舞い降りる機械女神と立ち昇る焔

 共に行こう。


 アリシアにそう応え、握手をした。


 それから、神魔の元へと共に行くために進もうとした時に無道から通信が入った。



『秋ちゃん、そっちはどう?」


『問題ない、アリシア達と合流した、これから神魔討伐に向かう』


『オッケー、私達も今から降りるんだけど、空飛んでるのもいるからそっちは私に任せてくれればいいからね』


『分かった、頼む』



 そこで無道との通信が切って、アリシア達に現状を説明する。



『もうすぐこちらの仲間も降りてくる、空中にも怪物はいるようだが、そっちは任せてもいいそうだ』


「そうなんだ?空飛んでる怪物は少ないけど、こっちも人数足りなくて制空権は取られちゃってたから、取り返してもらえるなら救助チームの方も動きやすくなるね」



 空を飛んでいる怪物はアリシアが言うようにそこまで数は多くはないが、アリシア達よりは多い。


 ただ、今アリシア達と戦っていた怪物ほどの強さはないとのことだったから、無道なら対応できるだろう。


 そう思っていると機動兵器が空から降りてきた。



『来たな』



 俺がそう言うとアリシア達も空を見て、かなり驚いた顔をした。



「おい、あれってロボットか!?」


「え、あれなの?」


『ああ』



 そこに舞い降りてきたのはどことなく女性的なシルエットをした機動兵器だ。


 詳しいことはわからないが、魔法金属を使った装甲を使っているらしく、カルロスによるサポートもあっての情報収集と電子戦、陸海空とどんな場所でも戦闘可能な万能型人型機動兵器とのことだった。


 ただ、海中ではビームが減衰するため実体装備を使わざるを得ないためフルに性能を発揮できないとは聞いている。


 それに試作型でもあるため、まだ燃費が悪いのが今後の課題のようだ。


 その燃費の悪さを補うために海斗君達が乗っている車にエネルギーパックも積んでいるが、今回の戦いは実践での試験も兼ねているため無道も張り切っているようだ。


 いつも高いテンションがいつもより高めだったのがそれを表しているんだろう。


 ちなみに無道と機体のコードネームは機械女神ヴァルキュリアで統一されている。


 ビームビットとビームコーティングした実体剣を振るって空中を舞い踊るように戦い怪物を討っていくその姿はまさしく戦場を救う機械の女神と言ってもいいのかもしれない。


 本人に言えば調子に乗りすぎるから言わないようにと赤司とコルトから言われてはいるが。



「すご…」


『確かに凄いがあそこまで圧倒できるのは空中にいる怪物がそこまで強くないからだろう。さっきまでアリシア達が戦っていた相手ほどの力を持っていれば手こずるはずだ』


「手こずるだけなんだ?」


『一対一ならな、一体多になれば押されるだろうな』


「そっか」


『ああ、あっちは任せても良さそうだから、俺達も進むとしよう』


「うん、それじゃ皆行こうか!」



 アリシアの声に全員が頷き先へと足を進めていく。





 秋桜、じゃなくて、喰らうモノイーターの仲間が思ってた以上に凄かった。


 まさか空飛ぶ人型機動兵器で来るなんて思ってなかったよ。


 でも、そのおかげで空中の怪物のことを任せることができたのは良かった。


 もちろん、警戒は怠らないけど。


 救助チームとも連絡を取ってあの人型機動兵器が味方だってことを伝えて、連携を取っていくようにも伝えておいた。


 あの機動兵器に乗っている人が妙にフランクなようで、良い感じにやれてるみたい。



「他にも仲間っているんだよね?」


『ああ、怪物しかいないところに落とすと上司は言っていた』


「…大丈夫なの?」


『周りに味方がいない方が全力を出しても巻き込まなくて済むというタイプだ』


「そうなんだ?」


『ああ、それだけに強い。向こうは怪物を片付けながら神魔に向かう予定だ』


「巻き込まないで済むって言ってたけど、合流しても上手く合わせてやれるの?」


『問題ない、脳筋ではあるが科学者でもあるからな。相手と状況に合わせて戦闘スタイルは変えられるだけの実力は持っている』


「そっか、なら大丈夫だね」



 喰らうモノイーターとそんなやり取りをしていると神魔のいる街の中央のタワーの向こう側から焔が立ち昇った。


 とんでもない出力の焔だ。


 それと同時に破壊音も聞こえてくる。


 あれが喰らうモノイーターの仲間なんだろうか?


 街の住民はあっち側には、帰ってくる人がもういない家を思うと胸が痛くなる。



『派手にやっているようだ』


「あ、やっぱりあれなんだ?」


『ああ、向こう側の住民は


「…うん、手が届かなかったよ」


『ならば、まだ手が届く場所に手を伸ばすのみだ』


「うん、そうだね…行こう!」


『ああ』



 喰らうモノイーターやガンザック、フレイリール、そして後輩のアイレス達と先へと足を進めていく。


 どんなに胸が痛んでも、立ち止まることはできない。


 立ち止まって、うつむいて、落ち込んでも、取り零したものは返ってこない。


 この世界の理不尽は決して止まってはくれないのだから、私達も足を止めて、手を伸ばすことを止めるわけにはいかない。


 取り零したものはたくさんあるけど、まだ手が届くものがあって、それをなくさないための力も集まりつつある。


 奇跡を起こす。


 それは簡単なことじゃないけど、やろうとしなかったら可能性は0だから。


 勇気はもらった。


 愛も変わらずここに在る。


 理不尽に対する力も来てくれた。


 それに、これまではぼんやりとしていたものがはっきりと今ここに形を結びつつある。


 喰らうモノイーターと手を握り合って、私の中に灯った


 これはきっと奇跡を起こすための力になると思ってる。


 さあ、行こう、大丈夫だって思わせてくれる人が今隣にいるんだから!





 コルトの奴本当に機体から落としやがった。


 言われた通りハンガーデッキの所定の位置で待機していたら、


 いや、妙なシステムと技術を使っているから、ハンガーデッキの床が開く速度がとんでもなかったというだけなんだろう。


 


 確かに前もって落とすとは言っていたから着地のことも考えてはいたが、本当に落とすとは思ってはいなかった。


 しかも、妙な加速もついていたから射出用のカタパルトのような機能もついていたんだろう。


 着地に合わせて爆炎で落下ダメージを相殺したから問題はなかったが、それでもあいつはもう少しどうやって落とすとかの説明はするべきだと思う。


 いや、敵だけのところを狙うならコルトのタイミングでやった方が確実ではあるんだろうが…これは俺自身の気分の問題でもあるんだろう。


 着地の際に爆炎で周囲にいた怪物が吹き飛んでいる様子を見ると間違ってはいなかったんだというのわかってしまい、多少腹が立つ。


 ため息をついて、まだ周囲に蔓延っている怪物達に声をかける。



「これは八つ当たりも兼ねることになるが…お前達に悪いとは思わない」



 俺専用に創られたという片手で持てる剣型の武装。


 俺の焔にある程度の方向性を持たせることができる。


 その動力を起動する燃料も俺の焔だというのだから、まさしく俺のための武装ということになるんだろう。


 単純に焔を剣に纏わせるだけじゃなく、さっきのように焔を爆発させることや、焔を放出する媒介としても使うこともできる。


 まあ、単純に焔での攻撃や防御にバリエーションが増えて、使いやすくなったということになるんだろう。



「とりあえず…まとめて燃えつきろ」



 その言葉通りに現状の最大出力で周囲に焔を解き放つ。


 周囲に人がいないのはやる前にコルトが確認しているから建物ごと壊しても問題はない。


 問題がないわけではないんだろうが、今優先するべきことは神魔の討伐だ。


 帰るものがいない家ごと破壊することには思うところも出てくるが…


 焔で怪物を燃やしながら、焔を纏わせた剣を振るい、爆炎で残った怪物を消し飛ばしながら神魔がいるという街の中央のタワーへと向かう。


 あとに数多の灰を残し、立ち塞がろうとするすべてを地獄の如き焔で塵へと変えながら、赤司 涼斗は先へと進む。


 己が愛する者と大切に想う者達との世界を守るために。





「あっちも派手にやってるわねぇ」



 立ち昇る焔を見て、機動兵器を狩る無道 遊里は楽しげに言葉を紡ぐ。


 複数のビームビットを操りながら、己の機体を舞い踊るように動かして、その機体が持つ武装を振るう。


 そうする度に、怪物が少しずつ倒されていく。


 元々が人間だった怪物もたくさんいるのかもしれないけれど、そこに躊躇いは見えない。



「思うところはあるけど…私はもう手を取って、選んだの」



 私に自由をくれた異形の人、長い付き合いの頭のおかしい友人、可愛らしいその仲間達、そして理不尽でわかりにくいけど大切な、私が好きだと言ってくれた馬鹿。


 今の環境は私にとって、とても心地良いものだ。


 前まではこんな風に思えるなんて思ってもいなかった。


 あのまま腐っていって、理不尽の前に終わるのかと思ってた。


 あの馬鹿を実際に殴り飛ばして、私の未来を拓いてくれた新しい友達。


 元男だっていう、あの今は可愛い怪人な少女は間違いなく恩人だ。


 馬鹿との愛しい日々も秋ちゃんのおかげなんだと思う。


 律ちゃんに彩ちゃんに透真君に海斗君、あの子達にも今私が感じているような未来が来てくれると嬉しい。


 だから、私は



「だからってわけじゃないけど、秋ちゃんとその大切な人の未来も良いものになってほしいよね」



 そんなことを考えながら機械女神ヴァルキュリアは戦場を駆ける。


 やると決めたことをやるために、数多の怪物達を屠りながら。





 車を運転しながら、どうしても思ってしまう。



「涼斗さんもそうだけどさ…遊里さんもとんでもないよな」


「うん、私なんてシンシアのサポートがあってもあんなに制御できないよ」



 シンシアというのは俺達メインのサポートAIだ。


 カルロスが遊里さんメインのAIであるように、コルトさんが俺達用にと用意してくれた。



『マスター律、人それぞれできることは違うものです。マスター律はマスター律にできることをやるのが建設的です』


「うん、そうだね、今できることを、だよね」



 俺が運転、律がビット制御での情報収集と支援攻撃、透真が火力管制と武装による攻撃、彩が全体統括と他の皆のとの情報共有といった感じで一応の役割分担はしている。


 4人で役割分担するととりあえずこんな感じになっただけで、今後の伸びしろ次第で役割変更もいいんじゃない、というのがコルトさんの言葉だ。


 律がビット制御になったのは単純に俺達の中で一番思念コントロールが上手かったからだ。


 透真はやってるうちにバカみたいな狙撃の腕になってきた。


 彩は判断力がおかしいところがあるから、俺達の頭ってことになったんだろう。


 俺は…単純に一番早く車の免許が取れたから運転してるってことになる。



「いや、お前自分の運転技術がおかしいっていうのを自覚した方がいい」



 透真はそう言ってくれたが、なんとなくパッとしないので仕方ないと思ってほしい。


 正直秋さんの方が運転は上手いとは思うし。



「秋のは上手いというか丁寧なだけだよ」



 コルトさんもそんな風に言ってくれたが違いがわからない以上なんともだ。



「君がどう思うかは君次第だ、それでも君を頼りにしている」



 ただあの人が微笑んでそう言ってくれたから信じられてる。


 


 なら、俺はそれに応えたい。


 できることがどれだけあるかはわからないけど、


 多分、きっと、俺の中で変なフィルターがかかっているんだろうけど、微笑んで俺を頼りにしていると言ってくれたあの人の微笑みをまた見るために。


 なんていうのは、俺らしいのか、俺らしくないのか。



「ま、いいんじゃない?」


「え、なにか?」


「ところどころ声に出てたよ」


「え、嘘だろ?どのくらい?」


「あの人に応えたい、とか、俺らしいのか俺らしくないのか、とか」


「マジで?」


「マジだ」



 なんか微妙な部分が声に出てたようだ。



「仕方ないよ、私達だってそういう気持ちあるでしょ?」


「まあな…」


「うんうん、だからやろうって思えるんだよ」



 いつものように、なんとなく締まらない感じだけど、俺達はこれでいいのかもしれない。


 ちゃんと締めるのは終わってからでいいんだから。


 さあて、それじゃ気合入れていこうか!

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