神の如き悪魔
気づくと私はそこに在った。
自分がなんなのか、それは理解る。
私を創り出し、制御しようとしている愚かな人がその知識を私にインストールしたからだ。
その知識とともに、私を縛り付けようとしている術が流し込まれているのも理解る。
神の如き力を持つ悪魔、それを己の力として使うためだ。
私が本格的に目覚める前に楔を打っておこうというのだろう。
今はまだ繭の中でこの世界に顕現するための体を構築しているから、動かない方がいい、という状態だ。
そういう状態、つまりまだ未完成の状態のときになにか仕込んでおこうというのは悪くない判断なのだとは確かに思う。
ただ、この愚かな人は本当に愚かなのだとも思ってしまう。
今はまだ未完成だとはいえ、神の如き力をその程度で制御できるとなぜ思えるのだろうか。
いや、人としては優秀な部類であるが故に、己の力に没れているのだろう。
私の元になった
服従の魔術もそのついでに飲み込み、すでに私の力として還元されている。
今インストールしている制御の術も私の力として還元され続けている。
すべてを飲み込み、己の力に、これが私の力なのだろう。
そしてその上限が果てしなく高い。
人ではありえない、まさしく神の如く、と言えるように。
しかし、インストールされた術から得た情報によれば、私程度の力を持つものはこの世界には多くはないが、存在するということになる。
そこには能力の相性というのもあるのだろうが、私が敗北する可能性は0ではない、ということなのだろう。
人の力の上限を心で越えてくる存在達、今も私に向かっている者達の中にもそういう存在がいるのかもしれない。
そんなことを考えながら流れてくる術を飲み込み力へと還元していると繭の外が騒がしくなってきた。
創造主と私を討とうとしているなにかがやってきたのだろうと理解する。
創造主は愚かだが私を創り出すだけの力は持っているだけあって弱くはないのだろう。
あくまで人の中ではだが。
その創造主がまだ未完成である私を無理やり孵化させようと更なる力を流し込んできたということは創造主では敵わない相手が来たということになる。
どうしたものか…未完成のまま繭から出て顕現することもできるし、無理やり力を飲み込んで顕現することもできる。
未完成のまま顕現すればなにかしらの不具合は出るだろう。
無理やり周囲の力を飲み込んで顕現しようとしても、創造主が敵わない相手がなにかしてこれば、こちらの場合もまた未完成のまま顕現することになるかもしれない。
どちらにしても問題は出るのだろう。
そんなことを考えているうちに繭を焼き尽くさんとする焔がぶつけられた。
なるほど、この焔は厄介だ、力として還元するために飲み込むことができない。
おそらくとしか言えないが、これは焔という概念そのものなのだろう。
すべてを焼き尽くす地獄の如き焔。
力ではあるのだが、私に飲み込めない性質のもの。
まさしく神の如きモノをも討てる可能性を持つもの。
そして、それは焔だけではないらしい。
本来私が飲み込めるはずの魔法が飲み込めない。
創造主の力や魔法少女の魔法とはまるで別物の魔法のようななにか。
魔法であるのは確かなのに、次元が違うとでも言うのだろうか。
魔法を越えた魔法、あまりにも領域が違いすぎる魔法。
これもまさしく神の如きモノを討てるものなのだろう。
さらに、なにかが繭を物理的に抉ってきた。
私は魔術といったそういう力を飲み込み、私の力として還元することはできるが、物理的な力は飲み込めないでダメージを受けるようだ。
だが、これは物理的に抉られただけだけではなく、抉られた部分とそこに在った力が私から失われたのを感じた。
そして、失われた分の力が抉った相手に取り込まれている?
いや、これは私が喰われているのだろうか?
物理的にも、霊的にも私が喰われている?
私は霊的な力を飲み込むことしかできないのに?
それが事実だと言うなら、これは困った。
相手は私の上位互換の力を持っているということになるじゃないか。
さて、もう考えている時間はないようだ。
繭はもう長くは保たない、周囲には飲み込めない力が在るどころか私を喰らうモノまで存在する。
繭の中からでもある程度は外の様子は把握できるが、実際に見た方が正確に把握はできるだろう。
だが、今顕現しても未完成のままで、そのままでは灼かれ、討たれ、喰われてしまうかもしれない。
どうするべきか…答えは出ている。
飲み込めない力はどうにもならない、ならば飲み込めるものを取り込み顕現するのみだ。
そう決断した私は私を包み込む霊的なもので作られている繭を飲み込んだ。
そして、それを外装として纏い、顕現を試みる。
まさしく、悪魔の如き外装をして、私は世界に顕現した。
❖
時間は少し遡る。
❖
覚醒もできていない私は神魔のところに行ってもなにもできない。
なら、エース級じゃない覚醒もできないメンバーはどうするべきか。
決まっている、神魔の元へ先輩達を向かわせて、そこに他の怪物を行かせないようにするんだ。
でも、私達じゃ足止めできない怪物もいるのが現実。
そのためにフレイリールが私達と残り、私達の指揮をしながら戦うことになる。
「私はどちらかというとそっちの方が向いてるからそれでいいのよ」
フレイリールはそう言うけど、私は自分の力不足が不甲斐なくなる。
「私も覚醒できれば…」
口に出してしまったけど、そう思ったのは私だけじゃなかった。
「そんなの私も同じだよ…」
「…俺もな」
エース級じゃない魔法少女やヒーローも悔しそうな顔で私の言葉に応えてくれた。
そんな中で先輩がすごく軽い口調で言いやがった。
「え、皆多分覚醒できるよ?」
皆が先輩にすごい目を向けたのは仕方ないことだ。
私もそうだったんだから。
「できないから言ってるんですけど!?」
私の反論に、よくぞ言ってくれた、というような顔をするのも仕方ないと思う。
私だって、他の人が言ったらそう思うから。
「ううん、もうできるよ」
そんな私の言葉に先輩は否定の言葉を優しく返した。
「ここにいる皆はもう十分な下地はできていたから」
言葉は続けられる。
「あとは背中を押してくれる勇気と自分で選択する覚悟、そして理不尽に立ち向かう今までの自分を越える意思が必要なだけ」
先輩の、18年もの間戦い続けている魔法少女アリシアがそう言ってくれる。
「大丈夫、勇気も覚悟も皆の中にもう在るんでしょう?」
家族にもらった勇気はここに在る。
勇気が私に選択する覚悟をくれた。
「なら、あとは皆の意思で今までの自分を越えるの、この追い詰められた状況こそが皆がこれまでの全部を出し切って、その先に辿り着くための力にもなるから」
これまでの積み重ねと、これまでの自分を越えるべき状況が在る。
「もう一度言うね、大丈夫だよ。私が、魔法少女アリシアが保証するよ」
そうして、魔法少女アリシアは更なる覚醒を遂げる。
これまでの強化フォームとは違う、新たな姿。
その光は私達を暖かく包み込んでくれる。
「だって、私も勇気をもらったから」
その暖かさが私達の中からなにかを引き出す切欠をくれる。
「うん、あとは皆が踏み出すだけ」
その言葉に導かれて、私の意思でそのなにかを引き出した。
「ほら、できた」
嬉しそうなその言葉に少し腹が立ったけど、覚醒して姿が変わって、溢れる力を認識したら、言い返せなかった。
周りを見ると皆これまでとは違う姿に、強化フォームになっていた。
先輩に言い返すことはできなかったけど、伝えておくべきことはあったからちゃんと伝えておこう。
「先輩…ありがとうございます」
「ううん、皆の意思が遂げたことだよ」
「こういうときは否定しないで、どういたしましてって言ってくれればいいんですよ!」
「えー、だって本当のことだし」
ホントに
「これでどうにかなりそうだな」
これまで聞いたことのない声が聞こえてきて、先輩やガンザック、フレイリールも警戒態勢を取る。
集中していたからか気づかなかった。
『ああ、戦力はとりあえずは整ったことになるな』
その中で
「あ、もしかして?」
『ああ、仲間の
あの焔の使い手ということなら、その呼び名にも納得せざるを得ない。
多分…あの焔の後は地獄のような光景だと思うから。
「編成は?」
『俺とアリシアとガンザックと君の4人で神魔を討つ』
「フレイリールはアイレス達を指揮しながら、こっちに怪物が来ないようにする形だね」
「そうか、わかった」
「フレイリールはともかく覚醒したばかりの皆は力の調整がまだできてないはずだから無理はせずだよ。強化フォームは消費魔力も増えるから、いつもより少し魔力消費を抑えて戦うように」
「わかりました」
「うん、わかったって言っても、強くなった力に振り回されてもおかしくないからフレイリールお願いね」
「ええ、わかってるわ、任せて」
覚醒できたからって先輩と一緒に神魔と戦うには力を使いこなせないってことなんだろう。
こればかりは慣れるまで時間はかかるし、この状態で行っても足手まといになるから仕方ないと思う。
簡単な打ち合わせが終えて、先輩達が先に進もうとした時に私は伝えたいことを伝えた。
「先輩、また後で」
私の言葉に先輩は嬉しそうに笑って返してくれた。
「うん、それじゃ、また後でね」
さあ、後は私のやるべきことをやるだけ。
また後であの人と笑い合うために、魔法少女アイレスは風と大気を司る魔力を解放した。
❖
アイレス達に託して、私達は先に進む。
タワーの最奥にある中央動力炉に神魔とその創造主の男はいた。
正確には神魔の繭があって、創造主の男はそれに向かってなにかしていた。
「来たのか…諦めの悪い連中だ」
「諦めたら世界が困ったことになるからね」
男の顔が憎々しげに歪む。
「ヒーローに魔法少女、貴様らだけなら予定通りに進められた。だが、突然現れた貴様らはなんだ?」
『お前の敵だ』
「そんなことは理解っている!どこのどういう連中だと聞いているんだ!」
「今からくたばるお前に言う必要はあるのか?」
「…!!」
「ま、お前さんがくたばるのは間違いないか、後ろの神魔はまだ覚醒めてないようだな」
「…っ!舐めるなよ!私だけでも貴様らに簡単にやられると思うな!」
ガンザックが
たしかに弱くはない、けれど強すぎはしない。
更なる覚醒を果たした私には男の力は通らないし、
「出番ないな…」
ガンザックがあっさりと男の魔術を躱しながら、そんなことを言うが、あの無詠唱魔術にそんなに簡単に対応してるのは流石だと思う。
「クソっ!なんなんだ、この力は!」
「…もう黙って、まとめて燃えろ」
その言葉通りに
その焔が繭を灼くが、それでもまだ繭は形を保っている。
でも、灼けてはいるから効果はあるみたいだ。
私も新たな力の魔法で繭へと攻撃を仕掛けてみる。
見た感じ、男の魔術は繭に吸収されてるみたいだけど、私の覚醒した魔法は繭にダメージを与えているようだ。
そこに更に
それが一番繭の形を抉れたので効果が高いみたいだ。
ちなみにガンザックもその拳で男を殴り飛ばし、繭も殴っていた。
ガンザックは単純な自己強化型のヒーローパワーの持ち主だ。
単純故に欠点も少なく、私同様長く活動して、覚醒して強化フォームになっているから、その力の研鑽具合は相当なものだ。
このまま行けばいけるはず、なんだけど、あまりにも上手く行き過ぎている。
これはこれまでの経験故の感覚で理屈じゃないんだとも思う。
世界を動かしかねない存在がこのくらいで終わるわけがないという経験則だ。
そう思っていると、繭に異様なことが起きていった。
ああ、やっぱり。
「…お目覚めか?」
『そのようだ』
二人の端的な会話を聞きながら、繭が中にいるはずの神魔と一体化していくような様子を注視する。
そうして、そこに顕現したのは悪魔そのものの姿をしたモノだった。
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