神魔の見た奇跡

 光がそこに在る。


 優しいけれど、なぜか目を灼くような光。


 明るい光と暗い光。


 そのどちらからも目を離せない。


 外装を動かすこともできず、ただただ目を惹かれてしまう。


 そんな綺麗で、優しくて、暖かな光。


 そんな光に手を伸ばさずにはいられなかった。



「なんだ、それは…ふざけるな、そんな奇跡がそうやすやすと起きてたまるか!」



 雑音のように創造主の声が聞こえ、外装を操作の術で動かそうとしている。


 魔力はほとんど飲み込んだはずなのに、どこからこれだけの力が湧いてきたのか。


 ただ今は自分では動かす気になれないので、戦闘が継続されるなら、その方がいいのかもしれない。


 あの光がどんなものなのか見てみたいという気持ちも私のここに在ってしまうから。


 それでも、一応防御だけはしておこう。


 どんな力を発揮するのかはわからないが、あれはまさしく奇跡の力だっていうのは理解ってしまうから。


 


 創造主が操作して二人に攻撃を仕掛けるが、残像だけ残してあっさり避けられてしまう。


 残像というよりは光の軌跡なのだろうか?


 それすらもわからない。


 ただ、綺麗だ。


 明るい光の少女の魔法は防御してもあっさり貫いてくるし、暗い光の少女の物理攻撃が防御が意味をなさない威力を叩き込んでくる。


 こちらの魔力攻撃もあの光の前には無力になるのか、二人まで届いた様子もない。


 あちらの攻撃は防御できず、こちらの攻撃はどれだけの距離があるのかと思うほどに届かない。


 これはもう勝ち目はないのは明確だ。


 それでも諦めない創造主には感心してしまう。


 いや、創造主も理解はしているのかもしれない。


 そしてただ、認めたくないだけなのかもしれない。


 創造主がすべてを懸けて創り出した私がまるで届かない次元の存在がそこにいるということを。


 あくまで私がそう思うだけ、というだけの話なのだが、あながち間違ってはいないのかもしれない。


 まあ、


 目の前の2つの光、目を惹かれ、目を灼かれるこの光。


 


 まず、超越の魔法少女を私の魔力攻撃から庇い、喰らう怪人のマスクが割れて、素顔が見えた。


 その素顔を見て、超越の魔法少女は確かに呆気にとられていた。


 少しのやり取りですぐに元に戻った、


 力尽きて動けない私の前で二人が手を繋ぎ、超越の魔法少女から明るい虹色の光が溢れた。


 


 怪人が取り込んだその光は虹色ではあったが、超越の魔法少女のものと比べて暗いものへと変化していった。


 


 それぞれの光が二人の間を循環し、共鳴して、より強く、より高い領域、高い次元のものになっていった。


 そして二人はその姿を現した。


 超越の魔法少女はこれまでよりも成長した姿になり、怪人の少女は魔法少女と呼んでもおかしくない装いとなっていた。


 纏う衣はお互いに対になるような白と黒。


 その身から溢れる光は種類こそ違うけれど、全てを内包しているかのような虹の如く。


 宿す力は私が測りきれない領域と次元にある、まさしく奇跡というにふさわしいもの。


 2つの光はお互いに高め合い、更なる極点へと進んでいく。


 ああ、


 神の如きと創られた私が辿り着けないその奇跡。


 


 このまま滅びてしまうことを認めることなどできはしない。


 私は願う、私は望む、私は求め、その極光ヒカリへと手を伸ばす。





―――どうか、私もあなた達のような極光ヒカリになりたい―――







 アリシアから光を受け取り、新たな力をこの身に宿した。


 だからこそ理解ってしまう。


 


 決して、一人でも独りでも至れない。


 そして、ただ強さを求めただけでも至れない。


 きっとたくさんのことを積み重ねて、大切な人が隣にいて、想いを絡ませ、その先に到れるものなんだろう。


 神魔に辿り着く前にすでに更なる覚醒を果たしていたアリシアが、それから少ししか経っていない今、更に覚醒できるわけがない。


 


 ならば、どうして更に上の領域、いやこれは全く異なる次元と言っていい。


 そこに辿り着くことができたのか。


 それは、


 確かにアリシアはここに至るまでに多くの経験を積んできた。


 魔法少女として活動してきたその18年で、数多の希望も絶望もあっただろう。


 それら全てをアリシア自身の力として、ここまでやってきた。


 そして、俺にとってアリシアが大切な人であるように、アリシアも俺のことを大切な人だと思ってくれている。


 ファンクラブのメンバーのことをそれぞれ大切に思っているのも、もちろん理解している。


 アリシアを支えてきた彼や彼女達に尊敬の念を禁じ得ない。


 そんな彼や彼女達が俺もアリシアにとって大切な人だと言ってくれたのだ。


 その言葉を信じられないわけがない。


 だからこそ、アリシアのその言葉に俺は


 俺達が積み重ね、絡めてきたものは目に見えなくとも、確かにここにあるのだから。


 この姿と力はまさしく奇跡と呼ぶにふさわしいものなんだろう。


 アリシアの姿が成長し、俺のスーツも魔法少女のようなものになっているのには多少戸惑いはあったが、今は気にするほどでもない。


 …アリシアが喜んで笑っているところに、水を差すべきではないと思う気持ちがあるのも確かだ。


 Dr.デインが神魔を操作し、攻撃を仕掛けてくるが、その手足も、魔力も俺達には届かない。


 アリシアの魔法が神魔を撃ち、俺の爪牙と拳が神魔を穿つ。


 さっきまでとは比べ物にならないほどの膂力と速度。


 そして、纏う光自体も防御の役割を果たしているのか、神魔の攻撃は俺達まで届かずに消えていく。


 原理は理解らないが、


 これなら、ほどなくして神魔を討滅することができるだろう。


 油断も、慢心も、驕りもせずに確かな確信と共に。


 傷だらけになり、膝をついた神魔の動きはもう鈍い。


 それでも、俺達から目を離さないその様子はなにかを感じさせる。


 そして、神魔はその手を伸ばし…。





 なんか自分で思ってたより凄いことになった気がする。


 私一人だとこうはなれなかった。


 秋桜がいて、受け入れてくれたからできたのは間違いない。


 受け入れてくれたときの答えにちょっと不満はあったけど、これから進めばいいだけだから、


 この力はまさしく奇跡って言っていいんだと思う。


 これまでとは違いすぎる力。


 なんでもできる。


 


 もちろん、


 それが理解ってしまうのは、


 私と秋桜、どちらかが足を引っ張っている、とかそういうのじゃなくて、お互いを大切には思っているし、そこに積み重ねてきた想いもあるのは間違いない。


 ただ単純に私が秋桜に向ける想いと秋桜が私に向けている想いが同じ好意でも種類が違うものだからなんだと思う。


 多分このままでもいずれはその先に辿り着けるとは思うけど、なんとなく私が今見てる先とは違うものになるんじゃないかな。


 実際こうして神魔と戦っている中で先へ先へと進んでいるのが理解るから。


 それはそれで絆って感じがしていいのかもしれないけど、乙女としてはこれから頑張って見てる先に行けるように頑張ろうとは思う。


 …アイレスが聞いたら「なに色ボケてんです?」とか言いそうな気はするけど、こればかりは仕方ないよね。


 こうなったことで前より姿も成長したものになったのも嬉しい誤算だったと思う。


 前までが小学生くらいだとしたら、今は中学生から高校生の間くらいかな?


 人によって成長は違うし、なんとも言えないけど、元の姿の私がそのくらいの年齢だったら、こんな感じだったのかもしれない。


 そんなことを考えてはいても神魔への対応はちゃんとしてる。


 というか、こんなことを考えてるくらい余裕があってしまう。


 それだけの差が今の私達と神魔の間にはあるのだから。


 ガンザックと地獄の焔ヘルブレイズが割って入らずに、周りの被害を抑えるのとDr.デインの確保を優先しても大丈夫なくらいには。


 そうしてDr.デインをガンザックが確保してくれたことで神魔の動きが止まり、膝をついた。


 それでも私達に目を向けているのは神魔自身の意志なのかもしれない。


 その意志を持って私達に手を伸ばす神魔はなにを思っているのだろう。


 なんとなく、そう思ってしまった。


 だから、私は秋桜に問いかけた。



「ねぇ、私のやろうとしてることに付き合ってくれるかな?」


「もちろんだ」



 即答だった。



「うん、ありがとう」



 精一杯の笑顔で私は伝えた。


 それから、


 そこから視えたのは、姿


 


 ああ、そうか、生まれたばかりのこの子がはじめてみた極光ヒカリが私達になるんだ。


 一人じゃない、独りじゃない。


 それがどれだけの奇跡を起こしたのか。


 起こした私だからそれが理解ってしまう。


 羨ましいと焦がれ、そんな風になりたいという願いと望み。


 その想いが神魔であるこの子に理解ってしまったというのなら。


 そんな子が私達に手を伸ばしているというのなら。


 私は、私達は…。





 極光ヒカリが伸ばした手を掴んでくれた。



「一緒にやってくれる?」


「君がそれを望むなら」



 明るい光の少女の問いに、暗い光の少女が応え、お互いに笑い、微笑んでいる。


 二人の少女が私の外装の手を握り、祈るように光を紡ぐ。


 虹色の光が私の外装が浄化でもされたかのように光の粒子へと換わっていく。


 光が私を包み、私に流れ込んできて、私を澄み渡らせていく。


 ああ、理不尽に満ちた世界だというのに、


 こんなもの、


 外装が光へと変換され、姿


 ここにある想いはきっと色んなものが絡み合っているんだろう。


 その中で今二人に伝えるべき想いは理解っている。


 だから、私はその想いを伝えよう。




――――私の手を掴んでくれて、ありがとう――――

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