赤い目の男と赤い目の少女の邂逅
世界は理不尽ばかりだ。
そんなことは理解っている。
社会、会社、人間関係、あらゆるものに理不尽は存在する。
それに加えて、この世界にはヒーローに魔法少女、それに敵対する魔獣や悪の組織なんてのまで存在する。
そんなのに出くわしてしまえば一般人の命なんて無事じゃ済まないことの方が圧倒的に多いだろう。
友人のコルトが創り出した
だからこそ、手の届くところにいる身近な奴らを失いたくないと思った。
それが
俺自身が遊里にとっての理不尽になっていることを皮肉に思いつつも、俺は今日も遊里を離さない。
離れたときに魔獣に襲われたあいつをあのときはどうにか救えたが、次にそうなったときに間に合うとは限らない。
この街のヒーローや魔法少女や警察や駐留軍じゃ対応しきれないことは多すぎる。
いつか俺でも対応できない理不尽が現れたときが来たらどうにもならないんだろう。
そんなことを考えるたびに怒りが積もっていく。
どうすればいい?
コルトの言う夢物語に乗るにはなにもかもが足りていない。
答えが出ないまま日々が過ぎていく。
そんな日々を送る中、俺と遊里の前に俺と同じ赤い目をした少女が現れた。
「無道 遊里に赤司 涼斗だな?」
少女の見た目と口調のギャップから考えると中身は違うものなんだろうと推測はできたが、名指しで来る以上警戒せざるを得ない。
理不尽はどんな姿をして現れるかわからないのだから。
後ろには少女と少年もいるが、そっちは見た限り普通の人間に見える。
「人を名指しで呼ぶお前は誰だ」
なにが目的なのかはわからないが、人目につかない場所で俺達を名指しで呼んできた以上俺達に関係あるのは間違いない。
「ああ、すまないな。俺は佐倉 秋というものだ。コルト・フォルトナーの話を聞いて君達に会いに来た。良ければ話を聞かせてほしい。この二人は連れだ」
「出雲 彩です」
「朝倉 透真だ」
赤い目をしている時点で
それでも確証は得ておくべきだろう。
「コルトの知り合いだっていう証拠は?」
「連絡をとってもいいんだが、君にはこの方がわかりやすいだろうか」
―――――――――メキッ―――――――――
「ひっ!」
少女の姿をした奴の右腕が異形の腕に変化したのを見て、遊里が小さな悲鳴を上げる。
見た目にはどうみても怪人かそういうやつのものだから仕方ないんだろう。
「君にはこれで伝わっただろうか、怯えさせたいわけじゃなかったんだが」
そう言ってすぐに異形の腕を元に戻したところを見ると、本当に証明するためだったんだろう。
なんとなくだが、これまでの言動でこの少女の姿をした奴がコルトの仲間だということが理解った気がした。
「ああ、お前も服用者だってことがな…それでなんの用だ」
「コルトから君達についての話を聞いたんだが、片方の視点の話だけだと予想することはできても判断がつけられないからな。もう片方の視点の話も聞くべきだろうと思ったから本人に話を聞きに来た」
つまり遊里がコルトに話しただろう内容は知っているということか。
「それで、話を聞いてどうするつもりだ」
「コルトはなるべく丸く収めたいと言っていた。できるならそうしたいが、それがどういう形なのかは話を聞かなければわからないと思っている」
こいつ…真面目か?
「俺が話すと思っているのか?」
「少なくとも話す余地はあると思っている。その結果がどうなるかはともかく俺と君がやりあえば周りに出る被害も相当なものになるだろう。その被害が彼女にも及ぶ可能性があるなら君と会話をすることはできる、と踏んでいる」
服用者の力は俺自身がよく知っている。
だからこそ、こいつの言っていることは否定できない。
コルトらしいやり方だと舌打ちしてしまう。
「そっちの二人はお前にとって被害を及ぼしたくない相手ってことか」
「…そうなるな、コルトらしい」
同じような状況で会えばどっちも手を出しにくいことになる。
同じような感想を口にしたこいつにわずかに共感を抱いてしまう。
これもコルトの思惑通りなのかと考えると、反骨心も湧くが抑えるべきなんだろう。
「とりあえず、座って話せるか?」
そう言って近くのベンチを指差すこいつには少なくとも会話をするだけの意思があることは理解る。
ため息が出るが、この流れなら受けた方がお互いにいいのだろう。
「わかった」
腹立たしいが、な。
「そうか、なにか飲むか?」
次に近くの自販機を指さして言ってくる。
気を使っているのか、素で言っているのかわかりにくいが、落ち着いた方が良いのも確かだ。
「なんでもいい」
「わかった、君達は?」
「私も何でも大丈夫です」
「俺もなんでもいい」
「あ、私は甘いので」
遊里だけ指定するのを聞いて、向こうの二人が少しだけ驚いたような顔をした。
そうだ、こいつはこういうやつだ。
「わかった」
赤い目のこいつは全く動じずに自販機で適当に買ったものを俺達に、甘いお汁粉を遊里に渡していく。
「お汁粉!?なんで?こういうときはカフェオレとかじゃないの!?」
「甘いの、とだけだったからな。目についた中で一番甘そうなのがそれだった以上仕方ない。カフェオレが良かったならそこまで指定するべきだった」
「それは、そうなんだけど!」
「ならいいだろう」
「あー、うん、もういいよ…」
そう言って受け取ったお汁粉を手にベンチへと歩いていく。
俺は赤い目のこいつと、遊里は連れの二人と同じベンチに座って飲み物を飲み始める。
「それで話についてだが」
「ああ」
「俺が質問して君が答える形でいいか?」
「・・・」
「君に語ってもらってもいいんだが、おそらく話しにくいだろう?」
「…わかった、聞きたい答えが聞けるとは限らないが、な」
「そこは問題ない。答えなくないこともあるだろうからな」
やりにくい相手、というわけでもない。
むしろ、やりやすい相手だ、と思える。
この場合のやりやすい、というのは話しやすい相手、という意味だ。
こいつの会話はところどころ言葉が飛んでいるようにも思えるが、それは俺も似たようなものだ。
だからこそわかりやすい。
その内容は俺を苛立たせるものもあるかもしれないが、会話の流れ自体はわかりやすい分心地いいものもある、ような気もする。
「まず君は自分が無道 遊里にとって理不尽な存在であると認識しているか?」
「ちょっ!?」
「いきなりそこ!?」
遊里と向こうの連れが驚いて声を上げるが、答えは簡単だった。
「ああ、理解している」
「えっ!?」
「遊里はいちいち驚くな、話が進まん」
「あ、はい」
赤い目のこいつが質問を続ける。
「君はなぜ彼女を縛る?」
「…理不尽に失いたくないと思う存在だからだ」
「その理不尽というのは魔獣や怪物に命を奪われることか」
「ああ」
「…!」
声を上げることはなかったが遊里が驚いている様子が見える。
「ヒーローや魔法少女が守ってくれるならいい。だが、あいつらだけじゃ守りきれなかった」
「だから、君の目が届き、なにが起きても手の届く場所にいれば守れると?」
「ああ、俺よりも強く頼れるやつがいるなら頼るが、現状そういうやつがいないからな」
これは間違いない本心だ。
「君は今後のことをどう考えている」
「…正直ジリ貧だな、今後もこれまで通りにやれるとは限らない。俺でもどうにもできない理不尽が来た時失うことになる可能性もあるからな」
「他のヒーローや魔法少女達と協力することは?」
「考えたこともあるが駄目だな、現状遊里だけなら俺一人の方がやりやすい」
これも本心だ。
「正直俺は失いたくない奴らさえ無事ならそれでいいんだ。生きてさえいてくれれば、無事に明日を迎えてくれるなら希望はあるんだからな」
「それが現状彼女の希望を奪っていることだったとしても?」
「ああ、それでも、だ」
生きて、明日を迎えてくれるならいつか希望はある。
「明日のために今日苦しめということか」
「そうなるな」
「…!ふざけてるの!?」
「そう聞こえるか?」
「聞こえないから聞いてるのよ!」
遊里が怒るのも当然だろう。
それでも譲る気はないが。
「それでその希望というのは具体的には?」
遊里の怒りを流して赤い目のこいつは話を続ける。
こいつはこいつで相当だな。
「遊里が…あとついでにコルトもになるが、俺にとって失いたくないと思う奴らが理不尽に命を奪われることがない状況になることだが、現実的には無理だろう」
「そうだな、現状では無理だろう」
「ああ」
魔獣や怪物が当たり前に存在する以上命の危機はどこにでも存在する。
「だがこのまま続けたとしても君が対応できないだけの理不尽が現れてしまえば同じことだ」
「理解っている」
「ならば、現状での最適解は君と同等以上の力を持つ組織の庇護を受けることだろう」
「ああ、それも理解っている」
「「え?」」
遊里と向こうの連れの少女の声が重なる。
「だがコルトの所に行くにしても、あいつの組織がどれだけの力を持っている?」
「現状俺が把握しているのは俺くらいだな。他の服用者もいるようだが、詳しくは知らない」
「そうか…」
どうしてもそうなるか。
「いいか?」
「ああ、俺は問題ない」
「「え?」」
「場所は移したほうがいいな」
「確か、街外れに多少無茶してもいい場所があったか?」
「ああ、そこなら問題ないだろう」
「ちょっと待って、どういう流れ?」
…面倒だな。
「単純な話だ、俗に言う拳で語り合うというやつだな。俺達の場合は力で語り合うことになるんだろうが」
ざっくりし過ぎな説明だが間違ってはいない。
これがいつかの未来でそう呼ばれることになる俺とこいつの最初の出逢いの話だった。
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