が自信なくなっていったのは気の所為じゃないんだろう。



「なんでそこまで気合い入れてるんですか…」


「だって、一番良いって思える自分で逢いたいし…」



 これが乙女っていうやつなんだろうか。


 18年間戦い続けてきて、青春とかもなかったと言っても過言じゃない日々を送ってきた代償なのかもしれない。


 だから私もかける言葉は真摯に、誠実なものにするべきなんだろう。



「よほどおかしな格好をしてない限り、真言先輩なら大丈夫です」


「あ、うん」


「そして、今の真言先輩はお世辞抜きに可愛いです」


「そう言ってもらえると嬉しいなぁ」


「先輩は後輩魔法少女でもある私、魔法少女アイレスを信じられませんか?」


「ううん、信じるよ、ありがとう」



 いつもの笑顔で返してくれる先輩に私も笑顔で返す。


 そして、こうしていても進まないだろうということで伝えることにする。



「それじゃあ、もう行きましょうか」


「え、まだ早いんだけど」


「待ち合わせに早めに行っておいた方が相手が早めにきてた場合、一緒に過ごせる時間が増えるでしょう?」


「そっか、それもそうかな…でも早く来るかな?時間までには来るとは思うけど、どうなんだろう…」


「それも今日行けばわかるんじゃないですか?予測がつかないなら経験を積むしかないでしょうし」


「…うん、そうだね、それじゃいってきます!」


「はい、いってらっしゃい」



 そう言った後、これまでのはなんだったのかと思うくらいにすぐに出て行ってしまった。


 いや、行くように言ったのは私だけど、ここまであっさり行かれると逆にモヤッとするっていうか…。



「まあ、仕方ないか…帰ってきたら、話を聞けばいいし」



 とりあえず、このモヤッと感をなんとかするためにも愚痴ってよさそうな相手に連絡を取ってみることにした。



「先輩にも笑顔でいてほしいし、ね…」



 連絡した相手=フレイリールも事情を聞くと快諾してくれたので感謝しつつ、そんなことを零して、私も休息日を満喫するべく外へと足を向けていった。





「と、いうわけで予定より早く来たの」


「そうだったのか、俺が時間を間違えたのかと思ったが、そうじゃなかったなら良かった」


「どのくらい早く来たの?」


「1時間くらい早くかな」


「そんなに早く来たのか?」


「うん、秋桜がどれくらい早く来るかわからなかったのもあったし、実際30分前に来たんだから結果オーライだよ」


「そういうものなんだ?」



 秋桜と神魔君が先に来てた私に時間を間違えたのか確認してきたから、これまでの経緯を説明することになった。


 風ちゃんが言ってたみたいに早く来たから一緒の時間を増えたから良いことだったと思う。



「そういえば神魔君も一緒に来たんだ?」


「うん、秋が名前を付けてくれたんだけど、名字は私は生まれた時にいたもう一人にも相談してみようって」


「あ、そうなんだ?秋って秋桜のことだよね?神魔君の名前は何になったの?」


「神無だよ」


「まだ名乗ってなかったな、佐倉 秋だ」


「うん、私も本名を名乗るのはじめてだね、沙原 真言さはら まこと、よろしくね」



 なるほど、だから秋桜なんだって思えてしまう名前だった。



「真言でいいよ、そっちは秋でいいかな?」


「ああ」


「私は?」


「男の子か女の子どっちなの?」


「神魔を創り出すなら女性の方がいいからって、人造生命ホムンクルスは女性体で、それを引き継いだのもあってか、一応女の子だよ」


「そっか、じゃあ神無ちゃんだね」



 今は男の子か女の子かわかりにくいけど、成長すれば女の子っぽくなっていくってことかな。


 秋桜、秋にも色々聞きたいことはあるけど、今日はオフだし、仕事のことは後で時間があったらにしよう。


 とりあえずはさっき言ってたことからでいいかな。



「それで神無ちゃんの名字を考えるんだった?」


「ああ、生まれたときに一緒にいたのが俺達ならア…真言にも聞いておくべきだと思ってな」



 今アリシアって言いかけたな。



「そっか、そうだね…」



 名字と言っても考えはじめるとなかなかに悩ましい。



「そんなに難しい?」


「難しいっていうより悩ましいかな、名前っていうのはその人を現すものだって思うから」


「秋は割と早く名前考えついたけど」


「あれは思いつきと連想からだったからな」


「ああ、そういうフィーリングっていうのに従った時の方が良いときってあるよね」



 あれこれ悩みすぎるよりは思いつきと響きで出した方がいいような気がしてきた。


 私と秋がいたから神無ちゃんが生まれた。


 なら、二人の名前と神無ちゃんのことから連想してみよう。


 佐倉 秋、沙原 真言、神魔、神無。



「…砂上さがみ砂上 神無さがみ かんなっていうのはどうかな?」



 砂は佐倉と沙原の最初の文字が『さ』で、それの漢字を変えてみて、上は神魔の神の読み方を変えてから、こっちも漢字を変えてみた。


 割と単純だけど、我ながらなかなか悪くない気がする。



「砂上 神無、それが私の名前…」



 噛みしめるように言葉にしてから、神無ちゃんは秋の方を見た。



「どうだ?」


「うん!」



 それだけで通じ合ったのか、神無ちゃんは喜んでいた。


 喜んでくれたなら良かったと思える。



「とりあえずひとつは解決したね」


「ああ、そうだな」


「それじゃ、これから3人でデートしながら色んなお話をしよう」



 秋と2人でデートの予定だったけど、神無ちゃんならいいかな。



「私もいいの?元々2人で行くんだと思ってたんだけど」


「いや、デートというのは今はじめて聞いた」


「そうなんだ?」


「ああ、突然ツールに連絡が入ったと思ったら、真言からだったからな」


「うん、私のデバイスに知らない上にわけのわからない文字列の連絡先があったからなんだろうって思ったんだけど、見てると繋がりを感じてね?」


「おそらくあの変身の時にパスができたんだろう、後から確認したら俺の方のツールにも妙な文字列の連絡先が入っていた」


「つまり2人は繋がってるってことでいいんだよね?」


「そうなるな」



 神無ちゃんにそう言われるとなんとなく照れるけど、プレミアム会員のチャット以外での繋がりができたっていうのは嬉しい誤算だ。


 しかも私と秋にしか繋がらない専用連絡番号だから特別感があってそれもまた嬉しい。



「秋とはこれからも連絡は取れるし、今日は3人でデートでいいかなって思うんだ」


「ファンクラブ会員としてはマナー違反にはなるんだがな」


「大丈夫だよ、皆理解ってくれてるから!」


「そっか、それじゃ今日は私もお邪魔するね、ありがとう」



 そう神無ちゃんが言ってから3人デートに洒落込んだ。


 秋のこと、私のこと、神無ちゃんのこと。


 それぞれのことをデートで回った色んな所で少しずつ話していった。


 その中でも秋が元々40代の男の人だったってことは朗報だった。


 見た目も大事だけど、人は中身も大事だから。


 これから、この理不尽が当たり前の世界でどんな風になるかはわからない。


 それでも、少しずつでも、お互いに知って、近づいていけたら嬉しいと思う。


 いつか、私達が寄り添っていられる未来に辿り着けたら、なんて思ってしまう。


 私よりも年上なのに、そんなに変わらない見た目の年齢に見える大切な人。


 それでも、あなたがあなただから、私はこれまで歩んでこれた。


 他愛もこんな時間をこれからも過ごせるように。


 そんな私の願いを叶えるために、魔法少女アリシアはこれからも戦うのだと実感する。



「ねえ、秋、大好きだよ」


「ああ、俺も好きだよ」



 私の言葉に違う種類の同じ言葉で返すあなたにいつか同じ種類の言葉で返させるのもひとつの目標。


 他愛もない目標かもしれないけど、未来に希望を持てるっていうことは今日を生きる力になるってことを知ってるから。


 私は今日という日を思いっきり楽しんだ。

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