怪人少女と魔法少女の新たな覚醒め
「魔法少女アリシアって長いこと活動してて、いろんな事件に関わってるっていうくらいにしか知らないんだけど、そんなに凄いことしてきたの?」
魔幻都市へ向かうときに律君がそんなことを聞いてきたので、俺の知っていることを軽く話すことにしてみた。
「そうだな、記録上でのことを簡単に纏めるとアリシアはこれまでに世界を6回は救っている」
「え?」
「グランベルス事変、ガデック星人の侵略、万魔夜行、龍脈断裂、黄泉平坂開閉、怪魔戦役、もちろんどれもアリシア一人で解決したわけではない。仲間やそのときに共闘した魔法少女やヒーロー、こちらに味方した宇宙人、陰陽師や霊術師といったそれぞれの事件に関連した術師達といった多くの人達と共に戦い、その結果世界を救ったんだ」
「あ、うん」
「公式に記録として残されている中で上げられるのは今の6つの出来事だが、これ以外にもそのまま規模が大きくなれば世界を傾けただろうと言われることにも関わってきている」
「そういうのも結構あるんだ?」
「ああ、そのときは小さな事件と思われていても、その後の流れ次第で世界を傾ける可能性があったものも少なくはない」
律君が頷くのを見て話を続ける。
「魔法少女の使う魔法というものは色んな出来事に対応することができる分頼られることも多い。ヒーローは物理的なものなら対応できる範囲は広いが、物理的に触れることが難しい霊的なものの相手は不向きだ。その逆に陰陽師や霊術師といった術師は妖怪や悪霊のような物理的に対応が難しい相手には力を発揮できるし、鍛えてはいるんだろうが、その鍛えた分だけでは対応できないほどの物理的な相手には向いていない」
「その言い方だと魔法少女の魔法は物理的なことにも霊的なことにも対応できるから世界的に色んなことで頼られてるってことだよね?」
「ああ、まだ少女という年齢の時に力を得た彼女達には酷なことだな。それでも18年ずっと戦い続けてきたのが魔法少女アリシアだ。現役の魔法少女の中では最年長になる」
「たしか10歳のときに魔法少女になってからだし…今28歳になるんだよね。衣装は昔と比べると変わってるけど、見た目は変わらないよね」
「魔法少女に変身するとそうなるようだ。あと本人曰く、魔法少女になってからは歳を取りにくくなって、変身していなくても見た目は10代後半くらいに見えるそうだ」
そうなんだ、と返す律君に頷いてから、今皆で乗っている戦闘もできる輸送艦を操縦しているコルトに現在位置を確認しておく。
「魔幻都市まではもうすぐだよ、説明を止めるにはいいタイミングだったね」
カルロスのサポートもあるとはいえ、これだけの機体を難なく動かしているコルトは流石というべきなんだろう。
「そうか、ならそろそろ出れるようにしておく」
「うん、作戦目標は単純に神魔を討つこと。秋は翼で飛べるし、上空まで行ったらそのまま降りて、街中で戦闘してるはずのヒーローや魔法少女と合流して共闘できるように交渉だね」
「ああ」
「涼斗は味方がいない敵ばかりのところに落とすから全部燃やして数を減らしてから神魔の方向に向かえばいいよ」
「わかった」
「遊里はエース級以外のヒーローや魔法少女達が街の残っている人達を守ったりしてるはずだし、海斗君の運転する車とそれに乗った彩君、律君、透真君と情報共有しつつ、秋と涼斗にも報連相ね」
「オッケー、任せて」
「わかりました」
「わかった」
「はい」
「任せてくれ、って言いたいとこだけど、不安はあるよなぁ」
海斗君が不安を口にすると律君達も表情を少し暗くした。
「不安はあって当然だ。それでもやると決めてここに来た以上、あとはやるべきことをできる限りやればそれでいい」
赤司が不安を払拭するための意味も込めてか、そう口にする。
「ああ、いつでも俺達は俺達のやるべきことをやり抜くだけだ」
俺もその言葉に同意し、艦から降りる準備かかる。
「秋、もういけるかい?」
「問題ない」
「そっか、それじゃハッチ開けるから、ハンガーの方に向かって」
「ああ」
コルトにそう言われて無道の機体や海斗君が運転する車があるハンガーデッキへと足を向ける。
「あ、そうだ秋」
「どうした?」
珍しくコルトが用件を伝えた後に更に声をかけてきたことに疑問を覚えつつ、続きを促す。
「気をつけて、いってらっしゃい」
コルトのその言葉に少し呆気に取られつつも笑みを浮かべ言葉を返す。
「ああ、いってくる」
そして、いつものように変身ツールを起動する。
―――――
ツールからいつもの音声が紡がれる。
その
俺のやるべきことをやり抜くために。
ただ、いつもと少し違うことがあるとするなら。
かつて、俺と母を守ってくれたときに涙を流しながら戦っていた彼女への想い。
魔法少女アリシア。
今度は、俺が君を守ろう。
―――――
その
ガスマスクを付けた異形の右腕を持つ黒纏う怪人。
君が俺を見たらどう思うだろう。
そんな不安も僅かにある。
それでも、俺はそこに行く。
俺が俺のやると決めたことをやり抜くために。
❖
奇跡を起こしにいこう。
皆にそう言ってから、神魔を討つためにチームを分けて作戦を開始した。
チームは2つ、街にいる怪物の数を減らして、被害を減らす救助チームと、神魔を討伐するチーム。
救助チームにはエース級ひとりと神魔と戦うには力不足のヒーローと魔法少女達の半分、残りのエース級とメンバーは討伐チームだ。
言葉にすると単純だけど、実際にやるとなると難しい。
神魔を討つためにエース級のメンバー全員で向かえば、街に蔓延る怪物達の中で上位の相手が出た時に力不足で対処しきれず、戦力が減る可能性が大きくなる。
そこから他のメンバーにかかる負担が増えれば、そのまま一人、また一人と力尽きていくことになる。
その前に神魔を討てばいい、と言うだけの話なのかもしれないけれど、相手は神魔と呼ばれるにふさわしい力を持つ存在である以上、そんな簡単にはいかない。
だから、エース級のヒーローを一人だけだけど街の被害を減らす方に向かってもらうことになる。
幸い、単独戦闘より指揮戦闘の方が向いているヒーローがいたから、役割分担できてよかったのかもしれない。
討伐チームの方も神魔と戦うには力が足りなくても、そこに辿り着くまでにいる怪物達と戦って道を拓くための人材は必要だった。
エース級が3人とはいえ、その保有する力は無限じゃないから、少しでも神魔との戦いに向けて節約はしておいた方がいいところはある。
人手が足りないのは間違いないのだけれど、ないものはないので後はやるべきことをやるために進むだけ。
皆もそうみたいだけど、もらった勇気が力を湧き上がらせてくれる。
いつもより魔法の威力も上がってるし、体も軽い。
気の持ちようなのかもしれないけど、神魔に向けて街中を進む速度は速くなっている、気がする。
けれど、その進撃を阻むだけの力を持つ上位の怪物が立ち塞がる。
「簡単にはいかないとは思ってたけど、ホント厄介だね!」
「言っても仕方ないだろうよ、あとはやるだけだろ?」
戦いながら、私の言葉にガンザックが律儀に答えてくれる。
「そうなんだけどね!」
まさしく中ボスって言っていいような全長3メートルくらいの巨体をしてるわりには、妙に動きも速くて、その上硬い。
「止めるから、その瞬間を狙って」
フレイリールがそう言ったと同時にその怪物の動きが封じられる。
フレイリールの魔法でできた炎の茨だ。
あの巨体とパワーならすぐに引きちぎられるけど、そうされる前に火力で頭を撃ち抜く。
「流石ね」
フレイリールはそう言ってくれたけど、これで倒せたわけじゃなかった。
一瞬の油断が命取りになることはわかっているから、残心は忘れない。
頭は撃ち抜いたことで動きが鈍くなってるのは間違いないけど、まだ動いている。
見たところさっきまでみたいに見て、考えて対応するということはないみたいだから、あとは残った体がただ暴れるだけ、という状態なんだろうけど、あの硬さとパワーはそれだけでも厄介だ。
それなりの魔法かヒーローパワーで攻撃すればいいんだろうけど、と、考えていたら、上空からなにか来る気配を感じた。
――――――ズドンッ!――――――
上空から気配を感じてすぐになにかを叩きつけるような音がする。
それと同時にまだ動いていた怪物が叩き潰されていて、そこには異形の右腕と翼を持った黒い怪人がいた。
状況を整理すると、空を飛んできた怪人が怪物を殴り潰したということになるんだろう。
殴り潰されてさっきより小さくなった怪物がそれでもまだ動こうとしていたのを見て、その怪人は右腕を肥大化させて怪物を握りしめる。
――――――グシャッ――――――
そんな音と共に怪物は握り潰される。
いや、違う、あれは…。
――――――グチャッ、グチャッ――――――
咀嚼する音だ。
つまり、あの怪人は怪物を喰らっているんだと理解した。
「ヒッ!」
「次から次へと…」
気持ち悪い咀嚼音に怯える子もいれば、新たにやってきた面倒事に舌打ちするヒーローもいる。
喰らい終わったのか、咀嚼音が消えてから怪人が私達の方を見る。
ガスマスクらしきものを付けたその顔からは表情はわからない。
この状況から見て警戒はするべきなんだろう、とは思う。
けれど、なんとなく、どこか困っているようにも見えてしまうその様子のせいか警戒心が湧いてこない。
『…一応確認するが、魔法少女アリシアだな?』
どちらも少しの間沈黙していたけれど、怪人がかけてきた言葉を聞いて、直感的に理解った気がした。
いや、これは私の都合の良い解釈でしかないんだろうとは思うけれど、それでもそうなんだろうと思ってしまう。
「うん、あなたは秋桜?」
『ああ、ただそれはハンドルネームで、この姿でのコードネームは
「そっか、本当に来てくれたんだ?」
『ああ、仕事でもあるからな、そう言ったろう?』
「うん、来てほしくなかった気持ちもあったけど…」
『こればかりは仕方ない、仕事だからな』
「それだけなの?」
『仕事というのは間違いない。それでも君がいることで気分が上がっているのも間違いない』
その言葉に少し頬が赤くなってしまう。
皆はこのやり取りに呆気に取られて、置いてけぼりになってるけど、そこは流れを待ってもらおう。
だから、今は精一杯の笑顔で秋桜に、
「うん、来てくれてありがとう」
『そう言ってくれるなら俺も嬉しく思う』
「今も助かったのは本当だよ」
『そうか、なら良かった』
「うん」
間違いない本音だ。
あの怪物を消耗無く片付けられたのだから。
『アリシア、皆との約束もあるが、それだけじゃない』
「うん?」
『かつて、君は涙を流して戦いに恐怖しながらも俺と母を守ってくれた』
「…うん」
『だから今度は俺が君の力になろう』
「うん」
『俺が君を守る』
「うん…うん?」
話の流れと逢えた嬉しさについなにも考えずに肯定してしまった後、その言葉を再解釈する。
言葉の内容を理解すると顔が赤くなっていくのが自分でも理解ってしまう。
秋桜だから、そこまでの意味はないんだとは思う。
けれども、好意を持っている相手に守ると言われて嬉しくならない乙女はいないと思う。
その言葉が私の心に新たな熱と光を灯していく。
でも、私は魔法少女アリシアとして、その言葉をただ受け入れるわけにはいかない。
この世界は私を守られるだけの乙女ではいさせてくれないのもまた現実なんだから。
だから、私は顔を赤くしながら
「守るだけでも、守られるだけでもなくて、一緒に、だよ」
私の言葉に
『ああ、そうだな、共に行こう』
その応えがまたプロポーズみたいだって思えてしまって、更に赤くなってしまったのは仕方がないことだと思うんだ。
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