焔、怪人、魔法少女、そしてヒーロー

 さて、繭を飲み込み、それを外装として纏い顕現したわけだが、とりあえずは観察からはじめるとしよう。


 焔の男、超越の魔法少女、喰らう怪人、あとヒーローの4人。


 


 ならば、どうするべきか。


 創造主は生きていて、外装には創造主が繭に流していた操作の術式が通してある。


 もちろん私の意思ですぐにオンオフはできるようにはしてあるわけだが。


 戦いながら他のことをする余裕はおそらくないだろう。


 ならば、


 必要に応じて私が自分で防御はするから、役割分担ということになるだろうか。


 というわけで、創造主が操作してくるまでは防御だけして動かないでいればいい。


 さすがに無防備で受けるには厄介すぎる攻撃が多いからだ。



「ふはははは!覚醒めたか!これで形勢逆転だ!!」



 創造主が笑っているのを無視して、焔の男があの厄介な焔をぶつけてきた。


 魔力で防御はするが、防ぎきれなかった。


 外装にダメージは残り、その熱は中まで伝わってくる。


 これでも結構な力を込めた防御だったんだが、本当に厄介な相手だ。


 魔法少女の魔法も続けて飛んでくるが、こちらも防御してもダメージを抑えきれなかった。


 明らかに知識の上で知っている魔法少女の魔法とはなにもかもが違いすぎる。


 攻撃してくる魔法は見た所も属性のない普通の魔力をそのまま撃ち出しているもののようだった。


 


 受けてみて思ったが、属性がないのではなく、いくつもの属性を織り交ぜているのではないだろうか。


 まさしく次元が違うとしか言いようがない領域の魔法だ。


 どうして生まれたばかりの私の前にこれほどの相手が揃っているのか、運が悪いとしか思えなくなってくる。


 創造主も早く操作してくれないだろうか。


 そう考えているうちに喰らう怪人も仕掛けてきた。


 防御してみるが、防御ごと喰われた。


 右腕での攻撃という部分的なものだから、範囲はそこまで広くはないが喰われて良い気分はしなかった。


 そして、これだとダメージが全て入ってしまったから、やはり一番厄介に思えてしまう。


 ヒーローも仕掛けてきたが、これはこちらの防御でどうにか防ぐことはできた。


 もっと力を込められれば防げなかったのかもしれないが、防げた以上は現状では危険度は低いと思えてしまう。


 それでも、油断はするべきではないのだろう。


 相手はヒーローなのだから。



「どうした!?なぜ動かん!?」



 創造主が声を上げるが、お前自分で操作の術を流したの忘れたのか?


 少し思うところが出た。


 これがイラッとするということなのかもしれない。


 押されていて余裕がなくなっているのだろうが、早く気づいてほしいものだ。



「防御はしてるけど…もしかして、自己防衛本能みたいなのだけで自分の意識がないのかな?」



 そう思っていると、魔法少女が私に都合のいい想像を口にしてくれた。


 これで外装を操作してくれるといいんだが。



「そうか!ならばこれで!!」



 創造主が術を起動することで、外装に魔力のラインが浮かび上がってくる。


 


 そして、


 観察と分析と経験が同時にできるここは私にとって良き学び場になるのだろう。


 この状況では勝つ必要はなく、むしろ敗北が望ましい。


 


 だから、頼むぞ?


 ヒーローたちよ、


 いや、本当にお願いします。





 アリシアの推測が当たっているのかはわからないが、覚醒めた神魔が動かないのにはなにか理由はあるんだろう。


 神魔を生み出した創造主であるDr.ドクターデインがなにかしらの術を起動したと同時に神魔の体に真紅の魔力ラインが浮かび上がってきたのを確認できた。


 おそらく神魔をDr.デインが操作するための術式なんだろう。


 ならば、術者を叩けば神魔も抑えられるはずだ。


 確認して認識したと同時にDr.デインに向けて殴りかかる。


 俺の最速で駆け出したはずだが、辿り着く前に


 俺の拳が神魔の手で受け止められて、そのまま反撃を受けてしまう。


 流すように受けたが、それでもその衝撃はヒーローパワーで強化している俺でも相当響くものだった。


 流石は神の如き力、ということになんだろう。


 その次の瞬間には神魔が高速で移動し、地獄の焔ヘルブレイズを殴り飛ばし、続いて喰らうモノイーターも吹き飛ばしていた。


 二人共壁に叩きつけられて、そのまま崩れてきた瓦礫の下敷きになってしまった。


 アリシアにも口の辺りから魔力の光線を出して攻撃していたが、その光線はアリシアの防御を破ることはできなかったようだ。



「ふはははは!素晴らしい!どうだ!これこそが!私の生み出した神如き力だ!!」



 Dr.デインが耳障りな笑いと台詞を口にするが、確かにたいした力と速度だ。


 だが、


 なにか隠しているのかとも思い、それを確認するためにも少し仕掛けてみるとそうでもないような気がしてくる。


 これは、Dr.デインが操作しているからだろうと思えてきた。


 あくまで術師であるDr.デインは単純な力や速度を高水準な技術で使いこなすことができていないんだろう。


 それなりの技術はあるようだが、あくまでそれなりだ。


 


 とはいえ、俺の攻撃があの神魔に有効打になっていないのも事実だ。


 ダメージを与えられるアリシアの魔法を当てるための援護に回るのが現状の最適解だろう。


 と、そう思った瞬間にさっき二人が吹き飛ばされたところの瓦礫が吹き飛び、下敷きになっていた二人が起き上がってきた。



「なるほど、パワーとスピードは相当だな」


「大丈夫なの!?」


『問題ない、直撃は避けた』



 アリシアの声に喰らうモノイーターは問題ないと答えているその言葉の通り、そこまでのダメージはないようだ。



「まあ、それなりに効いたがな」



 地獄の焔ヘルブレイズはそういうが、あくまでそれなりなんだろう。



「出し惜しみする必要もないな」


『ああ、相手は強い』



 二人のその言葉とともに、機械音声が聞こえてくる。





―――――Are you ready?本当にいいのかい?―――――



『当然だ』



 ―――――Congratulation切に願う、君の選択に幸ありますように―――――






Heat熱くHeat熱くHeat熱くHeat熱く!』


Burn it燃えろBurn it燃えろBurn it燃えろBurn it燃えろ!』



「ああ、邪魔するなら全部灼き尽くしてやるよ」



Burning Heartすべてはブラザーの愛故に、だろ!』





 その音声に応えたと同時に地獄の焔ヘルブレイズから更なる焔が、喰らうモノイーターから黒いなにかが現出し、新たな姿へと変化した。


 それが彼らの強化フォームなんだろう。


 灼熱の如き熱量を纏い、自らが焔そのものとなったかのように、その姿は熱く燃えている。


 その異形の腕は更に禍々しくなり、背中には悪魔のような翼を生やしているその姿は怪人というより他はないだろう。


 どちらも感じる力は凄まじい。


 Dr.デインがその威に動きを止めてしまうくらいには。


 その一瞬に地獄の焔ヘルブレイズの灼熱の一撃が神魔へと叩き込まれる。


 防御はしたようだが、力も速度もさっきまでとは違いすぎる。


 防御した腕ごと灼き斬ってしまった。


 そこに喰らうモノイーターの追撃が迫る。


 これまでも防げなかったものが強化されたものだ、防げるわけがなかった。


 抉れ喰われた部分はさっきよりも大きい。



「バカな!?!?」


「お前のやっていることが俺達にとっても迷惑だからだ」


『覚悟しろとは言わない、ただ、お前にはもう明日が来るとは思うな』



 …悪役のような台詞を聞いていると、わずかに微妙な気分にはなるが、事実である以上は問題ないんだろう。



「二人共悪役みたいだね」


『そうか、正義の味方ではないから問題はない』


「ああ、俺達は俺達のやるべきことをやるだけだ」


「ま、俺達もそうなんだがな」



 アリシアが俺の心の声を拾ったりでもしたのか、そんなことを言うと、二人共気にしてはいないようだ。


 やるべきことをやる、というのは俺達も同じである以上、否定することもできない。


 ともあれ、戦力は神魔は越えたように思える。


 あとは討つのみだ。



『ガンザック、君はDr.デインを頼む』


「そうだな、今の状況なら分担した方がやりやすいだろう」



 地獄の焔ヘルブレイズ喰らうモノイーターの言葉は間違ってはいないんだろう。


 



「ああ、悔しいが俺の攻撃は通りが悪いからな」


『それもあるが、



 喰らうモノイーターのその言葉にアリシアとこの二人のスタイルは


 周りの強さに卑下して、自分で自分を貶めていたことも同時に理解させられる。


 攻撃の通りが悪いのも確かだ。


 それでも俺にやれることはまだある。



「そっちは任せる…頼むぞ、ヒーロー」


「お願いね、ガンザック!」



 地獄の焔ヘルブレイズとアリシアの言葉もまた俺に火を点けてくれる。



「ああ、任せとけ」



 自分を思い出せ。


 俺はなんのために戦っている。


 決まっている…


 戦いの前に家族から勇気をもらった。


 そして今、共に戦う仲間に託されたものがある。


 これまで俺が積み重ねてきたものは無駄じゃない。


 積み重ね、託された想いを受けて、足を踏み出せ。


 これまでよりも強く、そして速く、奴にこの拳を叩き込め。


 迷いは要らない、共に戦う仲間がいるのだから。


 今こそ、打ち抜け。



「ブベラァッ!!」



 妙な声とともにDr.デインが回転しながら飛んでいく。


 そのまま床に何度かバウンドしながら転がって壁にぶつかる。


 それでもすぐに起き上がるのは流石なんだろう。


 だが、手応えはあった。



「クソっ!貴様如き長くやっているだけのヒーローまでもが!このタイミングで覚醒だと!?ふざけるなよ!!そんな簡単に!都合のいいタイミングで覚醒などできてたまるか!!」



 言われて気づくが、力が湧き上がっている。


 なるほど、


 これなら神魔にも通るかもしれない、が、今の俺のやるべきことはDr.デインを倒すことだ。


 生死は流れ次第だが、おそらく


 アリシアはともかく喰らうモノイーター地獄の焔ヘルブレイズには難しいかもしれないことだ。


 ま、あくまであの二人の戦闘スタイルを見ただけでの感想だが。


 さて、それじゃあ、Dr.デインには新たに覚醒した俺に付き合ってもらうとしようか。



「お前の言うように長くヒーローをやっているのが俺の自慢だ。その積み重ねが今ここに実ったってだけなんだろうさ」


「ぐぬぬぬぬ!」


「おいおい、唸り声まで悪役になってるぞ、追い詰められると本性が出るっていうのはお前さんも一緒ってわけだ」


「貴様!私を舐めるなよ!」



 どの口が言っているのやら、だな。


 ま、こういうときは俺らしく言い返してやればいいか。



「お前さんこそ、ヒーローを舐めるなよ?」



 世界に理不尽は溢れている。


 こいつも俺にとってはそのひとつだ。


 だからこそ、ヒーローや魔法少女には守るべきものが多い。


 大切なものを守るために、目の前で傷ついている人に手を伸ばすために。


 たとえ、それがその場しのぎでしかないのだとしても、


 そのために戦い続けている。


 だからこそ、負けるわけにはいかないんだよ。


 明日もまた大切なもの達との日々を過ごすためにも。



「さあ、それじゃあ奇跡を起こすとしようじゃないか!」



 そうして、人々の希望となり、夢となり、世界を、人々とその未来を守る。


 それがヒーローと魔法少女というものなのだから。

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