転校生な怪人少女

「佐倉 秋です、よろしくお願いします」



 その転校生の少女はなんの飾り気もない言葉で自己紹介をした。


 


 パッと見ただけでも、目を惹かれる美少女だと思う。


 彼女のシンプル過ぎる自己紹介に対して、自己紹介を促した先生も困っているように見える。



「あの、佐倉さん、それだけ?」


「?」



 先生の質問に対してなにを言っているんだろうとでもいうように首を傾げるその姿は可愛らしいものだった。



「あ、うん、それじゃ佐倉さんの席は…後ろの空いてる席だね」


「わかりました」



 先生が言った空いてる席は俺の隣の席だ。


 彼女が席に座ったときに軽く挨拶しておく。



「俺は速水 零斗はやみ れいと、よろしく」


「はい、よろしくお願いします」



 その反応をみてどこか大人っぽくも見えてしまう。


 礼儀正しいっていうか、なんていうかわからないけど、なんとなくそう思えてしまった。


 その後、ホームルームが終わったら、興味のあるクラスメイトが集まっての転校生あるあるな質問タイムだ。



「どこから来たの?」


「兄弟とかいる?」


「どこに住んでるの?」


「彼氏とかいる?」



 どれも定番といえば定番な質問だった。


 佐倉さんも無難に答えているようだ。


 少し困ったような顔をしているようにも見えるけど、嫌がっているわけでもないみたいだ。


 その様子をどこか警戒した様子で見ているやつがいた。


 クラスメイトの中でも不良っぽくて浮いている大上 健おおがみ たけるだ。


 あいつとはそれなりに縁があって、付き合いもあるけど、あんな風にしているのははじめてみる。


 どうしたのかとジェスチャーを送ってみるが、なんでもないとでもいうような仕草で教室から出ていった。


 その様子を不思議に思っているうちに、佐倉さんは学校案内と称されて他のクラスメイトに連れられていってしまった。



「転校生可愛いよな…」


「ああ、当たりだよな」


「見た目で当たり外れって言わないでよ」


「しょうがないだろ、まじで可愛いんだし」


「まあ、そうだけどさ…」



 クラスメイトの中でもそれなりに話題になってるようだ。



「零斗はどう思う?」



 そう話を振られると答えはそのまま返すしかない。



「ああ、可愛いよな、なんていうか、大人っぽい感じもあってさ」


「だよなー」



 同意するやつは何人かいたようだ。



「へえ…零斗もそう思うんだ?」



 ふと、視界の外から声が聞こえてきた。


 どことなく不機嫌な感じも混じっている声の方を向くと、同じクラスと他のクラスの友人が3人そこにいた。



「なんか含みのある言い方に聞こえたけど、素直な感想だよ」


「そうですか、それはようございましたね」


「確かに可愛らしい人でしたね」


「そんなになんだ?」



 素直に答えたつもりだけど、気にいらない部分があったようだ。


 他の友人は俺の感想に同意を示してくれて、もう一人の友人は他のクラスだからまだ佐倉のことは見ていないらしい。



「うん、なんていうか、気になる感じはするかな」


「・・・!」


「あらあら」


「へー」



 俺の言葉に不機嫌になっていた友人、一ノ瀬 梓いちのせ あずさはさらに不機嫌さを増した気がした。


 他の2人、宮藤 茜くどう あかね西宮 瑠璃にしみや るりも俺の反応に興味を示したようだったが、特に不機嫌になったりはしていない。


 なんで、俺がこんな不機嫌丸出しな相手と、とは思うが、普段は気さくな友人ではあるから仕方ないんだろう。


 たまにこういうことがあることはため息をつきたくなるが、移ろいやすい人の心がわからない以上はどうしようもないんだろうと思うことにしよう。



「チッ、相変わらずモテやがって…」



 俺達の様子を見ていたクラスメイトの言葉に苦笑いしか返せない。


 真面目にモテてると言えるのかがわからないからだ。


 確かに仲は悪くない、むしろ良いほうだとは思う。


 なぜなら、西


 というか、現在進行形でも魔獣や妖怪が出たり、異能を持つ通り魔が現れたりすれば戦っている。


 この世界にはたくさんの理不尽が存在する。


 俺達の住む街にも謎の秘密結社や組織というものがいくつかあった。


 過去形なのは俺達がかつて戦って潰したからだ。


 まだ他にも秘密結社や組織は存在しているから、現在も戦っているということになるわけだ。


 ヒーローや魔法少女とも協力することもあるが、俺達の戦力が結構なものだからというのもあって、街でのことに関してはほぼ任されてしまっている。


 そんな命がけで背中を預けて共に戦う相手が信頼できないわけがない。


 だからこそ、モテてると言われても、素直にそう思えないのは仕方ないと思うんだ。


 その感情が戦友や仲間としてのものだと思えてしまうから。


 ああ、そういえば大上が佐倉さんに警戒していたのは、佐倉さんになにかを感じとったからなのかもしれない。


 俺は警戒するようななにかがあるのかはわからなかったけど、


 そう思うとまたなにか面倒事が起きるのかとため息が出てしまう。


 不機嫌な一ノ瀬やそれを見て楽しんでいる宮藤や西宮の相手をしながらため息をつくと、さらに一ノ瀬を不機嫌にさせてしまった。


 どうか、俺に平穏な日々をください。





 クラスメイトに学校を案内されながら、どうして俺はこんなことになっているんだろうと考えてしまう。


 いや、理解ってはいる。


 仕事だ。


 ただ、


 それでも、仕事を引き受けて、やると決めた以上はやるだけだ。


 前情報として学校のどこになにがあるかは把握してはいるが、実際に確認しておくことは必要なことだから、案内してもらえるのはありがたいことだ。


 この学校、というよりはこの街にはいくつかの組織が集まっており、それに対抗して街を守っている勢力が存在している。


 魔法少女やヒーローとはまた別の、自警団のようなものだ。


 ようなものというのは、自警団というにはその勢力は学生がほとんどな上に、集団としてまとまっているわけでもないからだ。


 いくつかの学生のグループやそれに近しい人達がその場その場で協力して解決している、というのが現状になるらしい。


 この学校内にその中心となっている学生のグループがいるのが、俺がこの学校に来た理由になる。


 その学生グループが集まっているクラスに転校させたコルトのコネはさすがということなんだろう。


 ともあれ、まずは前情報と現状のすり合わせからだ。


 制服のスカートや色々としたものに違和感はまだまだあるが、なにがあっても対応できるように慣れておくことも必要だ。


 羞恥心や忌避感は間違いなくある。


 それでも、いつも通り、やると決めたことをやるだけだ。





 時間は数日前に遡る。


 

 デモノカンパニーの本社でコルトさんがたまにある変なことを言い出す、そのときだ。



「季節も秋になったね」


「ああ、そうだな、涼しくなって過ごしやすくなった」



 毎度のように、秋さんが律儀に答えている。



「月も綺麗だし、良い季節だと思うんだよね」


「そうか」


「うん、中秋の名月っていう言葉も好きなんだよね」


「俺も嫌いじゃない」



 毎度のように、他愛もない趣味に聞こえる話が続いている。



「月といえば色んなお伽噺もあるよね、狼男とか吸血鬼とかさ」


「現代だとお伽噺じゃなく、普通に存在が確認されているんだったな、俺はまだどちらにも出くわしたことはないが」


「そうだね、割と色んな国や地域に出現してるよ」


「そうらしいな」



 話がようやく本題に入ってきたんだろうか。


 たいていコルトさんの回りくどい導入への対応は秋さんに丸投げしてしまっているのがちょっと悪い気持ちになってしまう。


 涼斗さんとか遊里さんとかも反応してくれてもいいと思うのに、面倒なのか2人も秋さんに丸投げだ。


 当の秋さんは気にしていないように見えるから、どうしても甘えてしまうのかもしれない。


 いつもありがとう。



「と、いうわけでさ、秋」


「なんだ」


「女子高生になって、とりあえず送り狼に逢ってきてよ」



 なに言ってんだ、この人。



「「「「は?」」」」



 彩や律達のハモった声が聴こえたけど、どうにも頭に入りきってこない。


 言っていたことを頭の中で反芻してみても、どうにも意味がわからない。


 なので、結論はどうしてもこうなってしまう。



「なに言ってんだ、この人」


「「え?」」


「ん?」


「あー」



 彩や律がなにか疑問に思うような声を出していたのに気づいて、そっちを見てしまう。



「海斗、また声に出てたぞ」


「え?」



 透真の言葉にマジかって思えてしまう。


 いや、でも、言ってることが意味わからないし、仕方なくない?



「誰か意味わかったやついんの?」


「いや、まあ、わかんないけど」



 つい、そのまま言葉にしてしまったけど、こればかりはわからない以上仕方ないだろ。



「…学校に潜入ということか?」


「うん、その通り」



 そんな中、秋さんが言葉を発して、コルトさんが嬉しそうに答えた。



「え、なに秋さん意味理解ったの?」


「言葉の通りに取るとそうなるだろう」



 いや、まあそうなのかもしれないけど。



「俺にそう言うということは、彩君や律君では対応できないかもしれないなにかがコルトの言う学校にあって、まずはそこにいるだろう狼男に逢ってこい、ということなんだろう」


「うん、色んな組織や勢力がその街に集まっててさ、多分そこになにかあるんだろうってことで、私達も介入しておこうかなって思ったんだ」


「なにかって、なにかわからないの?」


「なんとなく理解ってるけど、確定してるわけじゃないから、その確認も兼ねてだね」



 そう言われるとそういうものかって思えてしまう。



「私達じゃ駄目なの?」



 遊里さんがそう言うとコルトさんが苦笑しながら答えを返した。



「涼斗や遊里なら教師として行くことになるけど、それだと学生に馴染むのが難しいだろうからね」


「そっか…」


「彩君と透真君はポーションの影響もあるけど、異能者を相手取るには危ないし、律君と海斗君は尚更ね」


「私は?」



 話を聞いていた神無ちゃんがそう言ったけど、これに関しては俺も含めて皆暖かく微笑んでしまった。



「神無は見た目が幼いから高校生というには難しいだろう…たまに成長が遅いタイプもいるにはいるかもしれないが、それは本当に稀だと思う」


「そっか…」



 見るからに落ちこんだ神無ちゃんの頭を優しく撫でる秋さんを見てほっこりしてしまったのは仕方ないと思う。



「つまり、俺がその学校に、というのは消去法による人選ということだな」


「秋から情報を上げてもらって、必要なら応援は送るよ」


「それだけ面倒なことになるかもしれないということか」


「うん、危険度がそれほどじゃなかったら彩君達の誰かに行ってもらうつもりだったけど、集めた情報を見た限り、ヘルイムシティのときとは違う方向で厄介なことになりそうだよ」



 神魔のときとは違う方向って言うことは、厄介さは同じくらいってことなんだろうか。



「そうか…予想だとどの程度になりそうなんだ?」


「まだ予想でしかないけど、悪い方向に進めば最低でも街はなくなるくらいの状況にはなるんじゃないかな?」


「「「「!!!」」」」


「そうか」


「最悪だと世界に取り返しのつかない影響を与えることにもなるかもしれないけど、どの程度になるかはやってみないとわからないっていうのが本音だよ」



 あっさりこういうことを言うのがコルトさんで、それをまたあっさりと受けているのが秋さんだっていうのも毎度のことだけど、俺はどうにもそんなにあっさりと受け入れていいのかわからなくて困る。



「いつもなんだけどさ、なんでそんなにサラッと世界の危機について言えるのかな…」


「うん?あんまりもったいぶって緊張感溢れさせて言ってもなにか変わるわけでもないしさ」


「いや、そうなんだけどさ…なんていうか、もっとこうさ?」



 どう表現していいかわからなくて、秋さんの方を見てしまう。



「海斗君、言いたいことはなんとなくわかるが、コルトの言うことはもっともなことだ」


「…うん」


「たとえ、なにがあるとしても、俺達はやると決めたことをやるだけだ」



 また、秋さんに甘えてしまった。


 そんな自分が情けなくなる。



「そうやって自分の意見をちゃんと言えるところは君の美徳だと俺は思う」



 その言葉に引っ張られて、顔を上げると優しく微笑んでいる秋さんがそこにいた。


 ああ、やっぱり、俺はこの人が…。



「話は決まったということで、秋に合わせた制服用意してあるから試着しないとね」



 コルトさんの言葉に邪魔されたけど、その言葉に引っ張られてしまったのも事実だった。


 秋さんが眉間にしわを寄せているのを見てしまったけど、こればかりは仕方ないんだと思う。


 立場が逆だったら、俺もそうだと思うし。


 まあ、今は見たい気持ちの方が勝つのだけど。



「というわけで、律君、彩君、遊里、頼めるかな?」


「「「任せて!!!」」」



 そう言って、嫌そうな顔をした秋さんを連れて行った3人はとても楽しそうだった。


 その後に見た秋さんの制服姿は可愛かった。



「ほう、似合ってるな」


「うん、可愛い可愛い」


「・・・」


「一緒の学校に行きたい」


「そうか…ありがとう」



 涼斗さんとコルトさんの素直な感想となんて言ったらいいかわからなそうな透真と同じ青春を送りたいっていう俺の感想に対して、苦虫を噛み潰したような顔をしてお礼を言う秋さんも可愛かった。


 その後、女子高生の振る舞いを覚えようということで3人にレッスンを受けた後の秋さんを見たら、普通に可愛い女子高生だった。


 応援に行くことになったときに力になれるようにできることを増やしておこうと心から思った。


 それは彩や律、あと透真も同じだったんだろう。


 そのときに頭を下げて撮らせてもらったツーショットの写真をツールの待ち受けにして、いつか来るかもしれない日を思って、俺は皆に負けないように日々を送る。

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