怪人少女の会社説明会

 アフターケアのために数日前に服用者に襲われた少年少女達をデモノカンパニー本社に連れてくること。


 それが今日の俺の仕事だ。



「あの子達の今日の居場所はツールスマホに送ってあるからそこに向かってくれればいいよ。秋も日常生活に体を馴染ませた方がいいだろうし、電車にでも乗っていけばいいんじゃないかな。駅までは会社の車使ってくれればいいからね」



 コルトが言うように服用者の彼から喰らった分のマジックポーション魔法の薬で強化された力の調整がまだ完全にはできていないこともあったので素直に言葉に従って現地まで言ってみた。


 現地に行ってみると4人揃っていたこともあって話がスムーズに進んだのは良かったのだろう。


 顔を合わせるときに一人を除いて顔色が悪そうだったが、話してみると落ち着いたようだ。


 4人ともアフターケアを受けることを選択したことので本社まで連れて行くことにしたが、力の調整がまだ上手くできていないことを考慮していなかったことを思い知らされた。


 彼らに合わせて速度を緩めてみたが、スローペースになってしまった気がして歩きにくかったので、早く慣れるように心がけていこう。


 電車の中で妙なことを言いだした子がいたが、なるほどコルトが言うように彼も傑物だということなのだろう。


 


 律という少女の自分の魅せ方の上手さ、彩という少女の冷静さと判断力、透真という少年の胆力と観察力、そして海斗という少年の適応力。


 彼らはみんな秀でた能力を持っている。


 それに加えて自らの選択で行動するだけの意思も兼ね備えているのだから、将来性があると言えるだろう。


 コルトが言っていたことを思い出す。





「この4人なんだけどさ、できそうならうちでスカウトしたいんだよね」


「本気か?」


「うん、無理強いはする気はないよ。単純に4人とも優秀だし、将来性もあるからさ」


「お前がそこまで言うほどか」


「うん、上手く活かせれば相当な力になると思うよ?」


「そうか、スカウトしたいならするだけしてみればいいだろ。だが、


「もちろん、アフターケアのついでに聞くだけ聞いてみるだけだよ。


「それならいい」


「うん、だからさ。秋はここに連れてくるまでの間に


「・・・?」


「できればスカウト成功させたいからその仕込みってことさ。選択するのは彼ら自身だけど魅力ある職場ってことをアピールすることくらいはしても良いと思うんだ」


「限りなくブラックな会社の魅力をアピールしてどうするんだ?」


「大丈夫だって、人間関係っていうのも魅力のひとつだからさ」


「…わかった。聞かれたらそのまま答えればいいんだな、そのくらいなら大丈夫だろ」


「うん、よろしくね、それじゃ、いってらっしゃい」


「ああ、いってきます」





 そんなことを思い出しながら車を運転して本社までやってきた。


 駐車スペースに車を止めてから、彼らを社内に案内する。



「こっちだ」


「はい、そんなに大きくないとこですね」


「ああ、その分社内のことを覚えやすかったから悪くはない」


「そういうのもあるんだ?」


「広すぎてどこになにがあるかわからず迷子になるよりはな」


「そういうもんか」


「考え方は人それぞれだ。俺にとってはそうだったというだけだ」


「そっかぁ」



 他愛もない話をしながらコルトの部屋へと向かう。



「あんまり社員の人見かけないね?」


「実際に会社として使っているの1階と2階だけだからな。それより上は代表の私室と研究室、あとは社員の居住スペースになっている」


「ああ、ここは3階だから社員の人がいなくてもおかしくないんだ?」


「社員自体少ないのとそれぞれが出張で本社にいないというのもある。俺も実際に会ったことがあるのは代表と警備員と研究員、あと受付職員だけだ」


「え、そんななの?」


「君達もおそらくわかっているとは思うがこの会社は限りなくブラックだ。社員にとってのブラック企業という意味ではなく社会にとってブラックという意味でな。


「・・・!」



 息を呑むような音が聞こえた。



「どういう流れで資金を調達しているのかは俺も詳しくは知らないが、あれだけのものを創り出せるということはそれだけの力があるということだ。創り出した目的については聞いてはいるが、その理由も万人が納得できるようなものではない」


「…あんな怪物を作ってるってことだよね」


「いや、正確には怪物を作ったのではなく彼が怪物になる原因のひとつを作ったんだ。そしてそれは服用したモノそれぞれで結果が変わる。彼が怪物になったのはそれまでの経緯と彼自身の精神性からだ」


「…私がやったことのせいで怪物になったってこと?」


「それもあるんだろう」


「・・・!」



 律という彼女にも自分のやったことに対して思うところはあるようだ。



「君のやったこと、マジックポーション魔法の薬、そのどちらもが原因であり理由でもある。。君を追いかけ回さずにほかを見る、という選択肢も彼にはあったのだから。それを選択することが困難極まりないことだったのだとしても」


「まあ、な…人の感情ってのは簡単じゃねえよ」


「ああ、逃げ出したくなるような理不尽は日常にもいくらでもある。命に関わる理不尽ではないのだとしても、その理不尽は心を殺せるものだ」


「…うん、心が痛いのはつらいよね」


「君のやったことは確かに彼を怪物にする理由のひとつではあった。マジックポーション魔法の薬は彼を怪物にする原因のひとつではあった。どちらかがなかったら彼は怪物にはならなかっただろう」


「…うん」


「起きてしまったことはなかったことにはならない。どれだけ後悔しても過去は変えられない」


「…ならどうしたらいいのよ」



 律という少女が望む答えかはわからない。


 だからこそ、少女を真っ直ぐに見て俺の答えを伝えよう。


 それが



「その答えはそれぞれの考え方によって変わる以上参考になるかはわからんが、俺ならば







 なんで、そんな風に考えられるの。


 なんで、そんな真っ直ぐに言えるの。



「君が望む未来はどんなものだ?」



 そんなのわかんないよ。



「これからも同じことを繰り返したいか?」



 そんなわけない。


 大切な人達を私のせいで傷つけるのはもう嫌だ。



「ならば、もう二度と同じ後悔をしないように君にできることをすればいい」



 わかってる。


 もう、あんなことしない。


 気づいたら誰かが手を掴んでくれた。


 いつの間にか隣にいた彩だ。



「そうか、君なら、いや君達なら大丈夫だな」



 そう言って怪人少女は真っ直ぐに私達を見て微笑んでくれた。


 海斗があんなことを言う理由がわかる。


 


 


 それだけじゃない。


 こんな真っ直ぐな微笑みに惹かれないわけがない。


 嬉しさと気恥ずかしさと大切な人を認められた誇らしさが混ざり合う。


 顔が熱くなるのが自分でわかる。


 隣を見ると彩も赤くなってる。


 お互いの顔を見て苦笑いしてしまう。


 どうやら私達はこの色んな意味で真っ直ぐな怪人少女に惹かれてしまったらしい。


 この会社の代表のやり口にまんまと乗せられたんだって知ることになるのはまた後のお話。

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