怪人少女の会社の代表

 こうして見ているとこの怪人少女は悪人ではないようには見えてしまった。


 いや、これまでの経緯と目的のためなら手段を選ばないというような言動から勝手に冷徹なんだと思っていたんだろう。


 実際にあの怪物に対してやったことを思い返すとそういう面もあるのは確かだ。


 それとは別に海斗や律達に見せた面もあるということなんだろう。


 人には色んな側面があるということがこうしてみるとわかってしまう。



「ここだ。コルト連れてきたぞ」



 とある部屋の前まで来るとそう言い、ドアをノックする。



「ああ、入ってもいいよ。昼食の準備も出来てるから入ったら手を洗って食事にしよう」



 部屋の中から男の声で返事が聞こえると怪人少女はドアを開ける。


 俺達の方を見て入るよう促してきたので部屋へと足を踏み入れる。


 部屋に入ると料理の香りが漂っていた。


 食欲を刺激される香りだ。



「いい匂い…」


「うん」


「そっちに手洗い場があるからそこで手を洗ったら好きな場所に座ってくれればいいよ」



 この声の主がコルトと呼ばれていた人物らしい。


 ふと見ると怪人少女は手洗いを済ませていた。


 こういう迷いのない行動の速さが冷徹に見える部分なんじゃないだろうか。



「いただきます」



 座ったと思ったら、そう言ってすぐに食べ始めていた。


 意外と腹が減っていたのだろうか?



「腹が減っていたのか?」



 気になってしまい、ついそう聞いてしまった。



「もう昼だからな。あと俺は食事に時間をかけるのが好きじゃないんだ」


「相変わらずだね、もう少し味わって食べてくれてもいいのに」


「味わってはいる、美味いよ」


「食べるの速いけどそう思ってくれてるのはわかるよ」


「そうか、ありがとう」


「どういたしまして」



 なんだこのやり取りは。



「え、なにその長年連れ添ったようなやり取り、恋人とかなの?」


「「違うよね?」」



 そう思ったのは俺だけじゃなかったようだ。


 海斗の言葉に対して目つきが少し怖い律と彩の否定を求める言葉が続く。



「ああ、違う。上司と部下で友人だ」


「うん、違うね。友達だよ」



 それが当たり前というような自然な口調と反応で答えが返ってきた。


 男同士の親友とでもいうような空気と呼吸がその言葉を疑わせない。


 この二人にとってお互いそういうものなんだと思い知らされる。


 それは律達にも伝わったようだ。



「あ、そっか、うん」


「なんていうか、邪推してごめんなさい」


「すいませんでした」



 3人それぞれの反応に対しても当たり前のように怪人少女達は自然に返す。



「気にしなくていい、それよりも冷めるから早めに食べたほうがいい」


「そうだね、僕の自信作だから気にいってもらえると嬉しいな」


「ごちそうさま」


「秋、速いよ?」



 その言葉に促されて口にした昼食は美味かった。


 俺や海斗だけじゃなく、律と彩も残さず食べてしまうくらいには。



「…食べすぎたかな」


「…うん、ちょっと胃がもたれたかな」


「まあ、美味かったし、仕方ねえよ」


「ああ、こんなのが食えるなんて思ってなかった」



 正直な感想だ。


 なんでこんなところでこんなものが食べれるんだ。



「そう言ってもらえると嬉しいね。気にいってもらえたようでなによりだよ」



 コルトと呼ばれていた男が嬉しそうにそう言ってきた。



「それじゃ一休みしたら検査するからね」


「コルト、食器の片付けは終わったぞ」


「うん、ありがと」



 怪人少女は俺達が食べてる間に空いた食器を片付けていたようだ。


 不言実行が過ぎる。



「そういえばさっき秋って」


「ああ、名乗っていなかったが俺の名前だ。佐倉 秋」


「僕はコルト・フォルトナー、よろしくね」


「あ、はい、高科 律たかしな りつです」


出雲 彩いずも あやです、よろしくお願いします」


朝倉 透真あさくら とうま


雨野 海斗あまの かいとです」



 そういえば名乗っても名乗られてもいなかったことを今更ながら思い出した。



「名乗るなら揃ってからの方が一回で済むからな」



 怪人少女の佐倉 秋曰くそういうことだそうだ。



「それじゃそろそろ検査に行こうかな、みんな着いてきて」


「あ、はい」



 コルト・フォルトナーがそう言い部屋の奥に入っていったので、俺達も着いていくとそこにはエレベーターがあった。



「部屋の中にエレベーター?」


「うん、僕専用エレベーター」



 そのエレベーターに乗って、コルト・フォルトナーが起動するとエレベーターが下へと降りていく。


 2階、1階、B1階、B2階…まだ降りていく。



「地下なんてあるんだ…」


「地下6階まであるよ、検査をするのは地下4階だね」


「なんでそんなに?」


「うちはブラックな会社だからね。世間の目から隠すためには防音とかも考えておかないとってことさ。ミサイルが落ちてきても地下2階より下は大丈夫だから安心してよ」



 そこまでの設備と防衛機能を揃えているということはそれだけの危険もあるということなんだろう。



「今のところはそこまで危険でもないんだけど、これからどうなるかはわからないし、できる限り準備はしておいた方がいいからね」



 俺の考えを先読みしたようなタイミングでそんな答えが返ってきた。



「着いたよ、それじゃ検査を始めるね。普通の健康診断みたいなものだから安心して大丈夫だよ」



 地下4階に着いて目に入ったものはわけのわからない装置だった。


 病院のMRIにも似ているような気がするが、それと比べても大規模で複雑なものだ。


 科学技術の最先端とでもいうべきなんだろうか?



「この装置で色々と測るんだけど装置は二つしかなくて2人ずつしか測れないから、他の2人はその間に他の検査をしてきてよ。研究員が案内してくれるからさ。そうだね、一応男女別の方がいいかな?どっちが先にするかは君達で決めていいよ」


「どっちみちやるんなら私達からでいいかな?」


「うん、私は大丈夫だよ」


「そうか、海斗もいいか?」


「ああ、それじゃ俺達は他の検査からってことだし、また後でな」



 そう言って、それぞれの検査で別れてから、終わり次第交代ということになった。


 装置を使わない検査は細々としていたが、そのときに使った小規模な装置も見たことがないものだった。


 採血ひとつにしても一切の痛みもなく、どの検査も流れよく進んでいった。


 ひと通り終わったようで、最初の装置のところに戻ろうとすると途中で律と彩と出くわした。



「もう終わったんだ?」


「うん、海斗達も?」


「ああ、最初の装置のところに戻るところだ」


「そっか、ちょっと不安もあったけど拍子抜けするくらいあっさり終わっちゃったよ」


「こっちもだな」


「そっか、それじゃ、また後でね」


「ああ、また後で」



 こういう感想を聞くと多少はあった不安が少し和らぐ気がする。


 装置のところに戻るとコルト・フォルトナーが待っていた。



「やあ、お帰り、二人とは途中で会ったかな?次は君達の番だよ」


「ああ、わかった」


「よろしくお願いします」


「うん、任せて」



 その後は言われた通りに上着だけ抜いて検査装置に横になる。


 機械音が響き、なにかの光が体に当てられるがそれだけだ。


 しばらくそのままにしていると機械音が止まった。



「終わったよ」


「え、これだけ?」


「うん、検査だからね」



 本当に拍子抜けするほどあっさり終わってしまった。



「二人が戻ってくるまではそこで待ってるといいよ。検査結果もすぐ纏めるから、揃ったら教えるね」


「あ、はい、わかりました」



 程なくして律と彩も戻ってきた。



「なんていうかさ、不安がってたのがバカみたいだった」


「だよな、もっとヤバいかと思ってたし」


「会社自体はヤバいんだろうけどな」


「いや、それはそうなんだろうけどさ」



 ホッとしたこともあってか軽口を叩いてしまった。


 そうしているとコルト・フォルトナーと怪人少女の佐倉 秋が姿を表した。



「揃ったみたいだね、検査結果だけど4人とも健康体だったよ。メンタル面はこれから少しずつになるだろうけど、とりあえず体の方は


「そっか、良かったぁ」


「ああ、一安心だよな」


「ちょっと待って、?」



 安心している律と海斗の横で彩がコルト・フォルトナーの言葉の中で気になったことを指摘した。


 そう確かにコルト・フォルトナーはと言ったのだ。



「うん、だね」


「つまりなにか問題があるところもあったってことですか?」


「彩君と透真君の体の中に


「ポーションの?」


「うん、ポーションは飲めば傷を癒やすだけじゃなくて、体を肉体的にも霊的にも活性化させるんだ。本来ならもう落ち着いていてもおかしくないんだけど、


「それってなにか問題が?」


「単純に体が前より動かしやすくなってるんだよ。ヒーローや魔法少女ほどじゃないけど、一般人よりは体が丈夫になってるっていうか、強くなってる」


「強く?」


「多分力の素養があったんじゃないかな。あとは死にかけたことも影響してるんだろうね。ポーションを飲んだだけならこうはならないし、死にかけたときに強く想ったことがあって、それがポーションの効果と相乗効果を生んだんだと思うよ」


「死にかけたときに…」


「うん、ポーションがその意志に反応して君達の力になったってことだね。逆に言うと死にかけて後が無くて、それでも尚強く想うことができる精神力がないとこうはならなかったってことかな」



 彩と顔を見合わせるとなんとも言えない困ったような顔をしていた。


 それは多分俺も同じだったんだろうと思う。

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