彼や彼女達の後片付け
アリシアと神魔を浄化とでもいうのか、光に溶かしたら、そこには少年にも少女にも見える子供がそこにいた。
「この子は?」
この流れなら神魔なんだろうとは思うが、詳しいことはわからないので手を伸ばしたアリシアに聞いてみる。
「うん、神魔の中にいた子、多分この子が神魔の本体なんじゃないかな?」
「そうなのか?」
アリシアも正確にはわかっていなかったようなので、本人に問いかけてみた。
「うん、核になるのかな?元々は創造主が創った
「あの悪魔のような姿は?」
「神の如きモノ、神魔でいいかな?その神魔として顕現する前に攻撃を受けちゃって、そのまま消滅させられそうになったから、繭を飲み込んで外装として顕現した姿」
思った以上に状況を把握していて、理解っていることを素直に話してくれる。
「生まれたばかりでまだなにもこの世界のことを知らないのに消えるのも嫌だったし、この世界に対して知識としては理解ってるけど、実際にはなにも触れてないからなにかするのにもそんなに執着はなかったんだ」
なるほど、言ってることはわからなくもない気がする。
「とりあえず滅ぼされないために戦ったんだけど、その後のことはあんまり考えてなくて…でも、その中でお姉さん達の光が綺麗だって思ったんだ」
うん?
どこか声と目に熱がこもってきたように見えてくる。
繋いで握ったままだった手にも力が入ってくるのがわかる。
「あ、そうなんだ?そう言われると嬉しいな」
アリシアはその言葉を素直に喜んでいるようだが、それでも手を握る力が強くなったことは気になっているようにも見える。
「それでアリシアはこの子をどうするんだ?」
どこか熱のこもった様子は気にはなるが、生まれたばかりで綺麗だと思えたものに手を伸ばして、その手が届いたなら嬉しく思うのも仕方ないだろうと思うことにする。
それはいいとして、今はまだやることが残っている。
そのためにも現状を把握し、次に行動を移さなくてはならない。
「あ、そうだね、とりあえずはまだ怪物は残ってるし、そっちもなんとかしないだし…ガンザック、
「わかった、俺はDr.デインを見ておこう」
「俺は子供の方かよ、お前さんは俺でいいのか?」
話を振られた赤司は子供の相手よりはと思ったのか、Dr.デインの方に向かい、ガンザックは神魔だった子供にも確認を取る。
「うん、ヒーローも格好良いって思えたから」
「そうか、なら外の片付けは任せた、今のアリシア達ならすぐ終わらせられるだろ」
ガンザックの言う通り、今の俺達ならこの街全体くらいの範囲なら移動も含め、事後処理もすぐにできる。
「うん、任せて!君もすぐ片付けてくるから待っててね!」
ガンザックの言葉に応え、子供にもそう言葉をかけてから、アリシアは俺の方に笑顔を向ける。
「それじゃ、後片付けもサクサクやっちゃおっか!」
「ああ、そうだな」
「うん、それじゃ行こう!」
アリシアが伸ばした手を掴み、繋いで手を起点に力を循環させる。
共鳴、同調した力を、街の色んなところで戦っている仲間達へと届けるようにと意識する。
そして、虹色の光の波動は街全体を覆うように放たれた。
❖
先輩が言っていたように覚醒したばかりの力は私達自身を振り回しそうになったりもした。
「焦らなくてもいいから、できることを確実に、堅実にやりなさい」
フレイリールがその都度そう言って皆に声をかけてくれたから、魔力がガス欠にならずに済んでるけど、覚醒で全体的に底上げされていたとしても強化フォームの消耗が激しいのは変わらない。
このままだとジリ貧で皆保たないだろうって思えてくる。
そんなときに突然わけがわからない、でも優しくて強い力を感じた。
それと同時に周りが綺麗な虹色の光に満たされていく。
「なにこれ!?」
「…アリシア?」
つい出てしまった私の疑問にフレイリールが疑問形ながら先輩の名前をつぶやく。
光が私達に力をくれる。
疲弊していたのに、それも回復していくのを感じて、真面目になにが起きているのかわからない。
「これ先輩の仕業ですか!?」
「この感じだと多分そうだと思うけど…本当に奇跡を起こしたのかしら?」
フレイリールもおそらく先輩がやらかしたんだろうってことしかわからないようで、首を傾げている。
この場にいる他のヒーローや魔法少女もかなり戸惑っているようだ。
「まあいいわ、多分そうだと思うし、ありがたく使えるものは使いましょう」
流石はベテランのエース級魔法少女、切り替えが早い。
「今やることはこの現象について考えることじゃなくて、目の前の怪物をどうにかすることだから、皆も気になるなら後でアリシアを問い詰めればいいから、今はやることをやるわよ」
言ってることは間違いない。
それは皆理解してるから、すぐに残っている怪物達との戦闘を再開する。
この光は私達の力を強化してくれると同時に私達自身を癒やしてくれているようだ。
身体的にも、精神的にも。
精神の方は先輩が無事だっていう安心感からなのかもしれないとも思ったけど、ここまで劇的に効いてるってことは普通に光の効果なんだろう。
ただ、これならやれるっていうのは間違いない。
…これが先輩の仕業だっていうなら、あの人いったいなんなんだって思えてしまうけど。
ふと先輩を乙女の顔にさせていた
少し悔しい気もするけど、あれは本当だったってことなのかもしれない。
古今東西でまことしやかに伝わる、恋する乙女は無敵なんだっていうある意味の伝説が。
こうしてそれに巻き込まれたというか、実感させられてしまうと信じざるをえないんじゃないだろうか。
それはこの戦いを終わらせて、時間が取れた時に先輩を問い詰めるとしよう。
「そのためにも…残りをとっとと片づけるのみ!」
「アイレスは本当にアリシアが大好きね」
「フレイリールはそうじゃないんですか!?」
戦いながらなので、声を荒らげてしまった。
「それはもちろん色々とお世話になってる先輩だし、嫌いなわけないじゃない」
「私も!そうですよ!」
「ええ、私もアリシアが大好きよ、だからさっさと終わらせてお茶でも飲みながら話を聞けばいいわ」
少しだけフレイリールの目が怖かった気がしたのは気の所為だと思いたい。
「そうですね!さっさと終わらせましょう!」
そう思うたいって思って、目の前の怪物に集中しようとしたとき、光が溢れた。
明るい虹色の光と暗い虹色の光。
「皆、生きてるよね?」
先輩の声だ。
「もちろんですよ!」
つい反射で声を上げてしまった。
「そっか、良かった」
その姿はこれまでよりも成長した姿で、一瞬先輩なのかを疑ってしまったけど、この少しのやり取りで間違いないと確信を得た。
「アリシア、急ごう」
はじめて聞く、静かだけど、可愛らしい声も聞こえる。
「あ、そうだね、皆すぐ片付けるから、そのまますぐに外の方も片付けるよ」
「え、すぐって…」
私が疑問を投げかけるよりも早く2つの光が動き出し、光の残像を残しながらあっという間に怪物を撃ち抜き、喰らい、倒していく。
「え、早っ…」
周りの怪物が確認できなくなった時にはもう2つの光は軌跡を残して外へと飛び出していた。
「…喰らっていたっていうことはアリシアと一緒にいたのは
「え…」
呆然としていた私の耳にフレイリールの独り言のような呟きが届いてしまった。
落ち着け私。
先輩はなんて言った?
片付けたらそのまま外の方も片づけると言ったはずだ。
あのもう一人について確認するにしても、事態が終わってからじゃないと先輩と話もできない。
なら、さっさと終わらせるためにも追いかけるべきだ。
「追いかけましょう」
「あ、そうね、外の方が多いはずだし、数は多い方がいいはずよね」
あの二人の動きを見たら要らないかもしれないとは思えたけど、だからといってそれが任せきっていい理由にはならない。
だから、私達は先輩達を追いかけて外へと向かった。
❖
虹色の光が街中を覆ったと思ったら、なぜか共闘してるヒーローや魔法少女達が強くなった。
あと海斗が運転してる私達が乗ってる車の性能も上がった。
意味がわからない。
これが奇跡ってやつなんだろうか。
「おい、彩、なにがどうなってる?」
「なんか車の出力が異様に上がってるんですけど?」
「ビットの威力とか操作性とかもさっきまで比べ物にならないくらいになってるよ!?」
透真、海斗、律が矢継ぎ早に聞いてくるけど、私にもわからない。
遊里さんの方にも確認を取ってみる。
『なんか、こっちも急に性能上がってるよ!すごいね、これ!』
ダメだ、性能が上がったことを楽しんでて、原因は気にしてないみたいだ。
『マスター彩、わからないことは気にしてもどうにもなりません』
AIのシンシアもそう言ってくる。
言ってることは間違いない。
なら…。
「理由はさっぱりだけど、私達にバフをかけてくれてるのは間違いないから、このままいこう、原因については後で秋さんか涼斗さんに聞けば理解ると思う」
神魔のところに行った二人ならなにかしら知ってるはず。
今は目の前のことに集中して、街の無事な人達の救助とヒーローや魔法少女達との情報共有が優先。
ヒーローや魔法少女達にもそのことを伝えて、現状できることを続けていく。
街にいる怪物は多いんだから、強化されたとしてもそこまで余裕があるわけでもないし…。
そう思ってやることをやろうとしていると、光が溢れた。
明るい虹色の光と暗い虹色の光を纏った二人の魔法少女。
その光の軌跡が通った後に怪物達の姿はなくなっていく。
「皆、大丈夫?」
明るい光の魔法少女の声を聞いて、共闘していたヒーローや魔法少女達は驚きつつも士気を上げていく。
「君達も大丈夫そうだな」
暗い光の魔法少女は私達に声をかけてきた。
聞き覚えのあるその声に安心感が溢れてくる。
その姿がガスマスクの怪人姿じゃなくて、魔法少女っぽい姿でもそこに来てくれたことはなによりも頼もしいものだったから。
「え、どしたの、その格好」
「成り行きだ」
「あ、そうなんだ、でも可愛いよ!」
「ありがとう」
「・・・」
「気にしなくていい」
海斗と律の言葉に律儀に答えて、どう声をかけていいか悩んでいる透真にもちゃんとフォローを入れてくれるのもらしいものだって思えた。
「すぐに片付ける、救助とサポートは任せる」
「はい!」
任せると言ってくれたことにはっきりと返事を返すといつものように微笑んでくれた。
すぐに光の軌跡を残して怪物を倒しにいっちゃったけど、心にも力が溢れてくる。
明るい光の魔法少女との異様に息の合った連携にはちょっとだけ悔しく思う所もあるけど、今は任されたことをやるのみ。
「さあ、皆やることをやろう!」
「わかってる」
「オーケー」
「任せてよ!」
私の掛け声に透真、海斗、律も返事を返してくれる。
その後は2つの光を中心に街の怪物達は片付けられていった。
こうして、後に神魔創生と呼ばれることになる出来事は終わりを迎えようとしていたのだった。
もちろん、この後には事後処理も残っていて、それも終わった時にようやく終わることになるのは言うまでもないのだと思う。
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