後輩魔法少女と先輩魔法少女

 魔法少女アリシア、先輩魔法少女の中でもエース級と言われる実力のあるベテランで魔法少女協会だけじゃなくて、ヒーロー連盟や防衛軍といった他の組織からも一目置かれている魔法少女。


 もう18年も魔法少女として活動していて、一般的にも知らない人はいないって言えるくらいの知名度も持っている。


 先輩を知らない人がいるとしたら、よほど世間に興味のない世捨て人とかくらいなじゃないだろうか。


 18年も魔法をやっていれば、魔法少女(笑)みたいな感じで先輩のことを言う輩も出てくるし、無理すんな(笑)、といったようなバカにするようなこともSNSで流す輩も出ている。


 正直私もそうだったから、そんな人達に対してなにか言うことはできない。


 


 配信者とかアイドルみたいな活動をしている魔法少女に憧れていた当時の自分を殴り飛ばしてやりたいと心から思う。


 配信者とかアイドルみたいなことをしている魔法少女達は見た目には華やかで色んな人に支持されていて、きっと承認欲求を満たされたかった私には眩く見えたんだと思う。


 


 配信者やアイドルみたいな魔法少女達も努力はしているのは理解っているし、ああやって人の心を癒やしている部分もあるんだってことも今は理解っている。


 人それぞれの適材適所で、やれる人がやれることをやっている、ただそれだけのことでもあるんだろう。


 …もちろんチヤホヤされたいっていう気持ちもあるんだろうけれど。


 人には承認欲求っていうのがあるんだから、もちろん私にもだ。


 実際、私も配信はやっていて、それなりに人気は出ていて、魔法少女人気ランキングだと20位以内に入るくらいだ。


 そういうのをなにもやっていないのに50位に入っている先輩が正直おかしいとも思ってはいたけど、先輩の人となりを知って、これまでの実績と積み重ねがあって、それを今も積み重ね続けているからだっていうのは今なら理解る。


 昔からのファン、先輩に、魔法少女アリシアに救われた人達がたくさんいるんだってことが。


 その人達にとって先輩がどれだけ救いになっているのかってこともよく理解る。


 私も魔法少女アリシアに救われたことがあるのだから。


 駆け出しの魔法少女にありがちの自分を過信して、ピンチに陥るっていうどこにでもありそうな、そんな出来事。


 命がけの戦いがどれだけ怖いことなのか、勝てそうにない相手に立ち向かうことがどれだけ絶望的なことなのか、それでも戦い、成し遂げてきたのを私は見てきた。


 そんな先輩を敬愛しない理由なんて私には作れない。


 10歳のときに魔法少女になって、それから4年の年月の中で何度も先輩と一緒に戦うことがあった。


 私自身に魔法少女としての素質があって、実力が新人にしてはそれなりにあったから、というのもあるんだと思っている。


 だから、エース級の魔法少女である先輩と一緒に戦うことが認められた…いや、先輩と一緒に行動することで私自身の驕りを早いうちになんとかしたかったっていう、魔法少女協会の思惑もあったんだろう。


 それは正直上手くいったんだと思う。


 人から生意気と言われる性格は変えられなかったけど、先輩や他の人の納得のできる意見は聞きいれることはできるようになったから。


 でも、これまでのことや先輩の戦いを見てきて、私は思い違いをしていたんだってことを理解っていなかった。


 これまでも先輩は世界を救ってきたんだから、これからも大丈夫だって


 ヘルイムシティ、通称魔幻都市と呼ばれるこの都市に派遣されて、そのことを思い知らされてしまった。


 どんなことが起きても先輩がいるし大丈夫、


 先輩だけじゃなく、他のエース級の魔法少女もいて、ヒーロー連盟からもエース級のヒーローが派遣されていた。


 総勢で20人以上もいたし、みんな将来エースになるだろうっていうくらいの実力を持っている人達ばかりだった。


 それだけの実力と実績を持っているメンバーが揃ってて、先輩もいるんだからどれだけ規模が大きくても大丈夫だって思い込んでいた。


 最初はそんなに苦戦することもなくて、皆余裕もあって、私以外の人達もそんな気持ちだったんだと思う。


 先輩や先輩に近い実力と実績を持っているヒーロー達以外は。


 すぐに解決できるって思っていたのに、次から次へと色んな勢力が参戦してきて、いつの間にか街中が敵だらけになっていた。


 その上悪魔の薬が蔓延してきたのか、色んな勢力の人達が怪物になって、争いが加速していった。


 そうして、それは起こってしまった。


 


 死にはしなかったけれど、戦うことは見るからにできない重症だった。


 幸いっていうべきかはわからないけれど、いち早く反応した先輩が強化フォームになって倒してくれたけれど、それが皆の心に影を落としたんだと思う。


 一度そのクラスの怪物が現れた影響なのか、悪魔の薬で生まれる怪物の中には先輩達エース級が強化フォームにならないと倒せないほどの相手が現れはじめた。


 そんな相手に、エース級の実力を持たないメンバーがやられていく。


 先輩達エース級のおかげで死ぬ人はでなかったけど、先輩達にかかる負担も大きくなっていく。


 怪物にも強さに差があって、私達でもどうにかできる相手は私達だけでなんとかしてはいるけど、それでも強い怪物が現れる頻度が上がっていくという現実がそこにあった。


 援軍を呼ぼうとしても、世界中でテロや怪物や魔獣の出現が同時多発して、ここに回せるだけの戦力がないということも追い打ちをかけた。


 この街で戦う中で得た情報、神の如き力を持つ悪魔を人の手で生み出す、それが間近に迫っているのに私達にはそれを阻止する力がないことを思い知らされる日々が過ぎていく。


 そんな中で皆をまとめていた先輩が話があるって皆を集めた。


 先輩ならどうにかしてくれる、そんな想いは私の勝手な思い込みだって思い知らされる。



「皆も理解ってると思うけど、世界中で問題が起きてて援軍は来れない。私達だけでやるしかないんだけど、私達だけじゃ力が足りないっていうのも理解ってると思う」



 先輩の口からそんな言葉が紡がれる。


 戦っても勝てないっていうなら、どうすればいいの?


 戦えば死ぬ、先輩が言ってるのはそういうことだ。


 


 涙を流している子もいるし、振るえている人もいる。



「だからさ、この街から逃げるっていう選択肢もありだと思うんだ」



 困ったような顔をしながら先輩はそう続けた。



「ここで逃げれば世界中に新しく怪物の種類が増えるけど、戦って負けても結果は同じだしね」



 そう言われるとそうなんだけど、私達が逃げることで犠牲が増えるのも間違いないはずだ。



「うん、この街に残っている人達は怪物になって、世界を脅かす災厄になるね」



 それが理解っているのに…。



「ここで逃げれば失われるものはたくさんあるよ…でもね、皆の命も未来も大切なものなんだよ」



 先輩の言葉は続く。



「今は勝てなくても、これから先の未来で強くなって、なにか手段が見つかればそのときは勝てるかもしれない」



 今、力が足りない私にはなにも言い返すことができない。



「もちろん、今生きている人達を助けるために戦うっていうのもありだけど、現実問題として全滅は濃厚だよね」



 私達が逃げるという選択肢を少しでも取りやすいように現実を突きつけているんだろう。


 


 現実を突きつけられて、正直自分でも悲痛な顔をしているんだろうなっていうのはわかるけど、それでも私は聞かなければならない。


 




?」




 その問いに先輩は困ったような顔をして、予想通りの答えを返した。



「私は残って戦うよ」



 迷うこともなく、そう答えてくる先輩に腹が立つ。


 それを見ていたエース級のヒーローと魔法少女が「まあ、そうだよね」って感じでため息をつきながら頷いているのを見て、更に腹が立つ。



「逃げるのもありだって言ったのは先輩なのに!?」


「うん、だって皆の命と未来も大切だし」


「私にとっては!先輩の命と未来も大切なんです!」


「うん、知ってる」



 困ったように笑いながらあっさりそう答える先輩にますます腹が立つ。



「なら!なんで先輩は逃げないんですか!?」


「だって、全滅は濃厚だけど、戦って勝てる可能性も0ってわけじゃないし?」


「0じゃないってことは勝てる見込みはあるってことですよね!?」


「あー、うん、奇跡を起こせれば勝てるんじゃないかな?」


「は!?」


「まあ、でも奇跡なんてそう簡単に起こせるわけじゃないし?」


「先輩なに言ってるか自分で理解ってます!?」


「でもさ、やろうとしなかったら可能性は0のままなんだよ」


「…!それは、そうですけど!!」



 そんなこと言われて逃げる選択肢を選べるヒーローや魔法少女がいるわけがないってこの人は理解っていないんだろうか?


 いや、私もそう言われるって理解っていて聞いたから、そこに関してはなにも言うべきじゃないんだろうけど!



「そんなこと言われたら!逃げるなんてできるわけないじゃないですか!」


「え、逃げてもいいんだよ?実際このままだと、ほぼ100%全滅だし」



 性質悪たちわりぃ!!



「その辺にしとけって」



 エース級ヒーローのひとりガンザックが私達を止めてくれた。



「いつまでもやってても終わらないし、話を進めたほうが建設的よ」



 続けて、エース級の魔法少女のひとりであるフレイリールが話を進めるよう促してくる。



「あ、うん、戦うにしても、逃げるにしても、考える時間は必要だよね。でもそんなに時間もないし、30分後にまた集まって答えを聞かせて。その間に家族とか大切な人に連絡を取って意見を聞いてもいいよ。大切な人の顔を見たり、声を聞いたり、言葉を聞くことは決断する時に背中を押してくれるから…決めるのは自分自身以外にはありえないんだけどね」



 少しだけ沈んだ顔をしながら、それじゃ、一旦解散、と言うだけ言って先輩はデバイス片手に自分の部屋に戻っていった。



「アリシアの言う通り、今のうちに遺言伝えておかないとな」


「そうね、家族に泣かれたら後ろ髪引かれて逃げるかもしれないけど」



 ガンザックとフレイリールもそう言って自分達の部屋へと戻っていく。


 他の皆もそれぞれ部屋へと戻っていくのを見て、私も部屋へと一旦戻る。


 私には家族以外に大切な人って言える人はいなかったから、家族に連絡を取って、少し話をした。


 帰ってきてって泣かれたけど、可能性は0じゃないからごめんなさいって私も泣いちゃったけど。


 そして、見送ってほしかったから、涙を拭ってこう伝えたんだ。



「いってきます」



 その言葉にお父さんもお母さんも泣きながら言ってくれた。



『『いってらっしゃい』』



 妹は言ってくれずに泣いていたけど。


 それでも、勇気はちゃんとここにもらえたから、私は…魔法少女アイレスは戦うことを選択する。





「それじゃ、奇跡を起こしにいこっか!」



 一旦解散してからきっちり30分後に晴れ晴れとした顔でそう言い放った先輩にまた腹が立った。


 あれだけ言っておいて、なにそんな晴れ晴れとした顔でそんなこと言ってるの?


 見てよ、皆呆気に取られた顔してるじゃん。


 まだ誰も戦いに行くって言ってないよ?


 いや、ここに来た時の皆の顔を見て、逃げる選択をした人なんて誰もいないってわかったけどさ?


 それでも開口一番それはないんじゃない?


 この30分で先輩になにがあったかなんて知らないけどさ?


 なんで、そんな乙女みたいな顔して、妙なテンションになってるわけ?



「え、先輩テンションおかしくないですか?」



 そう聞いてしまった私は間違ってないはずだ。


 ガンザックやフレイリールだけじゃなく、他の皆も頷いているし、きっと間違ってない。


 むしろ、よく言ってくれたグッジョブみたいな感じでサムズアップしてくれてる人もいる。



「え、おかしくなんてないよ?大切な人から勇気をもらっただけだからさ?」



 乙女な顔してなに言ってんだ。


 いや、18年戦い続けてるから乙女なのは間違いないのか?


 え、まさかのそういうことなのだろうか。



「皆もそうじゃないの?」



 また少しだけ困ったような顔になっていたが、それでも笑っているのを見て、こっちまで笑いたくなってくる。



「いえ、勇気をもらってきましたよ」



 私がそう答えると、他の皆も苦笑しながら頷いてしまったのは仕方がないんだと思う。


 相手が誰かは知らないし、簡単に認めるつもりはないけれど、この状況で


 魔法少女の力の源は魔法少女の心そのもの、ならば今このときに可能性は大きく上がったのだとここにいる誰もが知った。


 たとえこの世界が理不尽に満ちているのだとしても、古今東西、

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