魔法少女とファンクラブ会員達

 後輩達に現実を伝えた後、自分のデバイスから自分のホームページにアクセスしてプレミアム会員限定のチャットルームにログインしてみた。


 年間いくらかの会費を払ってまで私のファンクラブのプレミアム会員になる人なんているのかと思っていたけれど、意外といたのに驚いたことを思い出して、少し笑ってしまう。


 人数制限はあるし、会員としてのこれまでのマナーや他のSNSの動向もチェックした上で認められるものだから、人気のある魔法少女は抽選になったりすることもあったようだ。


 私のプレミアム会員も抽選になるほどの人数にはならなかったけれど、それでもそこまでして私を応援してくれる人達がいるというのは嬉しいことだったし、この世界で戦い続けていることに思い悩み続けている私が魔法少女で在り続けられるひとつの理由だったのも間違いないんだとも思っている。


 プレミアム会員の人数は人数制限内でそのときの所属会員数が増減するときもあるけれど、私のプレミアム会員はなぜか減ることはなく、少しずつ増えて現在では人数制限分の人数が埋まっている。


 そこにいてくれる彼や彼女達とのルームチャットは楽しいものだった。


 厳しいことを言うときもあれば、ふとした時に背中を押してくれるときもあり、プレミアム会員内での仲も悪くはないどころか良好だと思えている。


 中にはプレミアム会員同士で結婚したという人達もいるとのことだった。


 こういう繋がりで誰かの幸せが生まれたというのは嬉しいことだし、その幸せを護りたいと思わせてもくれた。


 ただ私も人間だから、その人達の中でどうしても仲良くなりたいと思う人もいてしまう。


 ファンだと言ってくれる人達には公平であるべきだとは思うけれど、こればかりは他のプレミアム会員からも公認でその人のことが好き、もしくは懐いてるみたいに言われてしまう。


 チャットでの会話は端的だけど、気遣ってくれているのはわかるし、なにより


 いつだってその人は、そんな風に言ってくれた。


 私に命を救われたことがある人らしくて、、そう言ってくれた。


 それを見た時に泣いてしまったのを覚えている。


 ここしばらくは忙しいというかやることがあるらしくて、あまりチャットできていないけれど、だいぶ前の話だと異能を手にしたから鍛えているとのことだった。


 見た目怪人だから、もしかしたら私と敵対することもあるかもしれないとも言っていたが、冗談を言う人なのか微妙にわからなくて悩んだときに、他のプレミアム会員の人からその人が私と敵対することはあっても敵になることはないって断言してくれてホッとしたのも覚えている。


 …これが最後になるかもしれない。


 いや、後輩達に現実を伝えたように、奇跡でも起こさないとこれが最後になるんだろうって自分でも理解っている。


 そして、奇跡はそう簡単に起こせるものじゃない。


 けれど、やろうとしなければ可能性は0のままだから。


 そう思っても、死ぬのは怖い…楽しかったと、幸せだったと思える時間は確かに在ったから、生きてて良かったって思えたこの人生をまだ失いたくない。


 でも、それ以上にこんな私を支えてくれた人達がいなくなる方が怖いから…ううん、その人達に置いていかれるのが怖いから、私は行くんだろう。


 だから、そこに行くための勇気がほしい。


 そんな願いと祈りを込めて、私はチャットルームで発言した。





『誰かいるかな?』【アリシア】



『ああ、いる』【秋桜】



『また負けた!張り付いてたのに!』【親衛隊隊長】



『しょうがないよ、隊長って言っても自称なんだしさ?』【サイバー博士】



『自称で悪いか!俺はアリシアのファンクラブ会員No.1なんだぞ!』【親衛隊隊長】



『悪くはない、そういうマウント取ろうとするところがなければ』【傭兵和尚】



『仕方ないだろ!俺が他に自慢できることがないんだから!』【親衛隊隊長】



『そうでもないだろう、君がどれだけアリシアを想っているかは俺達はよく知っている。そして、ここにいるみんなそれぞれアリシアのファンだということも君が理解っているのも知っている』【秋桜】



『いや、そうだけど!俺はお前のそういうところが苦手だけど好きなんだよ!なんでそんなファンの鑑みたいなやつなんだ!』【親衛隊隊長】



『まあ、秋桜だしね』【ポリスボーイ】



『それでアリシアから発言したということはなにか言いたいことか聞きたいことがあったんだろう?』【秋桜】



『あ、そうだった。なにがあったの?』【ポリスボーイ】



『話の振り方ももう…こういうタイミングでアリシアからというとよほどのことなんだろうけど』【親衛隊隊長】



『あ、うん、みんないつも通りでちょっと笑っちゃった』【アリシア】



『そうか、チャット上ではそうだろうが、割と色々世界中で起きてるからな。忙しい場合は無理せずそっちを見ておくべきだろう…が、だからこそこっちが気になるんだろうな』【秋桜】



『あー、やっぱり皆大変そうなのかな?』【サイバー博士】



『世界中で同時多発してるようだしな。ネットで情報収集してるけど、これ結構っていうかマジでヤバイじゃないかな』【親衛隊隊長】



『市民を避難誘導してシェルターで警備についてるけど、規模自体はそこまででもないかな?』【ポリスボーイ】



『本命に行かせないためだろうな。どこが本命かはわからんが、各地のヒーロー達も担当地区から動けん。規模自体はそこまでじゃないというより時間稼ぎのように見える』【傭兵和尚】



『そっか、皆も大変なんだね…こんなときにごめん』【アリシア】



『謝らなくていい、理解ってて発言したということは本命にいるというのは事実ということだな』【秋桜】



『あー、そっか、そういうことか』【ミッドワン】



『え、マジで?大丈夫なの?』【親衛隊隊長】



『大丈夫じゃないから発言したんだろ』【ポリスボーイ】



『そんな、やだよ』【バットさん】



『普段発言しないのも続々来たな、まあ仕方ないんだろうが』【サイバー博士】



『正直信じたくないのは同じだしな』【傭兵和尚】



『秋桜はどこまで知ってんの?』【ミッドワン】



『上司から聞いた現状でしかないが、このままだと世界が悪い方向に傾くこととアリシアが本命にいること、世界中で起きてる同時多発してることのおかげで本命に回せる戦力がないこと、本命にいる戦力だけでは現状打破は難しいというよりは無理があるということ、くらいだな』【秋桜】



『秋桜の上司ってなんなの?そこまで把握してるなんて』【アリシア】



『とある秘密結社のボスだ、としか説明できないな』【秋桜】



『それが本当だとしたらこのままだとどうなるの?』【バットさん】



『このまま事が進めば世界に出現する魔物か怪物の種類が増える』【秋桜】



『だからアリシアがそこにいるってことか』【傭兵和尚】



『うん、私だけじゃないけどね。このままだと全滅濃厚だから他のヒーローや後輩には撤退もありだって現実は伝えたけど』



『アリシアはどうするの?』【バットさん】



『私はそういうわけにはいかないかな』【アリシア】



『逃げてよ!』【バットさん】



『そうすることで後がどうなるかは理解るし、もしも倒せたらっていう可能性もあるから』【アリシア】



『そうだけど、そうだけど!』【バットさん】



『バット、アリシアはそういうやつだって理解ってるだろ、だから俺達はここにいるんだよ』【ミッドワン】



『それで他のヒーローや後輩の魔法少女というのは撤退したのか?』【秋桜】



『ううん、皆残ってるよ。バットさんが言うように逃げてもいいって伝えたんだけど、私が逃げないことを伝えるとそんなの卑怯だって言って泣きながら怒られちゃった』【アリシア】



『そうか、ならまだ五分五分でいけるか』【秋桜】



『ん、秋桜なにか案でもあんの?』【サイバー博士】



『いや、案というわけじゃない。単純に上司の指示もあって本命の場所に仲間と向かうことになってるだけだ。上司曰く現地のヒーローや魔法少女達と共闘すれば五分五分ってところじゃないか、とのことだ』【秋桜】



『え、秋桜アリシアに逢いに行くの?』【親衛隊隊長】



『アリシアがいなくても行くことになっただろうが、アリシアがいると聞いてモチベーションが上がっているのは間違いない』【秋桜】



『え、ちょっと、ダメだよ!』【アリシア】



『仕事でもあるからな、ちょうどよかったと思えば良い。行くのはもう確定している、というよりはもう向かっている』【秋桜】



『あー、いいなー、推しに逢えるなら俺も行きたい』【ポリスボーイ】



『直接逢うのはマナー違反になるかもしれないが緊急事態というのもある、許してくれ』【秋桜】



『しょうがないか、こればっかりは』【傭兵和尚】



『でも行くなら絶対助けろよ!』【親衛隊隊長】



『お願いだよ!』【バットさん】



『俺が行ってもなにもできないしなぁ』【ミッドワン】



『現地に行ってもできることはないかもしれないが、今できることをできるだけやればいい。何ができるかは自分自身がよくわかっているだろう』【秋桜】



『ま、そうだな。自称サイバー博士の実力見せてやろうじゃないか』【サイバー博士】



『あー、なら博士の手伝いくらいはできるかな?』【ミッドワン】



『お前確か結構なコンピューター技術持ってるんだったな、なら繋ぐから手伝え』【サイバー博士】



『オッケー』【ミッドワン】



『私は避難して祈ってるくらいしかできないよ…』【バットさん】



『確かシスターだった?なら避難した人達を落ち着けたりとかでいいんじゃない?この状況でできる余裕がある方が少ないだろうし』【親衛隊隊長】



『さすが隊長だな、こういう状況でも人のことを気遣えるのは尊敬に値する』【秋桜】



『お前、そういうところが苦手なんだよ…』【親衛隊隊長】



『俺は一般警官だしなぁ、やれることがはっきりしてるのは良かった、かな』【ポリスボーイ】



『俺は雇われ傭兵として仕事中だ。本命が理解っても目の前のことは放り出せん』【傭兵和尚】



『秋桜、本当に来るの?』【アリシア】



『ああ、今日中には着く』【秋桜】



『そっか、逢えるかもしれないことは嬉しいけど、来てほしくないって気持ちも凄いよ』【アリシア】



『アリシアは秋桜のこと大好きだしな』【サイバー博士】



『皆のことは好きだよ、秋桜はその中でも好感度高いのは確かだけど』【アリシア】



『はー、惚気けてくれて、わかるけど、わかるけど!』【親衛隊隊長】



『悔しい…すっごい悔しい!!』【バットさん】



『私も人間だし、どうしてもね?』【アリシア】



『アリシアのそういうところも好きだよ』【ミッドワン】



『ああ、正直で良いことだ』【傭兵和尚】



『それじゃ、俺はやることやってくるから、このあたりでな。ミッドワンも繋いだからすぐ手伝えよ。それじゃ、またな』【サイバー博士】



『オッケー、それじゃ俺も行くよ、またなー』【ミッドワン】



『俺もそろそろ行くとする、ではまたな』【傭兵和尚】



『俺も仕事中だしな、それじゃまたな、おつかれさん』【ポリスボーイ】



『うー、私も行くよ…アリシア、無理しないでね!秋桜行くならアリシアお願いよ!』【バットさん】



『俺は残ってるから何かあったら言ってくれよ、伝言くらいはするからな』【親衛隊隊長】



『ああ、俺もそろそろ準備の確認に行く、また後で』【秋桜】



『おう、頼むんだぞ』【親衛隊隊長】



『あ、ちょっ、皆…ありがとう』【アリシア】



『推しのためならなんのそのってことだよ、アリシアももう行くんだろ?じゃ、また後で、か、また明日な』【親衛隊隊長】



『うん、皆、またね!』【アリシア】





 チャットルームからログアウトしてため息をついてしまう。


 それでも笑ってしまっているのは仕方ないんだと思う。


 皆ほとんどいつも通りだった。


 終わることのない戦いに心折れそうになってて、これで終わるかもって少し思ってたりもしたけど、まだ終わりたくないっていう気持ちもあった。


 どうして戦っているんだろう。


 その答えはきっと大切だって思える人達がこの世界にまだいるから。


 その中でも特別に思っている相手がここに来るっていうのには驚いたけど、それも嬉しく思ってしまって笑ってしまった理由のひとつなんだと思う。


 チャットでしかやりとりしたことないのだけれど、いつもあんな感じで背中を押してくれたり、手を引っ張ってくれた。


 逢ったこともない相手だけど、そんなことをいつもしてくれた人に好意を抱かないのは恋人いない歴=年齢の私には無理だった。


 異能を手に入れてから容姿が変わって、変身した後の見た目は怪人だって言ってたけど、秋桜が秋桜なら私は大丈夫だと思う。


 これがどういう気持ちなのかは逢ってみればわかるんだろう。


 最期になるかもしれないこんなときに逢えるかもしれない、というのはある意味運命みたいだって笑ってしまう。


 女の子、というにはもう歳も歳だけど、乙女であるのは間違いないのだから。


 勇気が、力が湧き上がってくる。


 我ながら単純だけど仕方ないんだ、これが私なんだから。


 さあ、それじゃ奇跡を起こしにいこうじゃない!

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